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ラジコン広場 «小説»

昔はアキチがいくらでもあったのになぁ、とパパが言う。
そうねぇ、うちの方みたいな田舎はたくさんあったけど、こんな街中にもあったの?とママが聞く。
アキチのドカンとかいうもので、2人は盛り上がっている。
ドカンて何?と口を挟んだら、ドラえもんの漫画に出てくる、とパパが言った。
あぁ、なんとなくわかった。丸いやつ。


パパは休みの日には一人、部屋でラジコンをいじる。
前からいつも、僕が寄っていくと、嬉しいような、困ったような、微妙な顔をする。
この前初めて、やってみたいとおねだりした。
ちょっと迷って、オッケーしてくれた。
ママは乗り気だ。
二人で外で遊べるなんていいじゃない。
手先も器用になりそうだし。
あたしは本ばっかり読んでる子だったから何にもできないもん、この子には手に職をつけて欲しいよ。
テニショク?てなんだろ。
ラジコン出来るともらえるんだろうか。

ママは大賛成だった。
……アマゾンで値段を見るまでは。

ママは僕にラジコンを買うことより、パパの部屋の箱の山が全部でいくらなのかを気にし始めた。


3人で、ラジコン広場に行った。
久しぶりねって言うから、ママは連れてきてもらったことがあるみたい。

僕んちのある街を見下ろす公園には、幼稚園の時にバスで来たことがある。
すみっこの駐車場だと思ったのが、ラジコン広場だった。

パパはピンクの目印をあっちこっちに置いて、大きなバッグからラジコンを取り出した。
ピンクのボディーに、タイヤは黄緑。
タイヤじゃなくてホイールね、とパパ。
ゆっくりとボディを開けて、電池のスイッチを入れたみたい。また車をもとに戻す。
リモコンもスイッチを入れて、立ち上がった。

僕、走らせてみたい!手を伸ばしたら、
リモコンじゃなくてプロポって言うんだよって。
大きいプロポを両手で持った。教わりながら、タイヤみたいなところを右手でそっと回して、左手で下のボタンを押すと、足元のピンクの車がそろそろと動いた。
ぐうっと右に曲がって行ったから、慌ててタイヤを左に回す。びっくりしたみたいに、車は反対を向いた。

ゆっくり広場の真ん中まで行った時に、僕の後ろからパトカーが猛スピードで追い越した。

振り返ると、にやにやしながらママがプロポを握っている。
のろのろ運転してるとタイホするわよだって。

パパはまたしゃがんで、水色のラジコンを準備している。
なるほど、荷物が多いと思った。

ママ、上手だね。
上手よ!ほら、かかってきなさい!
危ないパトカーだ。
水色の車がパトカーに追いつく。そっと並んで、追い越す。
一番走り方がキレイだ。

全然思ったようには走らなかったし、何回も芝生に突っ込んで、助けに行かなくちゃならなかったけど、
僕は叫んだ。

楽しい!


僕も作ってみたい!
僕のラジコン自分で作りたい!
パパは、嬉しそうに笑った。
ママも笑ったあと、ちょっと上を見た。
アマゾン、思い出したんだろうな。

「女の子がラジコンねぇ」
パパが言うと、
「最初にあたしにやる?て誘ったのはパパだったじゃん。今どきそんなこと言うとコンプラとやらがうるさいよ」
ママが答える。

コンプラってなんだろう。
テンプラ?ラジコン?どっちの仲間?

僕はスカートに付いた芝を払って、プロポを握り直した。

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