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そしてゆめをみる

生まれ育った家はもうない。

今住む北国のこの街より、はるかに田舎で育った。
マクドナルドもコンビニも、輸入されたのは世間よりずいぶん後だった。
「Uくんち、ローソンになるって」
「あ、U商店やめるの? ろうそんて何?」
というくらい田舎だった。


自分が家を出た後、市の区画整理があり、綺麗な堤防が広げられた。
台風で溢れがちだった川沿いの生家は、町内会ごと削られて消えた。

もう残骸すら見ることは叶わないその古い家を、魘されると決まって夢に見る。
母上が倒れる夢だとか、室内に虫や蛇が湧く夢だとか、窓から知らない人に覗かれる夢だとか。
うぁ!と起きるような時は、決まってあの家が舞台だ。

転勤のせいで、あの家より長く暮らした場所がまだ無いからかもしれない。
しかし、悪い思い出ばかりではないはずなのだが。
インドア派なので自分の部屋が大好きだった。好きな漫画とCDに囲まれて、何時間でも過ごせた。

東京に出ることは、高校1年の終わりに漠然と決めた。
夢と言うほど確固たる決意ではなかったのに、一人暮らしを始めた時に、ひどく解放された気分になった。

何も知らない、コドモな自分を思い知りながら。色々な人に迷惑かけたり、叱られたりしながら。たくさん教えられて過ごした東京。

それに比べると、あの田舎町は閉塞感でいっぱいだったと後から気づく。
潜在意識が、悪夢に結びつけるのだろうか。


小芋の頃は、怖い夢を見ると眠れなくなって母上に泣きついた。
今は、夜中でも許してくれる相手に「怖い夢を見た」とメールやラインで訴えて、布団に入り直す。
返事は来なくてもいい。
一人大好きマンと言いながら、都合の悪い時だけ誰かに寄りかかるクソヤロウである。
メールをする相手もいなくなったら、今よりnoteやXに依存するのだろう。

そしてクソヤロウは推しの曲を思い出し、今日こそは推しのゆめをみるために、目を閉じる。

めっちゃ好き

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