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法人向けサービスで「CX」を活用する難しさ

こんにちは。マネーフォワード クラウド経費の今井です。前回のnote「マネーフォワード クラウド経費はCXをどう測っているか」では、SaaSにおけるCX(カスタマーエクスペリエンス)の測定方法を中心に、以下についてお話ししました。

・経費精算サービスでは、経費精算に関わる人々の「負の解消」が目標
・経費精算における「負のありか」を把握するため、CXを測定・分析
・例えば、企業やサービスに対する愛着や信頼の度合いを示すNPS(顧客ロイヤルティ)などを指標にしてCXを測定している
・これにより「負」や「カイゼン」のポイントの可視化が進んでいる

次のポイントは、私たちが扱っている法人向けサービスにおいて、CXカイゼンを行った後、企業の「購入する」「利用を継続する」という意思決定にCXがどう生かせるかと言う点です。

個人向けサービスのCX

コンシューマサービスではNPS(Net Promoter Score:顧客ロイヤルティ)の活用が広がっていて、Webサービスに限らず、リテールなどの業態で利用/活用されている事例をよく見かけます。

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※PRESIDENT Online「なぜNetflixは解約しても再開したくなるのか」より引用

先日もサブスクリプションサービスに関するNPS調査が出ていました。(この調査では家計簿アプリの「マネーフォワード ME」が高いスコアを出していました。ちなみに私は一切関わっていないです!)

動画配信の分野では、Netflixの凄さはもはや散々語られているのですが、やはりサービスの質も高いと感じます。コンテンツの良し悪しはさて置いて、動画プレーヤーの操作にストレスがなく、動画の再生が速く、他のサービスよりも一段優れていると感じます(「イントロをスキップ」などわかりやすいポイントもあります)。

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※PRESIDENT Online「なぜNetflixは解約しても再開したくなるのか」より引用

また、Netflixは課金の停止がものすごく簡単にできます。サービス提供者として「課金停止させたくない」という心情はすごく理解できますが、あえて課金停止をとても簡単にさせることで、「また課金してもすぐ止めればいい」と再課金するときの心理的ハードルが低くなります。サービスの良さをとてもよく表している調査結果だと思います。

法人向けサービスのCX

一方で法人向けサービスのCXは、応用が始まった段階で参考になる活用事例がまだ少ないように感じています。

少ないながらもよくある使われ方として、顧客の状態を表すリトマス紙のように、ヘルスチェックの1項目として使われていたり、スコアに組み込まれたりもします。先進的だと思った例では、海外企業の資金調達のドキュメントで、プロダクトの良さを端的に表すためにNPSのスコアが載せていたことなどがあります。

法人向けサービスでCX活用が難しい理由
もっとCXを活用する方法はないのか、明確なゴールを描けないのかということを感じています。

CXが向上することで・・・

- 継続率が向上する
- アップセルが行える
- リファレンスが得られる
- 紹介案件が増える

あたりが期待できそうですが、これらを明確に目標として設定できるかというと難しさを感じていて、収益への直結性が不確かです。その理由は意思決定プロセスの違いによるものだと考えています。

「法人単位」での意思決定は少し複雑
個人であれば、購買の意思決定はとてもシンプルで、本人が決めることがほとんどです。高額な商品の購入検討であれば「家族に相談する」くらいではないでしょうか。

一方、法人の意思決定プロセスはもう少し複雑です。小規模な会社であれば社長の一声で決まったりもしますが、ある程度の規模であれば、以下のようなプロセスが複雑に絡み合います。

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企業が購買を決定する際には、必ず合意が取られます。一般従業員には、現場の業務フローの確認や特定部署でのトライアルで合意を取り、その結果をもって意思決定者に相談し、合意が取れれば意思決定に進みます。

法人の購買の意思決定

また、誰が購買の意思決定の主体者かによって、各レイヤーごとのサービスに対するロイヤルティにもある傾向が現れてきます。主体者は「意思決定者(役員/部長)」と「管理者(経理/情報システム等)」の2通りが考えられます。

トップダウンの購買

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一つは意思決定者が役員や部長で、「サービスのビジョンに共感する」「コストの削減」「人脈」などを重視し意思決定したトップダウンの購買です。その場合、管理者は意思決定者の方針に従ってサービスを選定しており、その方針に従いつつも主体性はありません。

エンタープライズ領域でよく見られますが、従業員は現場の要望を組み上げた意思決定ではないため、無理な運用があったりしてロイヤルティが非常に低いということが珍しくありません。

管理者(経理/情報システム)主導の購買

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もう一つは、運用を担当する管理者がサービス選定をし、上申して購買して利用しているケースです。この場合は管理者は自分達に最適な選択をしたことから、ロイヤルティは高いケースが多いです。

意思決定者もある程度納得している、また管理者がある程度現場業務に沿った運用になっているため従業員もそこまでの不満はありません。一般的にもっともよく見かけるケースです。

従業員のロイヤルティが高いケース

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従業員のロイヤルティを計測して、システム管理者よりも実は従業員のロイヤルティが高いケースがあることもわかりました(ロイヤルティの測定方法は前回記事で紹介しています)。

もしかすると意思決定者は「コストが高い」と思っていて、ロイヤルティは低いかもしれません(高いと思いつつもやめられない、という状況はある意味理想的なプライシングかもしれません)。

また、管理者はなかなか大変な思いをしてシステム運用をしているかもしれません。我々の提供するクラウド経費でも導入開始時の運用設計や組織変更に伴う作業に手間がかかる場合、ロイヤルティが低いこともあります。

一方で、現場の従業員は便利に使っており、実はもっともロイヤルティが高い、そんな状況が存在します。

そして重要なポイントは、管理者は従業員のロイヤルティを知らないことがほとんどなのです。従業員がどんな使い方をして、サービスに対してどんな感情を持っているかをよくわかっていないのです。従業員からの質問に対応することはあれど、定量的に全体像を把握していることは非常に少ないです。「社内の問い合わせが多くて大変」くらいに思っているかもしれません。

上記に当てはまらないケースで、マネーフォワード クラウド経費を導入しているある企業がサービスの利用状況を社員にアンケートで訊いたところ、満足度が高いことがわかり、導入担当者が社内で表彰されたということがありました。この話を聞いた時、カスタマーサクセスを体現している例だなと思って非常に嬉しかったのですが、ポイントなのはアンケートを取るという行動があったことです。これによって従業員のロイヤルティの高さが可視化されたのです。

従業員のロイヤルティが高いケースはどの程度存在するのか

従業員のロイヤルティが高いケースは、実際にどのくらい存在するのでしょうか。以下はマネーフォワード クラウド経費導入企業における調査で、管理者と従業員のNPSスコアを比較した企業数の割合です(10pt以上の差があった場合のみカウント)。

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※マネーフォワード クラウド経費を利用している企業の分布

1.従業員の方が管理者よりも高い 35%
従業員のロイヤルティが高いケースは結構あります。この場合、管理者のロイヤルティはそこそこorあまり高くない場合が多いです。この場合、退会のリスクが高まるのですが、例えば後述する打ち手を実行することでロイヤルティが高められる可能性があります。

2.管理者と従業員のロイヤルティが同程度 30%
この場合は差がないため、全体的なロイヤルティ向上が課題です。

3.管理者の方が従業員よりも高い 35%
管理者は気に入って使ってくれているのですが、社内周知が十分ではないケースが考えられます。従業員の活動度を上げる打ち手が効果的だと考えられます。

顧客ロイヤルティを上げるためにできること
顧客ロイヤルティを上げるためにできることとして、カスタマーサクセスが管理者にアプローチし、従業員のロイヤルティが高いことをインプットする方法があります。

そうすると、管理者自身にもロイヤルティにプラスの効果があり、かつ意思決定者に報告したり、従業員へのサービスをより良くしようとする動機付けになる可能性もあります。

例えば意思決定者は、「コストが高い」と思って別のサービスに切り替えたいと考えていた時に、従業員のロイヤルティが高く、満足して利用している事をデータで示せれば、切り替えを思いとどまる可能性は高いです。

最終的に意思決定者、管理者、従業員全てのステークホルダーのロイヤルティが高くなれば、購買の意思決定において反する人がいなくなり、非常にシンプルになります。利用数増加やアップセルの可能性が高くなり、CX向上と企業の購買の関連が測りやすくなります。

さいごに

コンシューマと比較してB2B SaaSの場合、購買の意思決定が個人で完結しないため、CXの向上が再購買や口コミに直結しづらい傾向があると考えます。意思決定のステークホルダーと構造を意識してCXを設計していくことで、CXの成果が計測しやすくなるのではないかと思います。

お知らせですが、12月9日(月)に「Customer Success Cafe ~SaaS事業の成長を支える「サクセス・イネーブルメント」~」というイベントで、マネーフォワード クラウド経費におけるカスタマーサクセスの取り組みについてお話しさせていただきます。ご興味がある方はぜひお越しください。

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今井義人@マネーフォワード クラウド経費

マネーフォワードクラウド経費本部の本部長です◀『マネーフォワード クラウド経費』の立ち上げ◀ミイル株式会社でPM◀Apple Japanでチャネル戦略

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「マネーフォワード クラウド」に関わる人々が、"プロダクトだけでは伝わらない想い”を言葉に綴りお届けしていきます。
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