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『ホモ・デウス』は人類史のネタバレ本

なぜホモ・サピエンスはこんなにも繁栄したのか、
そして私達ははどこへいくのか。
『ホモ・デウス』には人類史という物語の”ネタバレ”が書いてある。

人がミステリー小説の結末を先に見てネタバレしてしまうのは、結末が気になって仕方がないあの「落ち着かなさ」に耐えられないから。同様に世界中でこの本が売れてるのは、いま人類が置かれている状況がどうにも不安感だらけだから。
著者の言葉を借りれば

「世界は至る所で変化しているが、なぜ、どのように変化しているか分かっていない。権力は彼らから離れていっているが、どこへ行ったのか定かでない」

その結果トランプが大統領に選ばれたり、イギリスはEUからの離脱を決めたりしているのだと言う。自分がこの世界で脇役へと追いやられているような不安感を先進国でもかなり多くの人が抱いている。

一体なぜ? だれのせいで? どうすればいいの?

その「答え」をもっともわかりやすい形でこの本の著者は提示する。

1万年の人類史を2行でまとめる

この著者がすごいのは、長い人類の歴史を一言で分かった気にさせるところ。全世界で売れた前作『サピエンス全史』の内容を2行にまとめるとこうなる。
Q なぜホモ・サピエンスだけが繁栄したのか。
A フィクションを信じる力があったから

国家、会社、貨幣、農業、宗教、民主主義。現代の文明の根幹にあるこれらのモノには本当は実体が無く、「ある」と信じるからあるのだという。この信じる力がなければ150人の人間さえ束ねることはできない。

その著者が『ホモ・デウス』で言おうとしていることをまとめるとこうなる。
Q ホモ・サピエンスはどこへ行くの?
A 神になる。(ただし、一部の人に限る)

人間は至福と不死を追い求めることで、じつは自らを神にアップグレードしようとしている

「神になる」とはどういうことか

著者の考える人類の21世紀の目標は次の3つのプロジェクトだ。
テクノロジー&生物工学によって
1)病と死の克服
2)「幸福」(=欲望)をコントロールし最大化する。
3)1)2)で培った技術で人類をアップデートする

死や障害、苦痛を取り除くような「マイナスをゼロ」にする技術は、転じて「ゼロをプラス」にする技術にもなる。遺伝子異常を“編集”することで致命的な病気を治癒させる技術は、そのまま健康な人間をパワーアップすることにも利用できる。こうして強化しホモ・サピエンスを超えた存在を著者は「神」と呼ぶ。

著者が起こりうる未来の可能性として挙げているのが、「データ教」の勃興だ。Facebookのイイネ、YouTubeで気になる映像で手を止める…そうしたひとつひとつのデータが、達の快感のツボを丸裸にしていく。「イイネ」を50回押せば、Facebook社はあなたよりもあなたに詳しくなる。
こうして集めたデータは全人類の「快感のツボ」を把握し、人類について人類よりも詳しくなる。その蓄積に基づいてより世界を“より気持ちのいい世界”へと作り変えていくだろうという。

なぜ、不安なのか

それを理解するために著者は、神とは何だったのか、宗教とはなんだったのかという議論に立ち戻る。著者は宗教=「神の存在を信じること」と定義することに問題があり、「神」という概念のアップデートを迫る。たとえば、共産主義には神がいないが、熱心な共産主義者は「宗教的」だと私達は感じる。そこで、著者が宗教に対して与えた定義はコレ。

人間の法や規範や価値観に超人間的な正当性を与える網羅的な物語なら、そのどれもが宗教

大雑把にいうと、「こう生きたらええで」と人生に意味を与えてくれる物語が宗教なのだ。その定義だと、共産主義も、ファシズムも、民主主義も、データ至上主義も宗教になる。

近代以降、私達は「人間至上主義」、つまり「俺が幸せだと思ったら、それが幸せ」という“宗教”を信じてきた。これが民主主義、資本主義、現代アート、教育の形成に影響を与えてきた。
ところが、これをテクノロジーによって、超効率的に「俺が幸せと思う」を追求した結果、俺が「欲しい」と思う前に、amazonのデータが先に「欲しい」ものを提示してくれるようになってしまった。

人生に「意味」を与えてくれる存在が、かつて神から人間へと移ったように、人間からデータへ移ろうとしているのだ。そこに、私達が抱く不安感の根源がある。

この本には、ネタバレを読むような不思議な爽快感がある。
それは、該博な知識をもったな気鋭の学者が「フィクション」や「神」というマスターキーで、数千年の「人類史」というミステリーを謎解きしてくれるような感覚だ。
 これは著者が前著『サピエンス全史』でまさに書いていた通り、ホモ・サピエンスが「物語」によって関係性を整理し、世界を理解し、意味を与えたいとする欲望そのものだった。

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