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ベトナムのLGBT、同性愛者を取り巻く環境の変化に驚くの巻

ベトナム・ハノイには都合11年以上も住んでいる中で、あまり変わらないものもあれば、自分の気づかないところで、いや自身のアンテナが低くて気づかない内に、大きく変わっているところもあります。その一つにはベトナムのLGBT事情、特に同性愛に関する考え方があります。

現在筆者はHIV/AIDS治療・予防に関する仕事をしているということもあって、こういった話題と接することが多くなっています。というのも、従来は売春、麻薬常習者の針の回し打ちなどがHIV感染経路として大きかったベトナムですが、近年では男性同性愛者(MSM)間での性交渉がHIV/AIDS感染経路として急激に増えてきているからです。ある調査結果に関する報道では、ベトナム全国にはMSMが約17.3万人、そしてHIV感染率が2016年の7.5%から2017年には12.2%にまで上昇。ハノイでは更に高いといいます。この話はまた別の機会に書ければと思います。

こうした傾向もあり、各国支援団体やベトナムのHIV対策機関の多くが、MSMを対象とした活動、啓蒙などを行っています。それは素晴らしいことなのですが、驚くのはその表現のオープンっぷりというか、何というか。例えばこちらはハノイ市疾病管理センター(CDC)からリンクするあるページ(このノートの表紙の写真はここから取りました)。HIV/AIDS治療、予防に関する情報のページなんですが、いきなり良い体してる若いベトナム男子二人が抱き合うようにしてこちらにカメラ目線な写真は、幾らアメリカUSAIDの支援を受けているとはいえ、「ハノイ市人民委員会保健局」直属機関のウェブサイトからいきなり飛んでくる画像としては、インパクトは相当大です。それ以下も写真だけ見てると「あれっ、ちょっと職場とかで見ちゃいけないページに来ちゃったかなあ・・・」と思わされる写真が続きますが、内容はきちんとHIV/AIDS治療や予防に関する内容ですので、職場等でも堂々とご覧ください(ベトナム語ですが)。

UNDPとUSAIDが出したベトナムのLGBTに関する報告書(2014年)を読むと、2000年代は同性愛を「社会悪」と括っていたのに対し、2010年代に入ると急速に同性婚の非合法化、性転換の民法での定義(合法化)など、社会も法律もLGBTへの配慮が進んでいるように見えます。同報告書では、そもそも歴史的に見て同性愛などが「普通ではないし偏見はあるが、非合法や悪とまで排除もされてない」、ベトナム社会の近代化以前のLGBTへの比較的寛容な姿勢も記述があり興味深いです。

もちろん、同性愛者を始めとしたLGBTの人たちへの偏見・差別はたくさんあります。当然世代間によって大きく違い、「今の若者は、韓国ドラマやTVの影響を受けて、何となくトレンドで興味を持ってしまうのじゃないか。なんか変だし、良い若者が青春の時代をもったいない。」と話すのは、40近くになるベトナム人同僚。そうは言ってもまだこれが多数派の意見かもしれません。しかし、若者を中心としてこの問題にオープンな人が増えているのも実感。ベトナムのコメディアンにはそういうキャラクターを前面に打ち出して人気を博す人も多く、また2018年にベトナムのNguyen Huong Giangがタイで行われたミス・トランスジェンダー世界大会で優勝したことは、政府系ベトナム通信社のVietnam+を始め多くのメディアが報じ、LGBTの地位向上を訴える声を高めているます。

そして、2015年民法改正では性転換も合法化され、ベトナム国会では性転換によって起こる変化についてより詳しく規定するべく、保健省が「性転換法」を提出しようという動きもあります。2000年代にはまだ同性愛が「社会悪」とされ、2004年に筆者が初めてハノイで働き始めた頃はまだタブー感の強かったLGBTの話題、今思えばある意味過渡期だったのか、気が付けば変化は大変急激です。気づかないうちにベトナムがこの分野で随分他の国を、更には日本の先を行く、ということもあるかもしれません。




11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。