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効率化される世の中で何を遺すのか、菌の世界寺田本家

寺田本家

創業1657年、寺田本家が目指すのは生命力の有る「百薬の長」。生命のエネルギーを生かした無添加、無農薬のお酒。
世界中のナチュラルワインラバーから愛されている寺田本家の日本酒は世界一のレストランとも呼ばれるnomaで採用されたことは記憶に新しい。


現在生産量は800~900石を守りながら、全体で20人前後で酒造りを行う。
仕込み水は、森からの水を井戸から汲み上げて使用している。硬度120ほどの中硬水、井戸水なので季節で若干の変化もある。

菌の世界を均一にしていない為、毎年、毎ロット味が異なるのが特徴だ。
均一を良しとしない自然なものづくり、海外の人からは「NatureSake」と呼ばれている。

「酒は百薬の長。無添加で作られるお酒は、人の役に立つ」

自然酒造りがスタートしたのは先代の故・寺田啓佐さんの病気体験。それをきっかけに添加物だらけの日本酒造りを見直し「五人娘」が生み出された。

そして先代の遺志を24代目当主・寺田優さんが引き継いだ。

寺田本家の特異点
①無農薬の米を使う
②米本来の味を活かす高い精米歩合
③無添加・菌の自社培養

使用米は全て無農薬、美山錦、雪化粧、千葉錦、コシヒカリなど昔のお米である在来種を用いる。東北や蔵付近の契約農家の米を使いながら、自社田は全体使用量の5%、自分たちでも米作りをしながら年々の作柄を感じて造りに活かしている。

通常の酒造りでは、必要な菌のみを使用したい為、徹底的な管理が重要。
しかし寺田本家では、さまざまな菌が働く。

雑菌歓迎、ブレがあって良い

自然酒だから、菌の多様性を活かし自然に働かせたい、生まれる味のブレも大切にする。

管理する酒造りではない自由な酒造りが寺田本家の独創的な味の酒を生み出す。自然界には「良い菌」「悪い菌」というものは存在しない、人間の都合にとって、良いか悪いかだけ。全ての菌を活かす酒造りが寺田本家の考え方だ。

発酵の街、何を遺すのか

蔵のある神崎町は以前は7軒の酒蔵が存在した。米どころで湧き水もあり、利根川が近い為、酒を舟で江戸に出荷するのにも便利だった。
しかし現在残っているのは2軒のみ。

今では想像もつかないが、昔はメインストリートに映画館があった。現在の人口は6000人を切った。

メインストリート

昔は感覚だけが頼りだった、これは鮨匠の中澤親方も同じことを言っていたが、昔は感覚だった、今は化学に置き換わった。職人として感覚を失うことの恐怖感を持たなければならない。

酒造り唄もその一つ。昔から各酒蔵に伝わる唄は機械化されて今ではほぼ全ての蔵で途絶えているが寺田本家では遺している。

かつては作業ごとに唄があった、作業時間のタイミング調整、蔵人の一体感、昔から伝わることがここでは存続している。

何でも効率化される世の中で「ものづくり」とは何を成すかは重要だが何を遺すのかが中心には必要なのではないかと今回の訪問を経て感じた。

徹底管理の日本酒ではなく、様々な菌との共生酒。酒造りに不要な菌も共存させよう、という考えが、寺田本家しか生み出せない世界観を創り、それは万人が好む味ではないかもしれないが、刺さる人に深く突き刺さる。

今の日本業界が進化する方向と真逆に進む寺田本家。ただ日本酒は進化の過程で失ってきたものも間違いなくあるはずだ。

それを寺田本家は宿しているのかもしれない。


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