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公共彫刻を媒介にして考えたい ─「東京プロジェクトスタディ」スタートにむけて─


 2018年から始まったTOKYO ART RESEARCH LAB「東京プロジェクトスタディ」の参加者を絶賛募集中です(〜7/21まで)。居間 theaterがナビゲーターを務めさせていただくスタディ2「東京彫刻計画 -2027年ミュンスターへの旅-」について、どういうことを考えてやっているのか(いきたいのか)をお話しようと思います。
(トップ画像 写真:加藤甫)


◼︎きっかけは2017年の「ミュンスター彫刻プロジェクト」

 「東京プロジェクトスタディ」は〝東京で何かを「つくる」としたら〟という投げかけのもと、3組のナビゲーターそれぞれがチームをつくり、リサーチや実験を繰り返しながらそのプロジェクトの核をつくる試みです。居間 theaterは、建築家の佐藤慎也さんとともに「スタディ2」のナビゲーターをつとめます。スタディではそれぞれの抱える問題意識や追求したいことを出発点に、チームを立ち上げ、議論、リサーチ、試作を重ねていきます。

 居間 theaterが担当するスタディ2は「東京彫刻計画-2027年ミュンスターへの旅-」というタイトルです。このスタディテーマの設定のきっかけとなったのは、2017年に訪れたドイツの地方都市・ミュンスターで開催されていた「ミュンスター彫刻プロジェクト」(以下、「ミュンスター」)に訪れたことでした。居間 theaterと佐藤慎也さんは2017年夏にそれぞれ現地で体験してきました。

(Skulptur Projekte Münster 2017  居間 theater撮影)

 「ミュンスター」はとにかく刺激的で、居心地がよく楽しい芸術祭でした。驚いたのは、作品のバリエーションの豊かさです。モノとしての強度や大きさがあるモニュメントから、映像作品、パフォーマンス作品、アートプロジェクトと呼べそうな作品まで、とにかく幅広い作品が美術館や街のあちこちにありました。そしてそのどれもが、街や建物、人との関係性を持っていました。彫刻という概念・キーワードをもとに、しかし一般的な概念にとらわれることなく、芸術祭の中でさまざまな試みをしているように見えました。(ドイツ語の正式名称は「Skulptur Projekte Münster」(Sculpture Projects Münster )。sculpture≒彫刻という訳語で日本名では使われていますが、より広義に考えることができるかもしれません。)


 そして特に面白かったのは、時間の感覚です。「ミュンスター」は1977年から10年に一度開催されています。過去のアーカイブページを見てみると、77年の頃にはモノとしてのモニュメントが多かった印象ですが、2017年には〝コト〟をつくる作品も多数あり(パフォーマンス含む)、時間の流れとともに、作品も変化しているのだと実感しました。
 また、自転車に乗って過去の作品も見てまわると、より時間感覚が顕在化してきました。作品は街なかに多数現存していて、40年前につくられた作品が堂々と、しかし街と馴染んで置かれていたり、街の人に使われていたり。毎週決まった曜日にだけ橋の下で音楽が流れる作品も残っているそうです。

 作品と場所、作品と街の人、さまざまな関係性があり、それらは時間とともに変化していく。10年に一度の芸術祭は、街と作品の変化を定期観測するような存在のようにも感じられました。

(Skulptur Projekte Münster 2017  居間 theater撮影)

 「ミュンスター」の訪問については、2018年に居間 theaterと佐藤慎也さんとでおこなった振り返り座談会の記事を転載しましたのでこちらをご覧ください。
 ▶︎ミュンスター彫刻プロジェクト2017を振り返る


 「ミュンスター」は主に美術の文脈から生まれた芸術祭だと思いますが、「ミュンスター」を考えることは、パフォーマンス分野出身の私たちにとっても、演劇やアートプロジェクトなどの創作においても、佐藤慎也さんの建築分野においても、きっととても意味があることだという実感を持ちました。作品についてだけでなく、街のあり方やそこで暮らし過ごす人のこと、訪れる人のこと、「芸術祭」という枠組みのこと。
 いくつもの興味をもとに、スタディの出発点にすることにしました。

(自転車で作品をめぐる居間 theater。大きなモニュメントを眺める。)


◼︎彫刻への興味 -時間、空間、からだ-

 2018年、レクチャーやリサーチを中心にスタディは進みました。2018年の記録はこちらにまとまっていますのでぜひご覧ください。
 ▶︎スタディ2アーカイブページ 

 スタディを進め、ゲストにお話を伺ったり、リサーチに赴くにつれ、「彫刻ってすごく面白い」という感覚が生まれてきました。
 モノとしての彫刻の面白さももちろんですが、私たちはやはりパフォーマンス分野の出身なので、彫刻のもつ概念や、周辺のことも面白いように感じます。

 「ミュンスター」でもそうですが、彫刻作品のもつ時間感覚というのは、明らかにパフォーマンスとは違います。つくるまでの長い時間(プロセス)と、つくって街に設置したあとの長い時間。何十年もそこにあり続けることで、彫刻作品自体が時間の層みたいなものを蓄積しているように感じます。

 また、どこかの場所や、街に彫刻を置くことは、少なからず場所との関わりが生まれます。街のなかで彫刻はどう〝いる〟のか。彫刻が置かれることで、その空間はどう変わるのか。その彫刻に出会うと、私たちと街の関わりはどう変化する(またはしない)のか。


 これまで、場所との関わりをいろいろな方法で考えてきた居間 theaterにとって、彫刻を考えることは、パフォーマンスや上演についてを考えることにもつながると確信しています。彫刻を媒介として、時間や空間のことを新たな角度から考えることができるのだと思うのです。

(2018年のリサーチの様子 写真:加藤甫(以下同))

 そして、おそらく、からだのことも少なからず関係してくるはずです。彫刻作品自体は出来上がったモノだとしても、それ以前、つくっている過程にはつくる人のからだの感覚があるはずです。(絵画などでもつくり手のからだにフォーカスした作品があるように)彫刻にも、つくるプロセスのなかにからだという要素があると思うのです。

 また、作品が出来上がってどこかの場所に置かれたあと、また別のからだとの関わりに出会います。それは、彫刻をみる私たちのからだです。直接触れたりすることもそうですが、眺めるだけでも、私たちのからだに感じることがあると思っています。客席から舞台を見ているだけなのに、からだが揺さぶられることがあるように、街のなかで彫刻に出会ったときに、似たようなことが起こりうるのではないか。

 まだはっきりとはわかりませんが、これまでリサーチをしてきたなかで、その〝感じ〟が少なからず芽生えているような気がします。


◼︎東京を考える -「東京彫刻計画」というフィクション-

 そしてもうひとつ。リサーチを進めるうちに、本当にたくさんの・さまざまな彫刻が東京の街なかに点在していることもわかってきました。でも、東京だと普段は見逃しがちなものです。確かにそこにあるのだけれど、無意識に、見ていない状態。
 その理由は、東京という街と私たちとの独特な関係性にあるように思います。つまり、東京の街のスピード感とか、私たちの生活の忙しさとか、情報の多さとか、そういったものの中では、私たちは見る(見える)ものと、見えない(見ない)ものの取捨選択を、自然とおこなっているはずです。
 だからこそ、公共彫刻には、私たちが街と接する(またはしない)ためのヒントがあるのではないだろうか、と思うのです。

 このスタディでは、「東京彫刻計画」というフィクション(設定)を決めました。「東京彫刻計画という芸術祭が10年に一度東京で行われている」という架空の設定をつかって、私たちの周りにある様々な彫刻をリサーチします。

 「東京」という複雑で広い都市をリサーチするのはとても難しいです。そこでフィクションを使って街を見ていくことで、東京を考える切り口にしようというわけです。

 10年に一度という大きな時間の流れの中で街を見ていくとき、街と作品と私たちの関係はどのように浮かび上がってくるでしょうか。そしてあらためて今、どのような関係がありうるでしょうか。

 おそらくこの問いは、私たちの東京での感覚やからだの在りかたを考えることにも繋がります。東京にある彫刻と、ミュンスターにある彫刻の、街との関係性は違うはずです。なぜなら、街が違うから。街のあり方も、歴史も、状況も違うからこそ、そこにいる私たちの感覚も違うはずです。


 「ミュンスター」の在りかたや過去からの変化と比較しながら東京の公共彫刻を探っていくこと。それはきっと、いま目の前にある時代や街に対して、そしてその先(2027年)の「ミュンスター」や東京について思考をめぐらせることができるはず。
 「ミュンスター」の作品がさまざまなかたちに変化してきているように、どの分野だから、という枠組みを超えて、考えてみたいと思います。
 一方で、居間 theaterは彫刻のプロでは全くありません。ただ、先ほど述べたような、彫刻のもつさまざまな面白い要素は、何かをつくったり考えるための、とても面白いヒントになるような気がします。彫刻と、それをつくりあげるアーティストたちへのリスペクトをもちながら、自分たちの目線(時間、空間、からだ……etc.)で公共彫刻を探りながら、創作の種を集めていければと考えています。


◼︎スタディ参加者募集中!!

 
 参加していただく方も、もちろん彫刻のプロではなくて構いません。(もちろんプロも歓迎、むしろいろいろ教えてください!)
 また、2019年度のスタディは、「東京彫刻計画」という設定を使って、改めてキックオフします。街なか彫刻のリサーチはもちろんのこと、今一度「公共」のことを深堀りしていく予定です。
 公共的なテーマを扱ったプロジェクト、街のなかで上演された演劇作品などの勉強会と、公共とアートの分野に詳しい専門家をお呼びするゲストトークなどをおこない、最終的に小作品(上演・イベント等を試作)を発表することを目指し活動を展開します。
 ですので、今年度からの参加でももちろん大丈夫です。

 気になる方は、ぜひ詳細ページをご覧ください。▶︎こちら


 私たちの周りにすでにある、東京の彫刻を出発点として何かをつくる。
そのプロセスを一緒に面白がって進めていければなによりです。

 彫刻を媒介として、街や作品や芸術祭について考えてみたいかた。さまざまな視点で公共彫刻を探ってみたいかた。など、幅広く募集中です。ご自身の興味関心を引きつけながら、楽しんで進めていければと思います。
 東京プロジェクトスタディは7月21日まで参加者募集中です!

(文:居間 theater 東彩織)



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