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【雷乃発声】かみなりすなわちこえをはっす『カボチャの弁論大会』春分/末候☘️


小学生から中学生にかけての私は、自分の気持ちを相手に伝えることが、おそろしく苦手だった。


教室での発表はもちろんだが、休み時間の友人たちの輪の中でさえ、自分の気持ちをうまく伝えられなかった。


「昨日のドラマ、面白かったよね」
あっ、うんうん。
「この先どうなるんやろ」
あぁ、気になる。
「あの俳優さん、めっちゃカッコいいよね~」
ほんと、すてき。
「私はね、あの人じゃなくってね。友だち役の人」
えっと、えっとね、わたしは・・・


ブツブツと、心の中でつぶやいていた。
言葉にならないうちに、みんなの話題は、もう次へと移ってしまっていた。
楽しそうな皆の輪に入れないのは何故なんだろうか?
子供なりに自己分析をしていた。


脳から口へ、言葉として出る時間が皆より遅い。
こんな事を言うと、どう思われるだろうか?と心配で言えない。
あと一歩が踏み出す勇気がない。


そんな私に中学生の時に試練がやってきた。
校内の弁論大会に出る事になったのだ。
担任の先生が選んでくれて、全校生徒ほぼ800人の前で、自分の作文を読むことになった。
さらに、なるべく原稿を見るなという指示。


クラスの発表でさえ、立ち上がる時に足が震え、発言する時に声が震え、何とか終えてからも、膝の上に置いた手が、ずっと震えていた。


先生に断るために、普段は近寄らない大嫌いな職員室へと向かった。
「先生、やっぱり私には無理です。みんなの前で緊張して話せません」
先生がひと言。
「大丈夫。会場は講堂じゃなくって、畑や」
「エッ?」
「みんなは畑に転がってるカボチャやと思えばいいんや」


それ以上何も言えずに引き下がり、とにかく何度も読んで練習した。
当日までには、少し覚えて原稿から目を離せるようになった。

他のクラスの人の発表さえ耳に入って来ないほど緊張していた。
自分の番になり壇上に上がる。
お辞儀をし、原稿を手にタイトルと○年○組、名前を読み上げて原稿を置き、顔を上げた。


全然、カボチャには見えなかった。
みんなの顔がくっきり見える。
すべて、ぶっ飛んで硬直状態の私。
クラスで一番仲良しのMちゃんとバチっと目があったまま、私の時間はそこで止まった。
「がんばれー」
彼女が念じてくれているのが、ビシバシと伝わってくる。


その後、原稿に目を落とした私は、1度も顔を上げれず、指で原稿をなぞりながら、最後まで読み終えた。
私の苦~い経験は、さらに発言を苦手にさせた。


本/note/言葉   

カボチャ作戦は失敗に終わったが、今もnoteで書き続ける事に幸せを感じているのは、あの先生が私の文章を見つけて下さったおかげだと思う。

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