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『かげきしょうじょ!!』をオススメしたくて夜も眠れない。

宝塚歌劇団というものをご存知だろうか。日本人ならば観たことはなくても一度はその名を聞いたことがあるという人がほとんどだろう。
 宝塚歌劇団とは、兵庫県宝塚市に本拠地を置く歌劇団である。その歴史は100年を超え、劇団員は全員未婚の女性のみで構成された世界でも類を見ない歌劇団である。
 私は大学生の頃に宝塚歌劇と出会い、その沼に頭の先までどっぷり浸かっているのだが、そんなヅカオタ(宝塚オタク)の私が先日出会った素晴らしい漫画を今回は紹介しようと思う。

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 それがこの斉木久美子先生の『かげきしょうじょ!!』である。白泉社の「MELODY」で現在も連載中で11巻まで刊行(2021年9月現在)されている。もともとは集英社の「ジャンプ改」にて連載されていたが、その後同誌の休刊に伴って「MELODY」に移籍となった。「ジャンプ改」で連載されていたものを再編集したのが上の画像の『かげきしょうじょ!! シーズンゼロ』で、こちらは上下巻で刊行されている。

大正時代に創立された「紅華歌劇団」は、未婚女性達のみで構成され、美しい舞台で人々の心を魅了させる劇団である。神戸にある劇団員の育成を目的とした「紅華歌劇音楽学校」では、毎年難関を突破した女学生が入学してくる。渡辺さらさをはじめとする第100期生は、希望や葛藤を抱えながら未来のスターとなるべく、日々奮戦する。(Wikipediaより引用)

 上記がこの漫画のあらすじなのだが、主人公たちの通う「紅華歌劇団」は「宝塚歌劇団」が、「紅華音楽学校」は「宝塚音楽学校」がモデルになっている。宝塚ファンであれば作中に見覚えのある風景が登場することが多々あるだろう。
 つまりこの漫画は紅華(=宝塚)音楽学校を中心に、未来のトップスターを目指して切磋琢磨していく少女たちを描いた青春群像劇なのである。
 ヅカオタなら頭で考えるより先に手が動いている(ヅカオタとはそういう悲しい性を持った生き物だ)だろうが、私は宝塚歌劇を全く知らないという人にも是非オススメしたい。
 紅華と名前を変えてはいるが、作中でされる音楽学校や歌劇団の説明はほぼ現実の宝塚歌劇団に即している。つまり、この漫画を読んで紅華歌劇団のことを知れば、それはもう宝塚歌劇団を知ったも同然なのである。

そして何より、宝塚歌劇がモチーフということを抜きにしても漫画として非常に面白い。特にキャラクターにバリエーションがあって魅力的である。

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 上の画像の少女が主人公の渡辺さらさだ。身長178cmの長身で、幼い頃から「ベルサイユのばら」のオスカルを演じることを目標に紅華音楽学校に入学した。
 過去には歌舞伎の名家・白川家で日本舞踊を習い、もともとは歌舞伎役者を目指していたがある理由によってその夢を諦めてしまったという過去を持つ。

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 そしてこちらがもう一人の主人公でもある奈良っちこと奈良田愛である。彼女はJPX48(AKB48がモチーフ)の元メンバーという異色の経歴と注目度を引っさげて紅華音楽学校に入学してきた。
 過去のとある事件がきっかけで極度の男性恐怖症でもあり、それが理由でJPX48を強制卒業になっている。

 主にこの二人を軸に物語が展開していくわけだが、この二人の見せ方がよくできている。
渡辺さらさは天真爛漫で天然な周囲を巻き込んでいく「動」のキャラクターなのに対し、奈良田愛はクールで人見知りな「静」のキャラクターとして描かれている。
 作中でも高い目標とそれを叶えるための意思を持って突き進むさらさと、迷って悩んで自分の道を模索する奈良っちという構図になっている。キャラクターの内面を描写するモノローグや心情の変化などは「静」のキャラクターである奈良っちの方が圧倒的に多い。
 少年漫画で例えるなら、さらさはナルトでありダイであり炭治郎であるのに対し、奈良っちはサスケでありポップであり善逸なのである。
 もしも主人公が渡辺さらさか奈良田愛のどちらか一人であったら、これほどまでの物語の広がりは出せなかっただろう。ここまで尖った盛り盛りのキャラクター設定にできなかったとも思う。
 学園モノの群像劇らしく、主役二人でフォローできない部分は同級生や先輩だちで補完しているのだが、そうしたサブエピソードもこれまた心を打つものが多い。年頃の少女たちの持つ脆さと儚さ、そしてそれでも立ち上がっていく強さを紅華(=宝塚)の夢を壊さずに描いている。
 サブエピソードでいうと、単行本4巻に収録されている冬組トップスターの里美星の学生時代を描いたエピソードと、単行本5巻に収録されているさらさたち100期生の先輩である99期生の野島聖を描いたエピソード、そして単行本9巻と11巻に収録されている歌舞伎役者の15代目・白川歌鷗の娘である丁嵐志織のエピソードが好きだ。

 2021年7月よりアニメ化もされた『かげきしょうじょ!!』だが、現在なんとマンガワンという漫画アプリで10月1日まで期間限定公開されている。しかも、1巻分は無料で読める。それ以降は毎日無料配布されるライフか、課金やミッションで手に入るSPライフを使えば読むことができる。

 注意すべき点としては、公開されているのはMELODYに移籍してからのエピソードのみなので、ジャンプ改で連載されていた『がけきしょうじょ!! シーズンゼロ』のエピソードは公開されていないということだ。
 ちなみに私はマンガワンで無料分を読んだ後、すぐにKindleでシーズンゼロ含めた全巻をポチった。

 もしこの記事を読んでほんの少しでも興味が湧いたのであれば、無料分でもいいから読んでもらいたい。アニメでもいい。何にせよ、紅華歌劇団を通じて少しでも宝塚歌劇の素晴らしさと尊さを世界中の人々に知ってもらいたいのだ。
 そして少しでも宝塚歌劇というものに興味があれば、是非とも劇場に足を運んでもらいたい。男だとか女だとかは関係ない。私は三十路手前の野暮ったい男だが、あの世界に魅了された。
 扉の向こうには夢の世界が広がっていると私が保証しよう。


【余談の時間】
 そのうち時間ができれば私が宝塚歌劇と出会ったきっかけもnoteで記事にしようかと思っています。
 ちなみに私の初観劇は2014年の宙組公演、凰稀かなめさん主演の『ベルサイユのばら-オスカル編-』でした。嗚咽するほどの大号泣でした。あれは一生忘れない。

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