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「香港領事 佐々淳行」を読んで考えたこと

たまたまなんでしょうが、香港でのデモが激しくなる中で、何故かハノイで出会ったこの著書。当然、香港が荒れた理由も時代背景も全く違うのですが、ベトナム戦争時のサイゴンにも立て籠もったという紹介から「これは是非読んでみなければ!」と手にとってみました。

最初に感じたのは、当たり前ながら時代背景の大きな違い。著者の佐々氏が香港に赴任したのは1965年、第二次世界大戦が集結してまだ二十年しか経っていない香港で著者が最初に担当した仕事は日本軍人の遺骨収集。しかも、「香港人は日本の占領期を憎んでいる」「イギリス人にも元軍人が沢山いるから慎重にやらないと大変」という時代なのです。更には日本から来る人も「元内務省」やら「元軍人」やらの政治家や官僚など、まだ戦後間もない時代の風を感じられます。

そして、文化大革命、ベトナム戦争という時代背景も受けて1967年に勃発する「香港暴動」、香港では「六七暴動」と呼ばれる事件です。同時期に文化大革命、ベトナム戦争、日本でも安保闘争など大きな事件が連続したせいもあり、日本人の間ではあまり知られていない、香港が荒れた時代。文化大革命の熱気と共に武力行為も辞さない行動を開始した「香港左派」「北京派」と対立する英国警察、軍事介入も辞さないかという中国共産党政権との対峙、在留邦人の安全対策に奔走する総領事館など、その描写は詳細で、時代の熱が伝わってきます。それに先立つ「マカオ暴動」も、暴動鎮圧後にマカオ統治における中国とポルトガルとの立ち位置が大きく変わったことなど、今まで知らなかった歴史的経緯も知ることができました。

そして著者は休暇で立ち寄っていたサイゴン(今のホーチミン市)で、ベトナム戦争のターニングポイントの一つとして有名な「テト攻勢」に直面。テト正月ということで領事館員も休みでかなり出ている中、総領事館に立てこもり、不慣れなベトナム、サイゴンの地で市街戦をかき分けての在留邦人安否確認活動などの記録は、当時の総領事館の内部のドタバタぶりもわかる、なかなかに貴重な記述です。

その他にも、なかなか外からは知り得ない外務省、特に在外公館の仕事ぶりが、結構生々しい批判も込みで描かれていたのは興味深かったです。総領事館に振りかかる多種多様な「便宜供与」の仕事などは、実は自分も某総領事館に勤めていたことがあるので「あるあるネタ」として楽しめたところも沢山。この本の元ネタである連載が執筆されたのが香港返還と同じ1997年ということで当時から20年ほど時間が経っているとは言え、ほとんど皆実名で結構ぶっちゃけ書いてあるなあとも。

かなりの微に入り細に入った記述されているこの著作からは、著者が随分マメに日記をつけていたのだろうと思わされ、当時の香港やサイゴンの様子を知る上でも勉強になりました。その軽妙なタッチであっという間に読了できました。意外と知られていない1960年代の香港の歴史の記録としても、十分に面白い読み物でした。

11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。