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より理性的な男

あるところにもっとも理性的だ、という男がいた。

その男は「欲」というものを一切我慢することができるという。

周りの人々は面白がって男に無理難題を出してみた。

「甘いものを我慢してみて!」

男は簡単に止めた。

「しゃべるのを我慢できる?」

男は身ぶり手振りだけで生活するようになった。

かわいい女の子にも振り向かないし、行列にも静かに並んだ。人の悪口にも、まったく怒らなかった。

「さすがにご飯は食べるのを止められないでしょ」

誰かが言ったこの一言に、さすがの男も戸惑ったが、やってみたらどういうわけか、食べずに暮らせた。

どんな無理難題も、「理性的」に実現していった。

人々は少し怖くなり、男に無理難題を出すことをやめた。

そんなある日、「私は彼よりも、より理性的である」という男が現れた。

「もっとも理性的な男」は、もちろん理性的だったので、男に丁寧に質問した(紙に書いて)。

(甘いものを我慢できますか?)
「いえ、大好物です」
(あなたはよくお話になりますね)
「話し出すと、もう止まらなくて!」
(女の子を前にしたらどうします?)
「もちろん、口説きます」
(ふむ、どういうことでしょうか?私はとうとう、理性的に食事をとることも止めたのに)
(なぜ、あなたのほうがより理性的だと言えるのでしょう?)

「それはですね、あなたがどうやっても生きてるからです」
やってきた男はニコニコしながら、そう言った。

(と、いうと?)と理性的な男が書くやいなや。

やってきた男は立ち上がり。

「つまり、こういうことです」
と言って、ぱたんと倒れた。

その男は、そこからもうピクリとも動くことはなかった。
そのあとも、「元」もっとも理性的な男は、生き続けることしかできなかった。

どうしても。

以下オマケ

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