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好奇心と寂しさからのコミュニケーションー小説「天冥の標」推しキャラアンケートに寄せてー

 私は幼い頃から、世界とそこに存在する他者を理解したいと思ってきました。この思いが続いた理由の一つは知的好奇心で、世界と他者に興味を持って関わることで、それまでの自分の認識が、がらっとくずれて深いものに更新されることがあり、これがとても面白かったのです。もう一つの要因は、私が心に寂しさを抱えており、他者を理解して身近に感じたいし、他者に自分を理解されて安心したいと思ってきたからです。ただ、他者に自分を理解してもらい、安心したいと思ってコミュニケーションを取ると相手に負担になるので、私のコミュニケーションの歴史はしょっぱい思い出がいっぱいです。


 これは私がとあるアンケートに書いた文章の冒頭です。そのアンケートがどのようなものかは少し後で書くことにして、まずは好奇心と寂しさからコミュニケーションをしてきた私の、現在の状況を書きます。

  幸運なことに私は、共感はしてくれるけれども心の大事な領域には土足で踏み込んでこない、そしてただ私が居ることを、過剰さなく肯定する態度でそこに居て話を聞いてくれる、そんな人に何度か出会うことができ、そのおかげで私が抱えている寂しさは少しづつ和らいできました。ただ全く寂しさが消えたわけではなく、人の怒りに触れたり、睡眠不足が続いたりするとすぐに寂しさが湧いてきます。それでも寂しさがある程度軽くなってからコミュニケーションを取ると、この人は一体どんなことを言おうとしているのだろう?と単純に好奇心だけから話を聞き、自分の理解を言語化して相手に返して確認をし、そして生じた自分の思いをただ共有する、といったことができます。これは面白いし、逆説的なことに分かりたい!分かってほしい!と思っていたころよりも、共感や気づきが得られています。

 さて、それではアンケートについて書きましょう。私は「天冥の標」(小川一水著)という小説が好きです。このSF小説は、科学に詳しくはないけれども何となく好きで、冒険活劇も好きなら楽しめるような気がしますので、良かったら読んでみてください。登場キャラクターにはヒトではないキャラが多数いるのですが、その属性がただの飾りではなく、ヒトではないキャラクターだからこそ書ける物語が、小説全体の大事な縦糸となっているのがSFだからこそ、と思います。また、第一巻と第二巻を読んだ段階では、とてもこの物語が収束するとは思えないほど、第一巻と第二巻が繋がりませんでした。それでも、第十巻ではちゃんと完結し、それどころか私の予想をはるかに超える読書体験ができました。そんな最近完結した「天冥の標」ですが、今度の日本 SF 大会で企画が開催され、その一環で好きなキャラクターとそのキャラクターを好きな理由を尋ねるアンケートを目にしました。

 残念ながら SF 大会には参加できないけれどもこれは書きたい、と思って書いたところ、「自分はこのような心理的特性を備えた人間で、このような部分をこのキャラクターに投影しており、ゆえにこのキャラクターが好きだ。」といった文章になりました。この note の冒頭は私の心理的特性を記述した箇所を転載したものです。全体の分量は約 2000 文字になり、投稿フォームには一言コメントしてくださいねとあるのに、そこにこの分量を入力してしまい、主催してくださった方にはご迷惑をおかけしました。とはいうものの、書いていて面白く楽しかったので、少し現在の状況を補足して note としてまとめました。以下に投稿したアンケートの全文を載せます。ネタバレを含むので、まだ読み切っていない方は読了されてからが良いと思います。

日本SF大会 採コン「天冥の標が示すもの」に寄せて

好きなキャラクター:ノルルスカイン

そのキャラクターを好きな理由と好きな箇所

 私は幼い頃から、世界とそこに存在する他者を理解したいと思ってきました。この思いが続いた理由の一つは知的好奇心で、世界と他者に興味を持って関わることで、それまでの自分の認識が、がらっとくずれて深いものに更新されることがあり、これがとても面白かったのです。もう一つの要因は、私が心に寂しさを抱えており、他者を理解して身近に感じたいし、他者に自分を理解されて安心したいと思ってきたからです。ただ、他者に自分を理解してもらい、安心したいと思ってコミュニケーションを取ると相手に負担になるので、私のコミュニケーションの歴史はしょっぱい思い出がいっぱいです。
 ノルルスカインは、産まれて初めて他者とコミュニケーションを取ろうとした時から、「その初めから、他者との共存のもどかしさ、心嬉しさ、そして難しさを知った」(第V巻 断章一の一、p48)と記述される通り、他者との関係にもどかしさを抱えておりながら、ミスチフのハードなチュートリアルを経て世界を理解してからも、「爪と牙のもとに血がしぶかない共存のあり方を、望まずにいられなかったのだ。」(第V巻 断章一の四、p213)とあるように、お互い助け合いながらなんとか共存する方法を探すのをあきらめません。ノルルスカインのこのようなところに私は自分を投影して感情移入しているのだと思います。
 そんなノルルスカインは、きっと数多の星々で、コミュニケーションを取っては挫折と絶望を繰り返し、多くの相手を切り捨てて別の星系へ跳んできたのでしょう。多少ひねくれています。私もノルルスカインよりは遥かに小さな挫折と絶望を繰り返し、一時期だいぶめんどくさい臭気を放っていました。
 物語の終盤にさしかかり、メニー・メニー・シープと三百年連れ添ってきたノルルスカインの副意識流(トリビュータリ)は、もうひとつの別のノルルスカインのトリビュータリと出会います。消滅の危機にあった地球圏から大艦隊を建造してきたそのもうひとつのトリビュータリは、艦隊の観測機器を用いて迫る危機を解析した結果、ここの場所、そしてヒトという種族を見捨てて別の星系へ跳ぶことも検討していると述べました。それに対し、メニー・メニー・シープのノルルスカインはこう応えます。「僕は跳ばない」「(この血筋に潜り、氷に眠って、長い歴史を飛び越えてきた因縁は)解ける、きっと解ける、この因縁は。僕はそう信じている。彼を、彼女を、あの子たちを ――― 見ていく。メニー・メニー・シープのあいつらを」「跳ばないよ。彼らの一人でも残っているうちはね」(第IX巻 PART1断章六、p330) と。
 そして、迫る危機に飛び込んで行く中で、メニー・メニー・シープのノルルスカインは、多分ミスチフ以来初めてであろう、被展開体の友人を得ます。アクリラです。最終巻でノルルスカインとアクリラは以下のような会話を交わします。「もうちょっとあそこ(セレス)にいたかったよ」「うん、まあ仕方がない。これから先の未来に繁栄して盛り上がったり、調子に乗って滅んだりする、あっちやこっちの文明の最初の一個がMMSだなんて考えるのは気に入らないけど、それはそれとして、今はせいぜいがんばってここの面倒を見るよ。別に悪いことじゃないよね。」と話すアクリラに対して、「それは僕もずっと誰かに聞きたかったんだよ」と応えるノルルスカイン(第X巻 PART3 、p206)。この時初めてノルルスカインは自分の気持ちを理解してくれる存在を得たのではないかと推察した私は、自分のことのように嬉しかったです。
 そのアクリラに、「君は、悲しんでいるんだね」と言われて、ごるりとうなずいたノルルスカインは、ミスチフを宇宙から消し去ることになる最後の対峙に向います(第X巻 PART3, p273)。そしてオムニフロラが演じている虫食いだらけのミスチフと対峙したノルルスカインは、そこにいるのはむかし愛したミスチフそのものではないと分かりつつも、そこにミスチフを感じ、遺言を聞きます。そしてノルルスカインを閉じ込めたと思い込んだミスチフに「いいや。僕は僕でない被展開体(アクリラ)に、ダダーを継がせた」と告げ、「ただちにゲートを開放しようと突進して来たミスチフを、ノルルスカインは残るすべての計算力で作り出したループの中に包み込んで融合する。」(第X巻 PART3, p285)最後を迎えます。この最後に私は、長い孤独の先に、自分を理解してくれる存在を得て、むかし愛した存在と一体となって消える追体験をし、なんとも言えない救いを感じました。また、情報空間に存在する被展開体が、プログラムの無限ループで外界から永遠に隔絶される死の書き方は私にとって新鮮で、新な表現の発明であるように感じ、とても印象に残っています。

以上、最後までお読み頂きありがとうございました。もし良ければ、あなたの推しキャラとそのキャラへの想いを読ませて頂けたら嬉しいです。それではまた。