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失敗の博物館!?いつになったら乗れるのか、中国が援助するハノイ都市鉄道:長い物語

「いつになったら乗れるんですかねえ?」「さすがに私の駐在任期の間にはできるんでしょうねえ」と言って、何人の日本人がハノイを去っていったことか。そう、それはハノイ初の都市鉄道となるべく建設中、今も建設中&未稼働のカットリンーハドンを結ぶ高架鉄道である。私もかれこれハノイに足掛け11年住んでいて「もう乗れるだろう」と思って空振りに終わったこと数知れず。今回は、比較的まとまったこの鉄道の「建設史」を伝えたZing記事がありましたので、そこから紹介していきたいと思います。それによると、建設完成予定の延期は既に8回に上ると言います。私も2011年からニュースを追い続け、ツイートで幾度となくその進捗を追ってきましたが、結局まだ完成ならず・・・。

記事内には、この案件のために都市鉄道管理を学んだものの、建設が終わらずにその知識を使えず、バイクタクシーをしている人たちの声という興味深い側面も紹介されていました。2015年頃から多くの技術者が北京に行き、都市鉄道の管理などについて学んだものの、いつまで経っても案件は進まず、その間は当然ながら(というかそれも酷い話ですが)給与も支払われず、バイクタクシーを始めとしたバイトをすることを余儀なくされます。「海外で研修を受けたバイクタクシーはオレくらいだろう」と話す彼の皮肉なコメントが悲しみを誘います。

なぜ「北京」なのでしょうか?そもそもこの案件は、中国政府からの優遇借款を受けた援助案件、円借款ならぬ「元借款」案件です。2008年にベトナム交通運輸省と中国政府が、当時総工費5億5200万ドル(約560億円)、その内4億1900万ドルを中国政府からの借款で賄いました。2011年に工事が開始された案件は、最初の予定では2014年にも商業運転する予定でしたが、この時から以下図(こちら図も上記Zing記事より)のように8回の「工期延期」を繰り返すことになります。昨年には交通運輸省大臣が試乗までして、すわ開業かと期待は高まり、最新では2019年4月末開業と言う話もありましたが・・・、この記事を書いている7月上旬現在では、何も予定らしいものが発表されておりません。「あと1%、安全検査がクリアできていない」ということですが、これがクリアされるのはいつになるのでしょうか。もうオオカミ少年になり過ぎたのを懲りたのでしょうか…。

この工期の度重なる遅延からして、ベトナム国民の対中不信感情から「大丈夫かなあ?」という雰囲気を醸し出していたのですが、この建設過程が波乱万丈。下記イラストのように、建設現場から鉄筋が落ちてきたりの事故が相次ぎ、道行く市民に犠牲者まで出ました。工期が遅れる上に、いや遅れるがゆえに、総工費も膨らむばかりで、当初予算の何と倍以上にまで跳ね上がっていると報道されています。

交通事情も当初開通予定の2014年とは異なってきているし、まだ一路線しかない都市鉄道網では乗り換えもできず、当初の利便性は当然それ程望むことはできません。加えて、バイクでDoor to Doorで動き、ほとんど歩かない通勤・通学に慣れているハノイ市民、駅周辺のバイク駐輪場の整備も必要でしょうし、更には「中国の電車は大丈夫なのか?」という市民の不安感も手伝って、特に開業当初はどれくらいの人が乗ってくれるかという問題があります。開通してもどのくらい経営が成り立つのかも未知数です。15000ドン(約75円)とバスの倍の値段くらいでの乗車料金が検討されているようですが、ハノイ市人民委員会は毎年145億ドン(約7250万円)を補てんしなければいけないのではという試算も出ています。

こんな問題だらけのハノイ市都市鉄道案件。国会での議員質問に交通運輸省大臣も「国内専門家、プロジェクト管理委員会、施主も含め経験が足りなかった」と自らも含めて落ち度を認めざるをえません。ベトナム国営バリバリであるVOV(ベトナムの声)ウェブサイトのコラムでも、この案件を「失敗経験の博物館と呼ぼう」とまで言われてしまい、もう市民は諦めの声を口にします。

とは言え、ハノイも都市鉄道整備は待ったなしの交通渋滞。人口もさらに増える中、早くの開業が待たれる最初の高架鉄道。さすがに2019年中には開業するかな?そして次はもう少し中国側情報からリサーチして、この案件が中国側からどのように見られているか、そういう視点でも書いてみようかと思います。

11年間ベトナム(ハノイ)、6年間中国(北京、広州、香港)に滞在。ハノイ在住の目線から、時に中国との比較も加えながら、ベトナムの今を、過去を、そして未来を伝えていきたいと思います。