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「伝統とモダンが共存する日本酒蔵」油長酒造(奈良県御所市)訪問記

2024年3月訪問

油長酒造 / 奈良県 御所市(ごせし)

『風の森(かぜのもり)』や『鷹長(たかちょう)』などの日本酒を醸す酒蔵、油長酒造(ゆうちょうしゅぞう)さんを訪問してきました。

油長酒造がある御所市は、菜種油の製造が盛んであった町で、『油長』はその地で製油業を営んでいた油屋 長兵衛に由来しています。


御所市の伝統的な家屋を背景にフレッシュな風の森を味わう
御所市の伝統的な家屋を背景にフレッシュな風の森を味わう

搾りたての味わいを、家庭でも

油長酒造の代表銘柄『風の森』は、お酒造りの際にあまりお米を磨かず、搾りたての味わいをご家庭で楽しめるように、火入れをしない生酒(なまざけ)スタイルの日本酒です。

日本酒を飲み始めた人から日本酒好きまで、幅広い層に人気があるお酒で、生酒特有のピチピチした液体とさらっとした飲み飽きない味わいに、全国でリピーターが続出しています。

このフレッシュな状態を遠方に届けることができなかった時代には、こういった生酒は酒蔵、または周辺地域のみで親しまれていましたが、冷蔵設備が家庭にも普及した現代ではそれが全国で楽しめるようになりました。

地元で育てたお米にこだわった酒造り

今から約26年前にスタートした風の森ブランドは、酒蔵のある御所市から車で約15分南に下ったところにある地名、『風の森峠』から名づけられました。

東西を山に囲まれたこの地域は、その地域的特徴から常に風が吹いており、日本書紀にも登場するこの地には、2600年前より風の森神社が既にあったそうです。また、常に風が吹きすさぶ様子から、『風の神様が住む場所』として古来より崇められていました。

実際に降り立つとその地名通り涼しい風がやむことなく田んぼを吹き抜けているので、湿気を好まない農業には最適な地域であると感じました。

またこの歴史ある地域と風景を守るため、また地元農業の復興を行い未来へ繋いでいくために、油長酒造では地元で栽培されたお米にこだわり酒造りを行っています。


水瑞の焼き印が押された酒造道具と桶
水瑞の焼き印が押された酒造道具と桶

この地でしか表せない日本酒『水瑞(みずはな)』

水瑞(みずはな)とは、物事の初まりという意味があります。
日本酒発祥の地と言われる奈良県では、当時の酒造りに関する書物がいくつもあり、水瑞はその文献を頼りに油長酒造が当時の製法を再現し、現代に蘇らせた銘柄です。

現在は2種類の「水端」が油長酒造によって造られています。
1つは現存する日本最初の民間の酒造技術書、『御酒之日記』に記された、夏場に安全に酒造りを行うための技法を使用した 『水瑞 1355』。

もう1つは、当時寺院にて酒造りが行われていた背景から、寺院の日常が記された『多門院日記』より、冬場に安全に酒造りを行うための技法を使用した『水端 1568』です。多門院日記には現代では主流となった『三段仕込み』が記されています。


多六(たむい)日記を元に水端に使用されている甕
多六(たむい)日記を元に水端に使用されている甕

「水端 1355」 は、旨味、酸味共にとても高く、アルコール度数も12度と高くないため、デザートワインのように楽しめます。

「水瑞 1568」は、夏場の仕込みより辛口に仕上がっていて、甘み、酸味だけでなく爽やかな香りも楽しめるお酒となっているそうです。

両銘柄に記載の数字は、参考にした文献が書かれた年号を表しています。

より奈良らしくを表現『大和蒸留所』

奈良は生薬の発祥の地と言われていて、ボタニカルが豊富にあります。
蔵がある御所市には県立の薬草園があり、薬に根差した街です。

かつて薬草酒であったジンを、奈良に育つ最古の柑橘、大和橘をメインのボタニカルに使用してつくり、奈良らしさを表現しています。

油長酒造では、6年前の2018年から「橘花ジン」の生産を開始しました。
生産量は年間で約1万本程です。IMADEYAでは、この「橘花ジン」を自家樽熟成したものをIMADEYA SUMIDAなどの角打ちにて提供しています。

今回の訪問の際、山本社長が
大前提として、油長酒造がやっていかなくてはいけない事、ポリシーは
「より奈良らしく、他の誰よりも奈良らしく、どこの奈良県の酒蔵よりも深く奈良らしく」とおっしゃっていました。
その言葉がとても印象に残っています。

その言葉通り、風の森や水端、そして橘花ジンで奈良らしさを表現しています。

蒸留機
橘花ジン 一閃を試飲させていただきました。
通常の橘花ジンを濃縮しつくられた特別なジン。
華やかな柑橘の香りがとても印象的です。
油長酒造代表、山本社長(画像左)
油長酒造代表、山本社長(画像左)

100年後に繋ぐ酒造り

油長酒造では、現在3件目となる酒蔵を風の森峠の近くに建設中(2024年3月現在)。
山麓醸造所と名付けられる予定の新醸造所は、建設に地元の杉が使用されており、テラスも建設中のため風の森を見渡しながら、お酒を楽しむことができるような場所にしたいと代表の山本さんは語ります。(蔵見学については未定)

建設中の蔵があるのは、風の森峠でも急な坂を上った先にある場所で、近くには山で濾過されたミネラル豊富な水が湧き出ており、その水が酒造りに使用されるそうです。

またこの醸造所で使われるお米は、地元の農家の後継ぎ問題を応援する取り組みの一環として、日本酒を販売する全国の酒屋が集い農家さんのお米を購入、そのお米を風の森のスタイルである高精白、生酒で醸していく日本酒となるそうです。IMADEYAも応援すべく、その取り組みに数年前より参加しています。

油長酒造の発展だけでなく、酒蔵と強く紐づき古くより大事にされてきた奈良の地域や歴史を次の世代へ繋いでいこうというこうした活動は、奈良県を真に思い、全国に人気銘柄を届ける油長酒造だからこそできることだと実感しました。

IMADEYAの役割

風の森といえば、冒頭でも触れたとおり様々な方に人気の銘柄です。
ですが、その「人気の銘柄」を人気だからという理由だけでなく、その日本酒の後ろにあるストーリーを伝え、蔵元やその地域、歴史まで好きになってもらえるような伝い手になること、そうすることでこの歴史ある地域や酒蔵に貢献できる酒屋としてあり続けたいと思いました。

油長酒造さんのお酒一覧


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