モンテレッジォ 小さな村の 旅する本屋

著者 内田洋子

イタリアの本屋の商人についてのエッセイ。

ふと立ち寄った、ヴェネツィアの古書店。
ありとあらゆる、ヴェネツィアと美術に関する古本が並ぶ。
「ティツィアーノの画集の強い赤。
ヴェネツィア語で書かれたカルロ・ゴルドーニの戯曲全集。
中世の航路図。
干潟の漁業の記録。
カーニヴァル衣装の変遷。」(P.20)
店主は経験豊富で、含蓄深い。
いつも相談された内容にピッタリの本をいつも見つけ出す。
聞けば彼の出処は「モンテレッジォ」という村の本の行商人であるそうだ。
なぜそんなところに本の行商人が?
なぜ本を売り歩くことになったのか?
興味は尽きず、本に導かれるまま、モンテレッジォに足を運ぶ…。

著者は内田洋子さん。
イタリア在住の日本人ジャーナリスト。
神戸市生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒業。
本に導かれるまま、イタリアを旅し、本の商人の足取りを追う。
村で出会った人の話や資料を手がかりに、彼らの祖先の歴史を紐解いていく。

文章からは、訪れたイタリアの村の雰囲気や風景を感じることができる。
海の街 ラ・スペツィア
「近郊の街からラ・スペツィアへ入ると、その余裕に満ちた雰囲気に気圧される。ローマのように巨大な遺跡が並び立つわけではないのに、街に下り立つと、正面には海、背後に山、頭上に天が揃って出迎え、包み込み、護衛してくれるように感じる。私はイタリア半島の海沿いや地中海の島々を巡回しながら船上暮らしをしていたことがあるが、<見えない大きな力に守られている>という、ラ・スペツィア湾で受けた感覚は唯一無二だった。加護とはこの感覚だ、と実感した。」

モンテレッジォに到着し、最初に案内された協会。
「風に導かれるようにして入った中は、思いのほか明るかった。それまで締め切ってあったというのに、少しもじめついていない。硬い匂い。石が発しているのだろうか。頭上には、組積された石を表面に浮かせて、アーチ型の天井(ヴォールト)が曲線を重ねている。石肌はざらりと乾き素っ気ない。彫像や浮き彫り、金や青、赤をふんだんに使った宗教がや調度品は見当たらない。祈祷台すら無い。折り畳み式の木製の長椅子が、いくつか並べてあるだけだ。枯れた気配。世俗的なものをすべて削ぎ落とした修行僧のようだ。」(P.76)

夏のモンテレッジォ。村祭の様子。
「村に入る。広場から路地伝いに、古本の露天商たちが台を連ねている。本の山の前で、子供たちが笑ったり泣いたり。犬が走る。店主と客たちの雑談。本を捲る紙の擦れる音。乾涸びて硬くなった村の隅々まで温かい血が流れ始め、村が息を吹き返す。」(P.185)

ページの合間に、写真が挿入されており、旅をしている気分で、イタリアの風景を楽しむ事ができる。

本の商人の誇りに触れることが出来る一冊。

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