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土田準平 映画『放課後戦記』はつらい思いを抱えている人にこそ見てほしい

『放課後戦記』は10公演が即完売した人気の舞台作品です。NMB48のメンバーとしても活躍する市川美織さんと、数多くのCMに起用されてきたりりかさんのダブルキャストで注目を集めました。今回、舞台のキャストを数多く起用し、秋月成美さん、小宮有紗さん、遠藤新菜さん、青島心さんら、ネクストブレイクガールズが加わり映画化されました。映画版と舞台版の違い、映画だからこその注目ポイントを土田準平監督に伺いました。インタビュアーは舞台版で都解未明役を演じた井上果歩さんです。

井上 土田監督とは舞台を見に来ていただいて以来ですね

土田 井上さんのことは覚えていますよ。ちゃんと考えて演技しているなという印象で、記憶に残っています。

井上 ありがとうございます。今回、人気の舞台作品を映画化するうえで苦労したことはありますか?

土田 舞台は何もない空間でも僕たちが想像で補完できるけれど、映画はそうはいかない。映像ではそのイメージをどう具現化するか、そのことは徹底的に考えました。例えば赤い木だとか、キャラクターの制服とか。どこか非現実的な世界観をどう見せるかという点は工夫をしました。イメージモチーフとして『不思議の国のアリス』がベースにあるんですよ。不思議な世界にもぐりこんでしまってあの制服になって、ウサギに会ったりとか、ハートの女王みたいなキャラクターがいたりとか。

井上 そう聞くと納得できる部分がたくさんあります!

土田 実は映画と舞台はもともと並行して動いていたんです。だから舞台に従って映画化する必要はなくて。重点的にやりたかったのは、不条理な世界の中で生きていく、トラウマを抱えた女の子がどういう風に成長していくかということでした。

井上 舞台版は約40名近いキャストが登場します。今回映画化にあたって、キャストを選んだ理由は何ですか?

土田 舞台の登場人物を一人ずつ丁寧に描いていたら、映画の2時間の枠に収まらない。映画では瀬名をもう少し深く描きたいという気持ちがありました。舞台版を見ていただいた方はご存知だと思いますが、登場するのは皆、名前に象徴されるキャラクター設定になっています。すべて、クラスにいるようなキャラクターを設定してバランスよく配置しています。仕切り役の子や、ちょっと孤立しがちな子や、みんなが思わず世話を焼きたくなってしまうような子がいたりして。人格もクラスもあまり変わらないんですよ。それぞれ役割があって生まれるものなので。

井上 たしかに。私の学生時代のクラスにもこんな人たちがいたかもしれません

土田 キャストをどうするかという話になったときに、市川美織さんとりりかさんは映画にも出ていただきたいなと思っていて。あの二人で物語をやりたいなって。
舞台は市川さんとりりかさんでダブルキャストだったけれど、それぞれの演じる瀬名がちょっと違った印象で、その違いがよかったんですよ。それであのラストになったんです。

井上 映画版は舞台版とまたひと味違っていて、舞台版を見た人も「そうきたか」と楽しめる作品に仕上がっていますね。見るたびに「こういう解釈もできるな」と新しい発見があります。

土田 描いているテーマが難しいので、映画を一回見ただけじゃわからないと思うんです。ぜひ何回も見ていただきたい(笑)

井上 市川さんにとっては初めての映画主演ですね。

土田 いまとなっては笑い話ですけど、彼女のことは相当追い込んだんです。
2週間ぐらいリハーサルをしたんですが、ワンシーンだけずっと同じことをやらせていて、何が何だか分からなくなるくらいまで追い込んで。型にはまらず、自分の中のなにかとリンクさせて芝居をしてほしかったんです。

井上 自分の内面から引き出した芝居をするって、とても大変なことですよね。

土田 そうなんですよ。でも、それは市川さんならできると思っていたから。最初のオーディションの時は、台本を読ませないでインタビューをしたんです。不条理なものを与えられたとき、それをどう解決したり解決できなかったりしましたか、と。自分の体験で語れる子が主人公をできるかなと思っていて。そこを市川さんはクリアしていたので。

井上 舞台版で市川さんとご一緒しましたが、周りを和ませる雰囲気を持った素敵な役者さんという印象でした。

土田 実は、台本ではあんなに泣くシーン書いてないんですよ。でもカメラを回してみたら、役に入り込んでいて。市川さん本人は「涙が出て止まらなくなった」と言っていたので、ちゃんと役にはなりきっていたなと。

井上 映画では主人公である瀬名の感情がビシバシ伝わってきました。舞台に比べ、映画のほうが顔つきや声が良くわかるからかもしれませんが。後半に向かって観ている側の私もどんどん苦しくなっていって。

土田 ほぼ順番通りに取っているので、女優たちの成長の過程がよくわかるようになっているかもしれませんね。ある種ドキュメンタリーなのかな。
市川さんは特に、相当頑張ったんだと思います。プレッシャーもあっただろうし。下積みのアイドルから一生懸命頑張って生きている子だからできることじゃないかな

井上 本作は登場人物が全員女子!ということで、一切男性が出てきません。
 
土田 自分を見つめ直す話なので、男の人が出てくる必要がないんですよね。どこか非現実的な世界なので、リアルを追求して生々しくする必要はないかなと。

井上 あの絶妙な世界観を描けたのは、男性監督だからこそかもしれませんね。

井上 本作ではバイオレンスな描写も多く出てきます。

土田 暴力描写をある種否定したかったんです。単なるスプラッター映画になってしまうと、それは伝えたいことから離れてしまうから。

井上 アイドル映画と思われがちかもしれませんが、実は強いメッセージ性を持った、見ごたえのある作品ですよね。

土田 アクションの質も前半と後半で分けているんです。前半はいわゆる魅せるアクションでスピーディーに。でも、瀬名が全部分かった後のアクションは、もっとエグく痛々しく描いています。自分の立ち位置をどう見るかによって痛みも変わってくる。それだけ自分の嫌なところと向き合うことはつらいし、傷口をえぐるような思いをする痛いことだから。でもそれは自分にしかわからない、そこを視覚化したかったんです。

井上 映画を拝見して、土田監督は感情が動く瞬間を心の動きを大切にする方だな、と思っていました。今回お話を伺って、やっぱりキャストのことをとことん考えて撮って行ったんだなという感じがしました。

土田 彼女たちの一人ずつの演技や細かい感情の機微が伝わればいいなと思っています。

井上 この作品を特にどういう人に届けたいと思いますか?

土田 周りとの付き合いが希薄だったり、コミュニティの中で自分の立ち位置がわからなかったり、そういう戸惑いを抱えている人には特に見てほしいなと思います。
トラウマだったり、裏では隠し持っている結構つらい気持ちだったり。別に変わらなくていいんじゃない、そのままでもいいじゃない、悪いところも好きになっていいんじゃない、というのがテーマにあるので。決して「頑張れよ!」という映画ではないんです。ちょっと気持ちが楽になればいいかな、ぐらい。

井上 舞台版をやっていて思ったのは、自分の中にある欲望を出せる人だけじゃなくて、出せなくて悩んでいる人はいるな、ということでした。私は自分の人生でうまくいかなかったときには周りに変わってほしいと思う傾向がありましたが、でも、それじゃだめなんですよね。他人に合わせたり自分が変わったりしなきゃいけない部分もあって。生きるためには自分の気持ちや欲望と向き合うことが大事。じゃあ、どうしたらいいんだろうって迷っている人には、この作品は突き刺さるんじゃないかなと思います。

土田 つらい思いを抱えている人が、この映画で疑似体験をして、そのままでもいいんだよってなればいいなと思っています。例えばつらい気持ちがあって悩んで悩んだ先に、ある種開き直りというかそういう風になれれば
試写の時に『エヴァンゲリオン』の世界観が好きな人に支持されそうな作品だと言っていただけたことがあるのですが、言われてみれば、色味とかキャラクター設定とか、しみ込んでいるものがあるのかもしれませんね。

井上 自分がマイノリティなんじゃないかとか、人間失格だとか、何となく自分が好きになれないとか、そうやって悩んでいる人がこの映画を観て、まぁいっか、と思えるようになれたら素敵ですね。

インタビュアー:井上果歩 撮影:延原優樹

映画『放課後戦記』はシネ・リーブル池袋ほか全国の映画館で上映中。
詳しくは公式サイトをチェック。
http://is-field.com/houkagosenki/index.html


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