見出し画像

論文紹介:COVID-19後の疲労感と認知障害の非回復の予測因子

今日は新型コロナウイルスが神経症状に与える影響について、ドイツから重要な論文が出ていたので紹介しよう。いつも言っている通り、新型コロナウイルス感染後の疲労感や認知障害といった神経系症状は重大な問題である。神経に関連する有病率の高さとそれがもたらす大きな障害にもかかわらず、これらの後遺症の長期的な経過についてはほとんど知られていない。下記の論文ではこれらの症状の長期的な経過を評価し、回復しない危険因子を特定することを目的としている。

「Predictors of non-recovery from fatigue and cognitive deficits after COVID-19: a prospective, longitudinal, population-based study」
(EClinicalMedicine. 2024 Feb 3:69:102456.)

データベースの解析により、新型コロナウイルス感染者の21%(95%信頼区間(CI)[20%、23%])に疲労があり、23%(95%CI[22%、25%])に認知障害があった。疲労感については46%(95% CI [41%, 50%])が最終的に疲労から回復していた。認知障害のある参加者は57%(95% CI [50%, 64%])が認知障害から回復していた。これらの割合については、高齢者で高い傾向があるものの基本的に年代による差は小さく、10代~30代の若者でも一定の割合でリスクがある。これらの結果から、過去にも報告がある通り感染時の症状に関係無く一定の神経系症状リスクがある事が分かり、さらにおよそ半分近くの患者は長期的な神経系症状から回復していない事も分かる。この様な長期的な神経系症状こそが新型コロナウイルス感染の最も恐ろしいリスクであることは常に述べてきた通りである。

そして論文ではこの長期化・非回復に関連する要素が調べられている。一つとして、疲労感に関してはベースライン時により高い抑うつ症状負荷および/または頭痛を示す場合に、回復する可能性が有意に低かった。事前に神経系に関連する異常がある場合にリスクが高くなるのかも知れない。疲労感については副交感神経との関連が過去に報告されていたが、これらは頭痛や鬱とも関連するため、総合的に神経系の状態と疲労感の関係を考察する必要があるだろう。

また、認知機能非回復の有意な危険因子は、男性、高齢、12年未満の学校教育であった。男性や高齢と言うのは症状との相関も示されている通り、ウイルス排除などと関係しているのかも知れないし、ベースとなる精神神経系のダメージ蓄積と関連しているのかも知れないが、学校教育年数・つまり学歴との関連は意外である。要するに言えば、高卒以下の学歴だと認知機能が回復しにくいという結果なのである。これは背景に関する科学的考察が難しいのだが、基本的な感染対策の意識に起因するウイルス暴露量の差、体調管理の差、従事している職業に起因する体力の消耗差などがあるかも知れない。穿った見方をすれば、頭が悪い方が認知機能の低下が認識できる脳機能の閾値までの猶予が少ないという可能性も無くはないが、この手の分析で有意な差として現れる原因とは考えにくい。

最後に重要なことは、年齢は、疲労感や認知障害の回復に有意な影響を及ぼさなかったことである。若かろうが長期的な神経系症状のリスクは変わらない。また、論文ではワクチンとの関連は調べられていないが、恐らく大半がワクチン接種者であることは予想されるし、実際問題としてワクチン接種が神経系症状に影響を与えない事は既に証明されている。これも過去の記事で紹介した通りである。今回の事でよく分かった事として、全体の2割以上は神経系症状が長期化し、その内半分近くは中々回復しないという事だ。そして、そのリスク要因も性別や年齢、学歴など短期的な行動ではどうにもならない要素だという事だ。最近見掛けた下記の参考記事にある数字によると日本国内でも後遺症の割合は2割程度らしい。結論として、感染対策をキッチリと行うしか無いという事がよく分かる。

(参考)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?