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「聞き分けのよい」SNSが好み?ベトナムのデジタル・SNS空間に起こる気になるニュース

世界のご多分に漏れずベトナムもすっかりネット社会。多くの市民、特に若者は何でもスマホで、ネットでというのが主流に なってきています。もちろん情報は全部ネットでゲット。紙の新聞を読んでいるのは、 日本人である筆者ぐらいでしょうか(笑)。

SNSも検索も「メイドインベトナム」?

最近幾つかベトナムのデジタル社会に関する、少し心がざわつくニュースが相次ぎました。まず目に付いたニュースとして、ベトナム情報通信省大臣が「ベトナム国産の SNS や検索エンジンを作るべき」と発言したことが話題となりました。「Facebookの理念が世界と合わなくなっているのに、なぜそれに代わる自分たちのSNSを作らないのか?」と鼻息は荒いです(一年前にも同様な発言があり、どうやらこれは彼の持論のようです)。

このニュースを見てすぐに思いついたのは「ベトナムも中国のようになっていきたいのかな?」ということです。 中国はインターネット規制が厳しいことで有名ですが、その規制によりGoogle、Facebookといったグローバルジャイアントの国内市場への浸透が無く、結果として百度や微信といった国産デジタルプラットフォームを確立してきました。これにより国内消費者はある意味でニーズを満たされ、ネット規制を超えるいわゆる「壁越え」をする必要を徐々に感じなくなっているとも言われています。

国産SNSの雄、Zaloを巡るイザコザ

「あれっ?Zaloがあるじゃない?」と詳しい方はおっしゃると思います。ベトナムにはZaloいう国内向けのSNS があり、日常のコミュニケーションツールとしてはかなり普及しています。そして、ほぼほぼSNSとして機能しています。ただ、早くからFacebookやTwitterをブロックした中国とは条件が大きく違い、ベトナムではFacebookの浸透度が高く、存在感としてはFacebookの方が大きく感じます。自分も両方使っていますが、Zaloも機能はどんどん充実しており、Zaloもかなり頑張っているなあという印象です。

しかし、この国産SNSのエースと思しきZaloに関しても、ちょっとざわつくニュースがありました。Zaloを運営するVNG社に対してホーチミン市情報通信局による監査が入り、同社のZalo.vn、Zalo.meという二つのサイトのドメインを回収するという決定が出されたと言います。(ちなみにこの.meというドメイン名は、モンテネグロの歴史と経済に色々関連あるものなんですね。詳しくはこちらなどをご覧ください。)

その回収(利用停止)理由は、VNG社が「SNSとして活動する許可を得ていない」からだと言います。以下に引用したTuoiTre紙説明では、OTT(Over the top;ネット上で音楽や動画など提供するサービス)事業者となることはできるが、SNSを運営するには未許可となるため、行政処分は妥当と言えるとのこと。あくまで当初の機能である「通話・メールアプリ」である分には良いが、事実上そこからSNS化したのはダメというのでしょうか?止められたドメインのURLにアクセスすると、上記スクショ写真のように「PC用アプリをダウンロードしてね」という画面にしかたどり着きません。大部分のユーザーはアプリ経由スマホ利用で、このドメイン名が使えないこと自体でZaloのサービスがすぐに阻害されるわけではないですが、既に「1億アカウント」を超えているというアカウント数があるというZaloに対する行政処分。VNG社は、改めてSNS運営許可の申請をし始めた、と報道されています。

国産SNSを奨励しつつ、その代表となりうるZaloへの手入れ。政府のこの二つの動きは何を意味しているのでしょうか?その背景には何があるのでしょうか?

「不道徳なSNS」への反発とサイバーセキュリティー法

ベトナム政府当局は折に触れて「ベトナム文化に反する不道徳な」 SNSでの動きも批判し、 文化省、情報通信省などからはそのような発言も見え隠れします。 各種政府批判なども時に展開されるFacebookにも一定の警戒感を抱いているでしょう。更に言えば、独自の仮想通貨構想リブラを発表されて、経済金融政策という意味でも反発があるのかもしれません。 何しろベトナムの Facebookユーザーが6000万人を超えてるとされ、ユーザーの中にも多くいる富裕層は外貨や土地、株式、金などベトナムドン以外への資産運用に大変意欲的。 これが資金が Facebook に流れたらさあ大変、と思っても不思議ではないように思えます。「Facebookとかじゃなくて、自分らのコントロール下の国内SNSで皆が適度に盛り上がってくれれば…」と政府が思うのも自然かもしれません。

これに加え、2019年からはサイバーセキュリティ法という新しい法律がベトナムで施行されています。 施行前から大きな話題になりました。条文の解釈次第では ベトナムの公安当局が一般の人がやり取りするメールのやり取りを検索閲覧することができ、内容によっては当然捜査に使われることさえ、可能性としてあります(こちらの解説もご覧ください)。施行されて以降、まだ大きな混乱は見られませんが、このようなリスクを残ったままになってると考える方が当然でしょう。ネット社会へのベトナム共産党独裁側の備えは高まっています。

「聞き分けのよい」ネット社会を目指して!?

ベトナムにおいて6月21日は「ベトナム革命新聞」の日、要はジャーナリスト、メディアの日です。今年のその日に向けて、ベトナム共産党中央プロパガンダ委員会というゴツイ名前の組織を牛耳るVõ Văn Thưởng(ベトナムの政治局委員で最も若い1970年生の次代のエース)は「SNSは社会的責任を持って使うべき」とうったえました。まともといえばまともな発言ですが、共産党一党独裁の国で「社会的責任」は、当然「政治的責任もとれよ」という言外の意味が感じられます。

Zaloの中の情報も、ある程度はネット上の情報の宿命とは言え、玉石混交、もしかしたらベトナム政府は自身が世論をコントロールしやすい、より政府にとって「聞き分けのよい」インターネット空間を求めているのかな?政府がどういう方向にネット社会を持って行きたいのか、 なんとなく想像させられるそんな興味深い、でも心がもやもやするニュースから考えたことでした。

11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。