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もっとみんながシアワセになるビールのCMがないものか?

「広告はこんなにバリエーションがあるのに、日本のビールって味が似たり寄ったりだな」つい10数年前まで、そう思っていたような気がする。それはそうだろう、メジャーなブランドのビールと言えば、ほぼピルスナー一択なのだから。味が似て、当然なのだ。
例えばニューヨークのビールサーバーがたくさん並んでいるバーなら「アンバーエールかな?いや、今日はペールエールだ!」などとチョイスするのは当たり前だし、ベルギーの街角のカフェでメニューを見たら、その種類の多さに圧倒されてオーダーに困るほどだ。味・色・素材、時には温度…本当にバリエーションが豊富。そんな時、つい日本のビールと比べてしまうから、「たくさんビールのコマーシャルを作ってきたけれど、味の差なんて、それほどでもなかったな」となる。
いやいや、海外ロケが多かった「往年のCMディレクター」か、ただのビール好きのおじさんの昔話かな?…だけど。そう、ここ10数年の間に地ビールが百花繚乱の盛り上がりを見せ、いまや主要な都市のバーには、海外に負けない量のビールサーバーが並ぶ。ビール各社からも、さまざまなバリエーションのプレミアムビールが出ていて、ビール選びも様変わりした。
かつて「はみだし塾」 (AOI Pro./2011年〜2016年) なるものを主宰していた頃、均一的な日本のビールに風穴を開けるべく、キリンビールからスプリングバレーブルワリーを立ち上げた吉野櫻子さんにご登壇いただいたことがあった(2015年9月)。 まさに彼女が発想し、経営陣や多くのビール職人たちを動かしたのも、「日本にもっと多様なビール文化を!」との思いだったし、「このままでは大好きなビールがおじさんたちのものになっていく、未来がない」との切迫した思いだった。あれから7年の時を経て(その間の事情はわからないのだけれど)、ぼくはスーパーでSPRING VALLEYに遭遇し、あまりのおいしさにいまではほぼ毎日愛飲しているけれど、いわば社内ベンチャーが一つのブランドとしてメジャーデビューを果たしたかのようで興味深い。
そのSPRING VALLEYはもちろんのこと、日本のビール市場って、いますごくおもしろくなっていて、ビール好きの消費者としては(さまざまな理由からビールを積極的に飲めない人をもカバーして)とてもいい時代になっている気がしている。ところが!である。前の投稿に書いた通り、近頃のビールの広告がまるでつまらない。
その投稿をFacebookにリンクしたところ、ある大手広告代理店のクリエイターが「最初の認知さえこなしたら、実は(いまの広告は)『安心感』を担保しているのかもしれない」というコメントを寄せてくれて、「なるほどなぁ」と思った。もしそうだとすれば、かつて広告でクリエイティブだと信じられていたものは、もはや必要ではないし期待もされていないことになる。ブランディングではなく、「ほら、あなたがおいしいと思ったビール、もしかしたらコンビニで買おうか迷ったビール、ちゃんと広告してますからね。あのタレントがおいしいそうに飲んでいたでしょう?そう、『おいしい〜!』って言ってましたよね!?」というコミュニケーションであれば良いということになる。良し悪しではなく、あのCMで正解なのだ。
でもぼくは、かつての「おもしろかったビール広告の復活」ではなく、もちろんいまテレビで見るCMでもない、「ビールの生産者と消費者が、ダイレクトにそのビールのおいしさと価値観を共有できる」コミュニケーションがあるような気がしてならない。クライアントのなかで真においしいビールづくりのために汗をかいている人たちが、あのテレビコマーシャルでいいと思っているはずはないと想像する。もちろん、消費者があのCMで「幸福」であるはずもない。

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