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「最高峰の米が持つ力を最大限に酒に還元することを使命とする蔵」山忠本家酒造(愛知県愛西市)訪問記

山忠本家酒造

人口6万人、愛知県愛西市に位置する酒造、現在の製造国数は420石。
愛知県は実は製造量全国7位の酒造県、酒造数は42蔵。

昔から義侠といえば「プロ・玄人向けの酒」というイメージが日本酒業界では定着している。しかし技術が進歩して華やかな香り、甘味のある味わいはある程度技術を習得したら誰でも出せるこの時代に、あえて時代に合わせなかった義侠のポジションは代替不可な唯一無二の蔵となっている。

美味しさのトレンドは時代によって変わっていくが、売りやすい酒質や戦略にシフトするのではなく、蔵に脈々と受け継がれている「自分が飲んで旨い酒」というテーマからはブレない。

アルコールは16.5%以上ないと熟成中に味わいの芯が折れてしまうので、熟成に向くような筋肉質なお酒もありながら、原酒低アルコールのアイテムにもチャレンジしている。

中盤から余韻にかけて広がる旨味を主軸にした設計に、時間という縦軸が絡む義侠。

「売れる酒とうまい酒は違う、自分達が納得した酒を造る」というのはこれからの時代のキーワードだと感じる。

蔵の歴史

創業は江戸中期、昭和後期までは月桂冠、白雪の桶売りをしており、ピーク時の製造石数は7000石。昭和終盤に桶売りを全廃し義侠のみの経営に切り替える。東条山田錦との出会いから現在に至る。

義侠のコンセプト

最高峰の米を使用した酒造り、米の持つ本来の力、米の旨味、香り、味の幅、奥行き、余韻の長さ、これらを酒に還元することが蔵元の使命。

原料に勝る技術は無い。
山田社長が尊敬する勝木慶一郎先生(現・京都電子工業株式会社)の言葉。

製造のこだわり

米にこだわる義侠は2021年最新型の精米機を導入、最初に米に触れるタイミングから義侠の酒造りはスタートする。

洗米は全量手洗い、限定吸水、全て10kgずつ小分けし、手洗い。

純米、純米吟醸では12kgずつの箱麹、純米大吟醸スペックは1キロずつの蓋麹を使用。米の味を引き出すため総破精で作り込む。

低温発酵が基本、米の旨味を引き出しながら嫌味のないキレと余韻を目指している。全量800kg以下の小仕込み。

5℃で冷蔵、除湿された空間で搾る、7日以内に瓶詰め、火入れ、全量瓶火入れ、即ミストシャワーで急冷、その後は冷蔵庫での管理へ移行。

義侠の酒米

現在使用している酒米は2種類のみ
・兵庫県東条特A地区山田錦 全体の80%
・富山県南砺農協産五百万石 全体の20%

2023年に初めて愛知県産夢吟香に挑戦予定。

毎年必ず現地に出向き、夏は泊まり込みで蔵人と農作業を行う。逆に農家にも酒造りにも入ってもらい、常にお互い情報を交換し目に見える付き合いを重視している。

ヴィンテージによる高級酒への挑戦

農家の未来に投資できるようにする為のチャレンジとして高額酒へチャレンジ。東条特A地区の山田錦30、40%精米し、20年以上低温で瓶貯蔵された純米大吟醸中汲。小売12万円税抜きにチャレンジ。これは先代から熟成させていたストックが多い義侠ならではの価値創造。

今、日本酒には時間軸が必要だと思う。

義侠の数年間の設備投資とチャレンジ

訪問して改めて、義侠のここ数年の設備投資が凄い。義侠は15年以上飲み続けているが、正直昔はもっと苦味も強かったし、雑味も多かった、それがこの数年間で義侠らしい味わい部分のみ残しながら全体的に洗練されてきているのをはっきり味わいから感じる。

2021年
新中野工業株式会社のダイヤモンドロールを使用した最新型の精米器を導入。3年が経過し、ようやく機械特性を含め、精米の技術が安定。

2022年
9代目山田忠右衛門が居住していた日本家屋をリノベーションし、事務所・直売所を移転。家屋内にキッチン設備とテイスティングルームを導入し、酒の会+蔵見学付を実施できるように整備。2023年に本格的に運用開始し、6度のイベントを開催。

2023年5月
ニューヨークのフレンチ三つ星レストラン Eleven Madison Park (2017年World's Best Restaurantランキング世界一)において「義侠純米吟醸原酒60%」が唯一の日本酒としてワインリストに掲載。

2023BYの造り
佐瀬式による圧搾を止め、酒質の安定と向上の観点から、全量ヤブタ式による圧搾に変更。2022年までは12日以内に行っていたオリ引き→版詰め→火入のサイクルを7日以内に変更。

2024年2月より
ボイラー設備を重油→ガスに変更。(将来的な環境負荷を軽減する取り組みとして補助金が採択され、設備更新)

2024年今後の予定
補助金が採択され、2024BYの造りにおいて、甑と放冷機を更新予定。

義侠の未来図

時代によって「旨い」という概念は刻々と変わって行くが、義侠は時代に合わせる、と言う考えは一切ない。蔵元、従業員が思う「義侠の旨さ」のイメージに近づく為なら良いと思ったことはすぐに取り入れる。

山田社長が蔵に入って20年、今当時の設備は全て入れ替え終わった。

今後の義侠の目標
①日本酒が醸造酒として世界で高い地位を築くこと
②農業がカッコいいと思える世界を目指す
③毎年過去最高の義侠をマーケットに届ける

「原料に勝る技術は無い」

米の味を最大限に引き出す事、農家へのリスペクトを込めた言葉を胸にこれからも義侠は時代に合わせることなく自身の道を突き進む。


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