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記事コメ:コロナ5類「マスク要否」論争で知っておきたい事

今回は表題の記事についていくつかコメントしておこう。

まず、今回の5類移行については専門家からは慎重な意見があったというのは前提である。別の記事からの引用だが、部会の議事録が記事にされている。その中で、

政府は「私権制限に見合った、国民の生命および健康に重大な影響を与える恐れがある状態とは考えられない」と説明。経済界の委員から歓迎する意見が上がった一方で、医療の専門家からは異論が続出した。

という一文がある。これを見ても分かる事は、少なくとも「医学的・科学的見地から考えた時に新型コロナウイルスの危険性は何も変わっていないというのが前提にある」という事だ。これは私もいつも言っている事だが、今の政府の考え方は完全に非科学的な側面に基づいているのだ。上の分にある通り、経済界や国民感情に阿った姿勢が明確である。

今回の記事でも上記の記事に含まれる内容が転載されており、

マスク着用について、専門家は慎重だ。1月24日に、厚生労働省の感染症部会の議論を紹介した朝日新聞の記事は、以下のように記している。

<マスク着用の緩和については8人が言及し、慎重な意見が目立った。政府は屋内でも原則着用を求めない方向で検討中だが、「着用にはエビデンス(科学的根拠)があるが、外すことに関する情報は乏しい。着けたい人への配慮も必要」「感染対策として必要で、類型移行とは別に検討すべきだ」「緩和は時期尚早」などの声があった。>

という事になっている。5類移行とマスク着用に関するガイドラインがセットになっているのは法的な意味合いがある訳ではないのだが、上記の経済的な側面、特に外国への配慮や一部の蒙昧な国民への感情的配慮の側面が強いため、ひとまとめに政策として動かしたいのだろう。私はいつも言っている事だが、今回の事で政治というのは「科学的な事実」には全く基づかない判断をするというのがよく分かっただろう。何しろ医療の専門家が慎重意見を出し、経済の専門家が産生する様な政策を実施するのだから。

さて、記事の本題に移っていくと、マスクの有効性に関する議論をしている。著者の有名なとんでも医師はどうやら反マスクらしい。必死にマスクが効果無いという論文を考慮に入れろと主張している。だが、以前私が紹介した通り、そもそもそれらの論文は本質を誤っている。

上の記事の中で紹介した通り、空気感染までを含めてマスクの有効性を考察している研究は多く存在する(Proc Natl Acad Sci U S A. 2021 Dec 7;118(49):e2110117118.、mSphere. 2020 Oct 21;5(5):e00637-20. など)。では有効性の評価をする上で、どこに問題があるかと言うと、「正しい運用」というその一点である。

一般的な事実として、マスクは医療現場での疾患感染を大幅に減少させることが知られているが(Lancet 395, 1973-1987 (2020)、Proc. Natl.Acad. Sci. U.S.A. 118, e2014564118 (2021)、Science eabg6296 (2021)、など)、通常のコミュニティ環境における研究は一貫性のない結果を報告している (Eurosurveillance 25, 2000725 (2020)、Cochrane Database Syst. Rev. 11, CD006207 (2020)、など)。つまり、正しい知識や訓練が無ければ逆効果になる場合を含むということだ。本題の記事で必死に引用している論文のデータも私のCochrane系列らしいが、要するに「正しい運用」という概念を無視して何でもいいからマスクしてるかしてないかで比較した研究を必死に持ち出そうとしているのだ。

普通の知能があれば、「専門家が使えば効果がある」「一般人を無作為に選ぶと効果が見えない」というのであれば、「マスク自体の効果はある」「正しい使い方の問題がある」というのは理論的に明白な筈である。つまり必要なのは「運用法の教育と訓練」であって、「マスク不要論」ではない。まともな人間ならこの程度の事は当たり前に理解出来る筈なのだが、マスクをつけたくないなどの感情的な理由で見て見ぬふりをするのだ。以前も書いたがまだ理性的に行動できない小児がマスクを付けないのは仕方ない。どうしても逆効果になる可能性が高い。だが、良い大人が自身の感情や欲望の為だけにマスクをしないというなら、それは子供の我が儘と同レベルだという事を自覚した方が良いだろう。マスクに効果が無いと思い込みたいのは自由だが、その原因はマスクではなくそういう人間の知識と行動が原因である。その点を自覚した方が良いだろう。もっとも既に新型コロナウイルスによって無自覚に中枢神経系に障害が出ているから仕方ないのかもしれないが。

さて、まとめに入るが、私の記事でも紹介した通りマスクは正しく使わねば逆効果になる。それらを無視して評価してもマスクの有効性を語る事など出来ないのだ。逆に言えば、正しく使えば効果があるのだから、記事で引用されている通り「着けたい人への配慮も必要」というのが最も重要だろう。事実として、CDCの調査でも「屋内では常に着用し続ける」程度の意識の高さがあれば十分な効果が得られること証明されている(https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm7106e1.htm)。まともな人間はある程度正しく使う意識があり、それによって脅威を防ぐことが可能であろう。この記事の筆者を含め、社会の足を引っ張る無知蒙昧な人間こそが、これからの世界に於ける最大の敵かも知れない。

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