豊永拓哉(タク)

元日本の放射線科医。現在はアメリカのYale大学でPETという医療画像の研究をしていま…

豊永拓哉(タク)

元日本の放射線科医。現在はアメリカのYale大学でPETという医療画像の研究をしています。(PET:がんを見つけられるということで有名です)

マガジン

  • 今とミライの医学教室

    医学や医療に関するnoteをこちらのマガジンにまとめています。

  • 週刊エアメール『悩むな、脳め』

    • 21本

    米国在住の医療画像研究者と、日本在住の病理医が、それぞれシナプスを外したりつないだりするためにときおり手紙をやりとりしています。

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【はじめに】医療画像は2+1次元を生きる

こんにちは、画像研究医のタクと言います。 日本では画像診断医としてトレーニングを積み、PETという医療画像撮像法の研究をするために、2017年からアメリカの東海岸まで修行に来ておりました。 この場で改めて自己紹介をと思い、書かせて頂きます。 ----- アメリカには2017年の3月に越してきました。 大手を振ってこちらに渡ったのも束の間、ほんの2年ほどで、日本に自分の居場所がなくなってしまう寂しさに襲われ、居ても立っても居られなってしまいました。 『どうしたら日本

    • 【コラム】ハンバーガーチェーンの覇権争いと医療

      ここで一つ、あるたとえ話を。 ハンバーガーチェーンA社が、『安い、早い、牛100%』を掲げ、原材料の調達から顧客へのサービスまであらゆるステップを最適化し、業界最安値で提供できる頑強なシステムを構築したとします。 いわゆる薄利多売のビジネスタイルですが、革新的で独創的な最適化の数々はなかなか模倣されず、他社の追従を許しませんでした。 ここに、とあるハンバーガーチェーンB社が現れました。A社と同じく『安い、早い、牛100%』をうたい、A社よりも50円安いハンバーガーを提供

      • 【放射線の話】ビームライフルと機関銃

        前回は放射線には電離という作用があるものとないものがあるよ、という話をした。 今回は電離放射線の中でも二つの種類があるという話をしたい。 「なんだよ、電離するとかしないとか、それだけでもよくわからないのに電離放射線の中にも種類があるの?」 そうおっしゃるのももっともである。 放射線と一口に言っても、色んな種類のものがごちゃっと混ざってるから分かりにくいんだよなぁと思う。 前回紹介したのは、X線とかガンマ線とか呼ばれる電磁波で、種類としては可視光線とか電波と似たものだ

        • 【放射線の話】『放射線』ってなんなのだろうか?

          『放射線』という単語はどうもヒトを気持ちよくさせることは少ないように思う。 放射線に関する知識に差はあれど、「『放射線』は怖い、被ばくが心配」という感覚はかなり多くの人が共有しているのではないだろうか。 『放射線』は完全に安全なエネルギーではないし、「怖い」という感情を否定するつもりはない。 ただ、全く『放射線』のことを知らないのと、ある程度その素性を理解しているのとでは、感じる恐怖の種類が少し違うんじゃないかな、と思い、『放射線』の話をします。 そもそも『放射線』っ

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        【はじめに】医療画像は2+1次元を生きる

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        記事

          心もとない僕の右肩

          僕の右肩は心もとない。 事の発端は高校生の時に家族で行ったスノーボード旅行だった。 雪景色にウキウキし、しばらくはスノーボードを楽しんでいたのだが、変な体制でこけて肩を負傷、その後ホテルのお風呂で弟とふざけていたらガコッという音がして肩が外れてしまった。 あまりの激痛に目を開けることもできず、毛穴から出てくるのが分かるほどに噴き出る脂汗。 頭の中が「イタイ」という文字でいっぱいになった。 ただ、イタイに占領された脳の片隅に残っていた僅かの理性が、『ここが山の上で、お

          心もとない僕の右肩

          【放射線の話】病院の片隅の"反物質"という存在

          今日は自分の仕事道具の話について書きます。 高校生の頃、白い巨塔の里見先生のような医者になりたいというモチベーションを持っていたのだが、8年にわたる医学教育の様々な因果に引き寄せられ、気づいたら核医学という分野に流れ着いた。 医学の中でも特にニッチな分野である。 仕事道具はPET(ペットと読む)、今の職場はPETセンターとそのまんまの名前を冠している。 医療画像検査の一つなのだが、アメリカでは医療関係でないと知らない人も多く、時々我々のオフィスの前を通る人たちが窓を覗いて

          【放射線の話】病院の片隅の"反物質"という存在

          【生体イメージング】生体機能を可視化する

          こちらは先日、科学雑誌のTwitterアカウントから流れてきた動画である。 最新の組織透明化と光シート顕微鏡撮影という技術を用いて撮影されており、緑はマウスの肺の構造、赤は呼吸という機能を表している。 呼吸を可視化するために用いられているのは、一定の光の波長を受けると蛍光を発する小さな塵。それをマウスに空気とともに吸いこんでもらい、その塵の分布を後で蛍光顕微鏡でイメージングすることで呼吸という機能を可視化しているのである。 これは実は核医学検査という機能画像を生業にする

          【生体イメージング】生体機能を可視化する

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          【生体イメージング】ゼブラフィッシュの全脳の神経活動をイメージング

          神経細胞がシグナルを発生させるとき、細胞外から細胞内へのカルシウムイオンの急激な流入が欠かせません。 このカルシウムイオンの流入を、細胞内のカルシウム濃度の変化を捉えることのできる蛍光物質 (GCaMP5G)を用いて検出することで、神経活動を可視化することが出来ます。 この画像は、更にlight-sheet microscopyと呼ばれる、従来の蛍光顕微鏡よりも広域のデータを短時間で収集出来る顕微鏡を用いており、一コマ撮影するのに必要な時間(時間分解能)が劇的に短くなっています。 その結果、ゼブラフィッシュの脳が活発に活動するところを捉えることに成功しており、脳内の情報処理や、脊髄へのシグナル伝達の様子が観察できます。 参考文献: https://www.hhmi.org/bulletin/spring-2013/flashes-insight https://www.nature.com/articles/nmeth.2434

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          百聞あると一見の価値が上がる

          ヤンデルさん: 明けましておめでとうございました。 つい先日、「新年は心機一転、色々なことに挑戦しよう」と思っていたような気がしたのですが、すでに日常のゴタゴタに巻き込まれており、結局のところ、相も変わらずの通常運転です。 今年もよろしくお願い致します。 『急に具合が悪くなる』、凄かったです。 一ページめくるごとに行われる怒涛の思考の応酬に、わぁと戸惑いながら何度も何度も同じ文章をなぞりました。 この本を通して流れている一つの大きなテーマである、偶然の必然性、もし

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          【読書感想文】現代医療の要:エビデンスベースドメディスン

          (参考書籍:『代替医療解剖』 著者:サイモン・シン、エツァート・エルンスト 青木薫 訳) 『エビデンスベースドメディスン』とは、『科学的根拠に基づく医療』と訳され、「科学的に効果が証明されている治療をしましょうね」という医療を行う上で、最も重要な約束事の一つです。 本著内の『人類が治療効果を科学的に評価する方法(エビデンスの作り方)を発明するより前の時代は、医師が治療介入したほうが患者が死に至る可能性が高かった。』という一文に、その重要性を再認識しました。 その昔の医師

          【読書感想文】現代医療の要:エビデンスベースドメディスン

          境界面との距離感

          ヤンデルさん: 先日は師走の慌ただしい中、お返事を頂きありがとうございました。 前回のお返事を読み、どうやら私はいくつか大きく思い違いをしているようだ、と背筋が伸びる思いでした。 頂いたメッセージを自分なりにまとめると以下のようになりました。 ・医療には、専門職セクター、民間セクター、民俗セクター(漢字が間違っていました…ちゃんと調べてから発信しなくてはいけませんね)という3つの異なるシステムが存在する。 ・医療者が発する医療情報は基本的には専門職セクターの文脈になる

          境界面との距離感

          トリプトファンとヨーグルトきのこ

          ヤンデルさん 先日は秋の終わりの一大イベント、サンクスギビングデーでした。 多くのアメリカ人が家族とターキー(七面鳥)を頬張るために、実家に帰る日です。 Twitterでは『ターキーはトリプトファンが沢山含まれてるから眠くなるって聞いたことがあるかもしれないけど、都市伝説だからね。サンクスギビングのパーティーで食べて飲んで喋って疲れてるだけだからね』という記事をニューヨークタイムズがリツイートしていました。 記事によると『サンクスギビングの眠気はターキーのトリプトファ

          トリプトファンとヨーグルトきのこ

          自分の居場所、心のヨリドコロ

          ヤンデルさん ご無沙汰しておりました。 インターネットを通して北海道は初雪が降ったというニュースが流れてきて、相対的に加速する時の流れに恐れおののいております。 季節の変わり目、いかがお過ごしですか? 私はというと研究費申請の書類の山に追い込まれて、脳の色々な部署がストライキを起こしてしまい、辟易しておりました。 ようやく通常営業に戻ってきてくれて、お返事を書いております。 実は先日、岸見 一郎さんと古賀 史健さんの『嫌われる勇気』、『幸せになる勇気』を読み、承認

          自分の居場所、心のヨリドコロ

          それでは時空を超えてみましょう

          ヤンデルさん 前回のお手紙、嬉しくて震えました。 ・今回は〇〇という属性の人が読みたくなるように書いてみた と、同じ題材を何度も書き直していく企画をやってみませんか? 私の悩みを汲み取って下さり、少しでも文章力に幅が広がるように上達するようにと、こんな面白い企画を打ち出してくださいました。 このやり取りを通して自分の文章がどう変わっていくのか、自分でもワクワクしています! まずは、『高校生だったころの、理系センスがあるが医学の専門教育は受けていない、私』にターゲッ

          それでは時空を超えてみましょう

          【ストーリー】オーガニックシフト

          2634年1月3日 年頭所感 月並みだが「地球は青かった」。 月面住民たちは毎日を冒険のように活き活きと暮らしており、怠惰な日常を過ごす僕とは対照的である。 今も『生きるとはどういうことか』と考えずにはいられない。 ともあれ、月面移住をも可能にした昨今の科学技術には本当に感嘆するばかりである。 21世紀初頭に起源を持つ第四次産業革命の影響は、短期間で終焉を迎えるという当初の大方の予想を大きく裏切り、数百年にわたって今も続いている。 その間、人類の科学技術は指数関数

          【ストーリー】オーガニックシフト

          【ストーリー】「希望」もしくは「祈り」の向かう先

          「8人兄弟の末っ子だったこともあって、他の兄弟よりも色々と甘やかしてもらったんだよな」 戦後の混乱の時代を力強く生き抜いてきた彼は、昔を振り返ってこういった。 勉強は兄弟の中でも一番出来たそうで、早朝暗いうちから高校に向かい、星空を仰ぎながら家に帰る日々を過ごしたという。 医学部に入れる可能性もあったが、大学受験の直前に喀血。結核だった。 療養が最優先され二年間床に臥したのちに何とか健康を取り戻したものの、結局浪人できるほど家計に余裕はなく、大学受験は叶わなかった。

          【ストーリー】「希望」もしくは「祈り」の向かう先