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鈴木拓【後編】才能がない者の生き残り方

(このインタビューは2015年7月14日に掲載したものです)

クズ、ゴミ、カス、ゲス。浮き沈みが激しい芸能界で、稀代の“嫌われ者キャラ“としてしたたかに生き抜くドランクドラゴンの鈴木拓さん。後編では、著書『クズころがし』を入り口に嫌われ者と嫌われ役の違い、そして「蛭子さんの正当な後継者」を自認する拓さんの、今後の生き残り戦略について聞きました。

クズころがし』鈴木 拓/主婦と生活社/1188円
炎上芸人、芸能界一のクズ芸人……等々、不名誉な数々の異名を持つ人気お笑いコンビ・ドランクドラゴンの鈴木拓さんが「どんなに嫌われても、そこそこの成功をつかめる」「厳しい社会をしたたかに生き抜ける」処世術を初めて綴りました!

担当編集者の太鼓判!
たしかに。鈴木拓さんは口が悪いです。わりとガサツです。これという持ちネタはありません。ついでに顔もそんなに良くありません。でも。鈴木さんは誰に対しても丁寧です。偉そうにしません。他人をきちんと褒めます。仕事はいつも全力です。必要としてくれた人のために出来ることを精一杯やります。そして。さりげない優しさと愛にあふれています。芸能界で19年間生き抜いてきたそんな鈴木さんの「生き方」、味わってみてください。
(主婦と生活社 石井康博)

バラエティでの役割を全うする

—— 嫌われ役を引き受けてる拓さんですけど、気をつけてることはなんですか?

鈴木 微妙な違いですけど、嫌われ者にはならないようにしてます。嫌われ者はキングコングの西野(亮廣)です。

—— 嫌われ役と嫌われ者の大きな違いってなんなんでしょうか?

鈴木 他人の意見を聞かず、自分の意見ばかりなところ。これに尽きます。劇場で子供が泣き出したらロビーに出てけって言ったり、ひな壇はやりませんって宣言したり。

—— なるほど、わかりやすいです。

鈴木 僕は西野みたいな嫌われ者の嫌なところ、ウソくさいところを見抜いて攻撃する。みんなが嫌だなって思ってることを嫌な感じで言っても、ちゃんと見てくれる人は「よくぞ言ってくれた!」ってスッキリしてくれる。攻撃してくるアンチの9割は、「適当に毒吐いてやろう」ってたまたま来ただけの〝なんちゃってアンチ〟です。僕のことを知らない人に何を言われても痛くもかゆくもありません。

—— 傷ついたりしたことはないですか?

鈴木 最初は怖かったです。ブログだったんですけど、番組の企画の中で、アイドルに向かって下ネタを言ったんです。「キモーイ!」って罵倒されたから、芸人なんでもっとキモがらせることを言わなきゃいけない。バラエティの基本はケンカですから、コイツとやりあわなきゃいけない。そこで、「お前らでエロいこと考えてやるからな!」って捨てゼリフを言って。相手は中学生のアイドルですよ。

—— また、ゲスすぎますね……

鈴木 放送されたらすぐさま、僕のブログにアイドルファンから攻撃のコメントがブワーってきたんですよ。「殺す!」「死ね!」ってのが7000件も。事務所のメールサーバーもパンクしちゃって、1万3000通は来たって聞きました。

—— アイドルファンの怒りはもの凄いですね。

鈴木 怖くなっちゃって、しばらくは『少年ジャンプ』をお腹に入れて防御してましたね。仕事場に着いて、車から降りた瞬間に刺されるんじゃないかって。

—— そのときは怖かったと。でも、その後、炎上騒動で注目を集めるようになりますよね?

鈴木 きっかけは『逃走中』※ですね。仲間を裏切って自首して賞金を獲得したんですけど、その様子が放送されたら僕のツイッター宛てに「死ね!」って3000件くらい来て。でも、前にはコメント7000とメール1万3000の軍勢を見てますから大したことない。自分の名前も顔もさらさずに攻めてくるから、「うっせえな」って。 ※『逃走中』:あるエリアで限られた時間の中、芸能人が逃走者として参加し、ハンターから逃げ切れたら「賞金」を獲得できるゲーム番組。

—— まったくビビらない!

鈴木 まわりにも山ちゃん(山里亮太)とか炎上仲間がいて、普段から様子を見てましたから(笑)。「死ね!」って言ってくる僕のことを嫌ってる3000の敵の軍勢を挑発して、ツイッター上で炎上に仕立て上げます。その様子を眺めている中で、僕が何を言っても許してくれる人は敵と同じくらいいるので、3000対3000ですよね。で、注目を集め始めると、中立派の9000の諸国の軍勢も気づき始めるわけですよ。

—— 通りすがりの人ですね。

鈴木 まずやることは、何を言っても許してくれる3000に対しては「僕のようなものが、みなさんの気分を悪くして申し訳ございませんでした」って謝りつつ、9000には「自分でも不思議ですけど、オファーだけは絶えないんです」って笑いを提供して、どっちにもいい顔して。最後はだめ押しで、「いずれにしても、僕の卑怯な振る舞いを見て気分を悪くさせて申し訳ございませんでした」って正式に心から謝罪します。そうすると構図的には3000対12000に。

—— おお!

鈴木 多勢に無勢ですから、あとはもう放っておけば、感じのいい炎上の完成です。だから、まったく怖くなかったです!

—— 思考が戦いですね。戦略的というか。格闘技の経験を活かした具合で。

鈴木 ああ、そうかもしれませんね。いま初めて気づきました(笑)。

—— とてもしたたかだと思います。

鈴木 僕、「何かを捨てて、違う何かを得る」って生き残り方をずーっとしてて。理想ばかり掲げる中で、僕はキレイごとを言いませんし。結局、最終的な目標は幸せを得ることじゃないですか。大体、ネタとか考えませんし。

—— 芸人さんだったら、自分の考えるネタでみんなを笑わせることを目指しますよね。

鈴木 相方に任せてますから。バナナマンさんとか、さまぁ~ずさんとか、忙しい中にネタを考えて単独ライブをやり続ける。僕、真っ先に白旗あげちゃってるんで。

—— 潔いですね。

鈴木 あの方々は才能があってやってるから、どんな状況になってもお笑いタレントとして活動していける。僕は才能がないですから、いろんな人から細い糸を引き寄せて、ハンモックのような状態でなんとかなってるだけなので。だから、強風が吹いても落ちない。仮に太い幹があっても折れるかもしれませんし、才能があってもしがみついていられる腕力もないですし。

クズの賞味期限、クズのこれから

—— そんな拓さんでも『潜在異色』※ってライブに出たときには、自虐カルタってネタを考えたんですよね?
※『潜在異色』:「コンビではなく、個人で新たな自分の一面を披露したい」、「テレビでやれないネタをやりたい」との考えから企画されたお笑いライブ。出演者は山里亮太、田中卓志、田村亮など。2010年にはテレビ番組として日本テレビ系で放送された。

鈴木 パソコンに向かっても何も出てこなくて、ようやく考えついたネタです。自虐的な上の句を事前に録音しておいて、札を取るときにツッコむ感じ。たとえば「は」だったら「母親が俺に整形をすすめてきた」って音声が流れる。

—— はい。

鈴木 それに対して「息子に何のアドバイスしてんだよ!」ってツッコむ。まあ、ショートコントのところをひとりで正座してカルタをやってるってだけですけど。まあ、目立たない地味な自分がテーマなので。「じ」だったら「自動ドアが反応してくれない」「俺は生きてんだぞ!」とか、新たに考えるなら「ついに次男が俺のことを鈴木と呼ぶようになった」「お前も鈴木だろ!」ってふうな。

—— ネタ書けるじゃないですか!

鈴木 ネタはやっぱり創作して、ストーリーを考えて、最後は落とすものなんで(苦笑)。自虐カルタはあるあるネタにも近いですし、ものすごくレベルの低い末端のネタですよ……。本当は起承転結があるものがやりたかったですね。で、最後のほうは自分の良いところを言うってネタでした。

—— 今回の『クズころがし』でも密かに持ってた考えを明かしちゃったから、これからやりづらいな、って部分はありますか?

鈴木 最近は「本当はそんなこと本気で思ってないでしょう?」って深読みされますね。炎上もゲスな言動も論破するのも基本的にはバラエティ上でのやり取りですけど、今回の本は本心を書いてますから。余計にやりづらくなっちゃうな、って。

—— 最後に、これからはいい人キャンペーンに切り替えると伺いました。具体的な戦略は?

鈴木 僕の場合、賞味期限があるし、息子がいますから。小学校にあがったら、いじめられてしまう可能性がある。いつまでも、あんなバカみたいな炎上なんてやってらんないですよ。

—— そうですね。

鈴木 「アイツっているよね」って気づいてもらうためですから。それまでは「鈴木は生きてても死んでてもどうでもいい。どこにいるのかわからない。オーラがない。おもしろくない」ってキャラクターだったのが、今は「嫌われる。最低。金の亡者。おもしろくない」ってイメージに変化しました。

—— おもしろくないは一緒なんですね(笑)。

鈴木 これからはちょっとずつ説得力のある少数派の意見を代弁できるキャラにシフトチェンジしようかと。「説得力。代弁。おもしろくない」って方向に。やっぱり、おもしろくないは変わりませんけど(笑)。上手くいけばワイドショーとか違うジャンルで生き延びれる。

—— いま、芸人さんも情報番組に出てますからね。そこに拓さんが食い込んで行って、ほかの芸人さんでも言えないような、世の中のキレイごとをぶったぎるようなコメントを期待してます。

鈴木 それが言えたらと思って、山田五郎さんを目指してますよ。まずは髪の毛を一個に束ねようと。

—— ……。拓さん自身も「10年後はこのままだと蛭子さんになる」って恐れてましたが。

鈴木 このままだったら蛭子さんです、確実に。ただ、蛭子チルドレンが増えまくってるんですよ! 三四郎の小宮(浩信)くんもそうですし、(ウーマンラッシュアワーの)村本もそうですし、嫌われながらクズをウリにする。もしかしたら、西野もここに参戦してくる可能性もありますし、正統な後継者は僕だったよね!?

—— 熾烈な競争ですね。

鈴木 このジャンルでメシが食えるって気づいたみたいで。この席は賞味期限がヤベェですから、息子の身もヤベェですから、僕はいち早く次に逃げます! そこで山田五郎さんだ! って思いついたんですよ。

—— 蛭子チルドレンで「いい人」だったら、目指すべきは太川陽介さんじゃないですか?

鈴木 それだったら、蛭子さんとふたりで旅に行けますね。って、あの番組※の中で考えるのやめましょうよ(笑)。
※あの番組:テレビ東京系の番組『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』のこと。太川陽介と蛭子能収に女性ゲストを加えた3人が、日本国内にある路線バスを乗り継いで3泊4日の日程内に目的地への到達を目指す。マイペースに振る舞う蛭子とリーダー太川のコントラストが人気。

鈴木 拓(すずき・たく)
1975年12月7日、神奈川県生まれ。’96年、お笑い養成所で知り合った塚地武雅とドランクドラゴンを結成し、ツッコミを担当。以降、人気お笑いコンビとしてラジオ、テレビ等で活躍。俳優として映画、ドラマにも出演する

構成:小島研一 写真:渡邊有紀

炎上芸人、芸能界一のクズ芸人……等々、不名誉な数々の異名を持つ人気お笑いコンビ・ドランクドラゴンの鈴木拓さんが「どんなに嫌われても、そこそこの成功をつかめる」「厳しい社会をしたたかに生き抜ける」処世術を初めて綴りました!

クズころがし(主婦と生活社)

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