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コラム1 そもそも移民はコントロールできるの?


 今回、在留資格「特定技能」の創設をめぐる国会審議で議論になったトピックの一つは、この在留資格によって何人の移住労働者を受け入れるのか、ということでした。当初、受け入れ人数を設定していなかった政府案に対し、与野党双方の批判が出され、結果として5年間で約34万人(見込み)と決められました。

 このような人数の制限を求める主張は、国家が移民をコントロールできるという考えを前提にしています。移住労働者は、あたかもモノのように、1年間に何人、この産業に何人、と配置できるかのようです。

 しかし、移民の歴史は、こうした前提が成り立たないことを明らかにしてきました。日本での受け入れも例外ではありません。たとえば、近年急増している留学生が働くことが多い就労場所の一つは、コンビニエンスストアです。コンビニ業界は、在留期間3~5年間の技能実習生を受け入れることができるよう、政府に働きかけてきましたが、認められませんでした。そうした背景の中、業界は留学生に注目し、受け入れを進めるようになりました。コンビニによっては、日本語学校や送り出し国のブローカーとも連携しながら、来日後の就労先としてコンビニをあらかじめ「保証」した受け入れに関わっているところもあります。こうした動きを政府が想定していたかは不明ですが、結果として留学生の急増につながりました。

 この例からわかるのは、まず、ある特定の入り口を制限しようとしても、他の入り口からの受け入れが増加することがある、ということです。これは、2018年入管法改定で議論された「特定技能」の人数の上限のように、一つの入り口の上限だけを決めても、ほとんど意味はないことを示唆しています。

 またこの例からは、人の移動には国家だけではなく、さまざまなアクター(行為主体)が自分たちの利害に基づき独自の動きをしながら関わっている、ということもわかります。特に、受け入れ国と送り出し国でさまざまなアクターが結びついた「移住産業」が成立すると、国家がそれを統制することはより困難になります。

 なお、人の移動に関わるのは、国家や企業、業界団体だけではありません。移民とその家族・親族なども重要なアクターです。たとえば技能実習生は、これまで最大5年間の就労・滞在しか認められず、終了後は帰国しなければなりませんでした。しかし、技能実習生も日本で生活している以上、さまざまな出会いがあります。なかには日本人や日本に定住した他の移民と結婚する例もあります。こうした場合、技能実習生は(一旦帰国して配偶者ビザでの呼び寄せられることが必要ですが)、日本に定住できます。定住した移民は、生活が安定してくれば、送り出し国に残してきた子どもを呼び寄せることも可能です。またその後、たとえば起業してレストランを始めたら、技能ビザでコックなどを出身国から呼び寄せることもできます。こうして移民のネットワークが生まれます。こうした移民や移民ネットワークの動きを、国家がコントロールすることは不可能です。

 人の移動とは、国家、市場、移民、移民ネットワークなどさまざまなアクターが関わる複雑なプロセスであり、国家が「はい、明日から何万人来てください」、「景気が悪くなったので帰ってください」といって、そうなるものではないのです。

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