桜降る/舌は火箸で焼き捨てろ2

 おれの記憶は三秒もたない、と前かいかいた。が、そ
んなことはなかった。けれど、わたし、はそうかきたかった、
の、だろうか。
 老化、蝋化、狼火、廊下、
ろう
羽化、雨下の道路を歩く、とき、はたいてい、くつくつじゅくじゅくとあしさきが倦んだ熟んだ膿んだかんじを靴のなかでする。
 おもい。
 以下は引用。

 きょう、私は、めが、醒めたのですが、そのまま、終わってしまいました。
 今朝、私は、めが、さめません。
 きょう、私の、めが、醒めて、そのまま、眠ってしまいました。
 そのまま、眠っていました。
 きょう、眠っていました、私が、めが、醒め、そのまま、一日が、終わってしまいました。
 私が目を覚ましたのはけさのことです。
 めが、醒めませんでしたが、きょう目を覚ました私はそのまま正座させられ何度も叫ぶ。
 きょう、トイレ、私、言って、終わってしまいました。
 醒めませんでした。
 めが、さめ、私、トイレ、行って、眠ってしまいました。
 苦しい。母。母。背中から、生えて、いる。
 きょう、私は、めが、さめなくて、終わってしまいました。
 今朝、私は、めが、醒めたのですが、そのまま、眠って、終わってしまいました。
 今朝、私は、めが、さめませんでした。
 今朝、私は、目が、覚めて、めが、醒めて、めが、さめませんでした。
 今朝、終わってしまいました。
 私は、さめない。
 きょう、私は、終わっていました。
 きょう、私は、終わっていました。
 私は、きょう、めが、醒めて、母が、生えて、眠って、いる、背中、ちぎろうとした。
 今朝、めが、醒めて、正座していた、私は、叫ぶ。
 そのまま、叫ぶ。
 さけぶ。

 ここ、三週間ほど、頭痛が、痛くて、鈍い痛みが、頭の中で、鈍く響いて、この三週間は、頭が痛い、そんな感じだったので、鈍痛が、ずっと、頭の中で響いて、三週間前後は、書けませんでした。だから、書けませんでした。だから、書けませんでした。とっても楽しい。だから。書くことは。ずっと、書けませんでした。だから、書くことは、楽しいのです、とっても、楽しい。ここ、三週間近くも、書けませんでしたから、とっても。
 だから、ここ三週間ほどは、少しだけ、書きました。
 だから、この三週間のことではなくて、私は、少し、書きます。
 絨毯を、母が、私ではなくて、母が、絨毯を、母が、替えたのですが、母が、私に、それを、手伝えと、母が、言って、私は、絨毯を、母が、私に、言った、その通りに、絨毯を、私ではなくて、絨毯を、手伝って、私ではなくて、母が、絨毯を、替えたので、私は、手伝って、絨毯は、母ではなくて、私の、見た、絨毯は、私ではなくて、絨毯は、私の、見た、絨毯は、母ではなくて、私のようで、手伝った、絨毯は、私が、見たら、私のようで、私ではないけれど、絨毯は、母が、手伝って、と言った、絨毯は、母ではなくて、私のようでした。
 水をのむ私。
 私は、絨毯に、母ではなくて、絨毯に、私は、取りつかれて、絨毯は、私の顔をしている、絨毯は、私を、母ではなくて、私を、私の顔をしている、絨毯は、私に、取りついて、私は、私の顔をしている、母ではなくて、絨毯に、取りつかれている、私は、母ではなくて、絨毯を、私は、絨毯を見に、私の顔をしている、母ではなくて、絨毯を、私は、見に、母ではなくて、私は、絨毯の、私の顔をしている、絨毯の、母ではなくて、私の、顔のところまで、絨毯は、やってきた。
 母は、笑い、私は、母の、笑い、絨毯ではなくて、笑いを、見て、私は、母ではなくて、絨毯を、私の顔のような、私の、笑いではない、私の顔のような、母ではない、絨毯を、見に、私ではない、絨毯は、私の顔のような、私の顔を、見に、やってきたのに、絨毯でも、私でもない、母は、笑い、絨毯は、私でもない、私の笑いでもない、私の顔のようでもない、母の、笑いのようなものを、絨毯は、私の、笑いの替わりに、見て、私は、替わったばかりの、私の顔のような、笑いではない、私の顔のような、私ではない、私のではない、私のような、絨毯を、見に、やってきたのに、母は、笑い、私を、見ているのかって、笑い、母の、笑いを、私は、絨毯は、見た。
そのとき。
 めがさめた。
 どこだどこにいる敵はどこだ俺は憎い俺は憎い俺じゃないおまえが憎い憎い憎いお前が憎い憎んでいるお前が俺が俺は俺が憎いお前が憎い憎い憎い肉肉肉に肉にお前の肉俺の肉俺の国家俺のお前の国家国家国民国民国家に肉喰らい人食い国家国民国家人食い国民おまえは俺人食い人肉国民お前は憎い人民俺肉喰らい人食い国民の肉お前も国家も俺も俺じゃない国家じゃない国民じゃないおまえの全部が全てが肉がおれがお前がおまえが憎いどこにもいないのに俺がおれが俺がなくなったらいつもお前が俺がなくなったところから生えてきてお前が憎い憎んでいるお前が俺が俺は俺が憎いおまえが憎い憎い憎い肉人肉肉に肉におまえの肉俺の肉俺の国家俺のおまえの国家国家食人国民国民国家に肉喰らい人食い国家国民国家人食い国民お前は俺人食い国民おまえは憎い俺肉喰らい人食い国民の肉お前も国家も俺も俺じゃない国家じゃない国民じゃないお前は括弧に括られた国家国民国家人食い国民人肉俺に憎いもの全て全部の国家の憎いものこの国民国家の憎い人肉喰い国民に肉肉人食いの肉に喰いどこかの憎いおまえは俺の。

 きょうは、私は、母の、私ではなくて、絨毯を、手伝って、と言われた、私のではない、絨毯を、母を、手伝って、私は、母の、私ではなくて、母の、絨毯を、私は、手伝って、と言われたので、私は、替えました。

 私は、痒み、聞いて、痒い、私、私は、痒い、身体、私の、身体、痒み、私、痒い、身体、身体、私は、痒い、聞いて、痒み、痒みに、私は、痒い、痒い、聞いて、痒い、私は、身体、痒い、言って、身体に、私の、痒み、私の、身体の、痒みに、痒い、言って、私は、聞いて、痒い、言って、私は、痒い、痒みの、私に、私は、痒い、身体、痒い、聞いて、言った。
 私、痒みに、私の、身体の、痒みに、聞いて、私、身体、痒い、言って、やめて、言って、聞いて、私、身体、痒い、私、痒み、身体の、痒い、やめて、痒い、聞いて、痒い、私の、身体の、痒みの、身体の、私、痒みに、やめて、言って、痒み、聞いて、私、身体、痒い、やめて、痒み、やめて、言って、痒みに、私は、私の、身体、身体に、やめて、痒い、言った。
 おまえ、痒い、私、痒み、おまえに、痒い、おまえ、私の、身体、おまえ、痒み、私の、おまえ、身体の、痒み、おまえ、やめて、言って、おまえ、痒み、言って、痒い、おまえ、私の、身体の、痒み、痒い、私、言って、痒い、痒い、言って、聞いて、おまえ、私の、身体の、痒みの、おまえ、やめて、聞いて、やめて、痒い、痒みの、身体の、おまえ、聞いて、やめて、身体、痒い、私、私の、身体、痒い、私の、身体の、聞いて、痒み、おまえ、やめて、痒い、やめて、聞いて、痒み、私の、おまえ、痒い、私、痒い、やめて、言って、言った。
 なのに、

 やめない、

 掻いて、

 皮膚、

 爛れ、

 ケ、

 生えて。

 いんようのわたしはいじょう。

 告発文を書きなさい。
 それは母からの命令でした。告発文を書くのです。父に課せられた不当な労働を告発する、告発文を書くのです。あなたは小説を書こうとしているのだから、そのような文章の執筆も得手でしょう。協力してくださいと母は言いました。そのころ父は朝5時に起床し勤務先に向かい、帰宅は23時を過ぎることもありました。父は帰宅すると俺の勤務先はブラッキーブラッキーと飲酒しながら絶叫するので、私は彼が眠ってからようやく自分の時間になったと活動する母が眠ってからようやく自分の時間になって、父の食べ残しと飲み残しを処理してから眠るのでした。母によれば、私は父に不当な労働を強いている某を告発するために母が記録した出勤と帰宅の時刻のメモと母が口頭で指示する父の絶叫を聴いた母の主張を、雄弁かつ明晰で情感のこもった筆致で文章にしなければならないのでした。残念なことに、私は小説を書こうとしているにもかかわらず雄弁でもなければロジカルでもなく情感も欠いた文章しか書けないのでした。奴ら! 恥知らず! ブラックなんだよ! などといつの夜だったか父が叫んでいた気がしますが、日付が思い出せません。母は父に理不尽な労働を課す権力の悪魔的な力について、私が詳細かつ克明に記録するよう希望しているようでしたが、残念なことに私は音声記録装置ではありませんでしたので、母の希望する機能を果たすには不向きでした。とはいえ私はいつごろからか、それは父の絶叫が母の懇願が脳内で反響し続けて何も思考できない時間が看過できないほどに増加してからだった気がしますが、そばにある記録装置に私は見たこと、聞いたこと、感じたことを、文章として、入力することを始めました。私は、今はもうあまり記憶することができませんが、昔はよく昔の出来事を覚えていました。私は私の記憶が私の人格が一緒に消滅していく気がしましたので、私はそれを記録することを習慣にしようと思いました。ところが私は記録装置としては欠陥品だったので、充分でもなければ必要でもない仕方で、断片的で、かつしばしば誤った形でしか記録できないのでした。告発文を書かなければいけません。こうなった以上あなたがこのような生き方を選んだことは我々にとって望ましいことであったというようなことを母は私に言い聞かせました。
 その後、状況が変わり、あれほど熱烈に主張していた労働の告発は立ち消えとなり、母と父は無邪気に喜び勝利だ勝利だと笑っておりましたから、私が不当な労働を告発する文章をかく、義務はなくなりましたが、私は命令されたことを成し遂げられぬ無能ではありません。私は命令されました。私は不当な労働を告発します。私は思い出す。私は、父は、母は、私の中から記憶されて記録された父や母や私が喋りだすので私はただの記録装置です。それが労働して、それが告発するのです。何かは知らない。おれや私は俺もわたしも誰もおたがいを誰かわからない。どれが何を語りますか、わかりかねますか、で、語りますか、書かれますか。

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江永泉

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