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インデックスファンド投資でアーリーリタイヤが難しい理由③~宝くじとワンチャンス~

これまで2つの記事で「インデックスファンドでアーリーリタイヤが難しい理由」について取り上げました。

端的に述べると「期待収益率8%、期待標準偏差(リスク)26%の外国株インデックスファンドでは、それ以外の収入源に頼らなくて良いだけの資産を確保することは難しい」と言うことです。
期待リターン8%で運用して残りの人生を無収入で乗り切るための資産を構築するには相応の元手が必要です(①の記事)。
また、期待標準偏差26%と言うのは、収益の変動がかなり大きく、他に収入源がない状態で資産の大部分を振り向けるには勇気がいります(②の記事)。
最後に、本項では「アーリーリタイヤに必要なのは健全な資産運用ではなく、ワンチャンスを狙った投機ではないか」と言うことを述べます。
ここで言う「ワンチャンス」は「可能性は低いが大当たりする確率がある」くらいの意味です。具体的なトピックとして宝くじを見ていきましょう。

どうしてみんな宝くじを買うのか

宝くじの払い戻し率(くじの販売総額のうち当選金に回る割合)は概ね48%なので、単純に考えると期待リターンはマイナス52%です。300円のくじ1枚について平均144円回収できるということです。ひどい話ですが、なんと宝くじの根拠法である「当せん金付証票法」の第5条で、払い戻し率が50%を超えないように定められています。また、当選金の多くが少数のくじ(1等とその前後賞)に偏っているので、実感としてはもっと低いように感じます。
損する可能性が極めて高いため、宝くじはしばしば「愚か者の税金」と呼ばれます。

では、なぜ多くの人が宝くじを買うのでしょうか?これは、商品設計がパーフェクトだからです。
まず第一に、一等の当選金額の決め方が秀逸です。最近だとジャンボ宝くじの最高当選金額は一等とその前後賞を合わせて7億円です。また、BIGの最高当選金額は6億円です。これはサラリーマンの生涯賃金3億円の2倍を目安にしているのではないかと私は推察しています。つまり、ワンチャンあればリタイヤ出来るのです。
第二に、300円が5億円になる確率が極めて低いがゼロでは無いことです。例えば、今年のサマージャンボ宝くじでは、1000万枚(1ユニット)に一枚、一等が含まれていました。つまり一等が当たる確率は0.00001%です。1年間に交通事故に合う確率が0.52%、航空機事故に合う確率が1フライトあたり0.009%なのでどれほど低い確率か分かると思います。
行動経済学の知見によると、人間はとても低い確率を評価するのが苦手です。実際の数字よりも、起こりやすいと判断する傾向があります。そのため、僕たちは滅多に発生しないけれど発生するととてもハッピーな出来事が大好きです。宝くじで一等が当たる確率はとても低いと数字では分かっていても、自分は当たると考えてしまうのです。

アーリーリタイヤとワンチャンス

さて、上の宝くじの話は、僕たちの「ワンチャンス」に対する愛情が食い物にされてしまっている例でした。ただ、実はこの「ワンチャンス」的なリターンこそが、アーリーリタイヤには必要なのだと思います。
最初の記事で見たように、外国株インデックスの8%という期待収益率では、それなりの元手が無いと完全なリタイヤは難しいです。期待リターンがそもそも足りないのです。従って、若くしてリタイヤすることを本気で求めるのであれば、期待リターンがもっと高いプロジェクトを検討しないといけません。

私達が実際にメディアで目にするアーリーリタイヤの実践者は、
①外資系証券等で高額の給与を得た元高収入サラリーマン
②自分が起業した会社の持ち分を売却した元起業家
③ヒット作に恵まれたミュージシャンやアーティスト
④実家が資産家だったのでそもそも働く必要が無かった人
のいずれかだと思います。
④は私も含めてそもそも生まれた時点で縁が無かった人が多いと思いますが、若さと学歴と職歴が揃っている人は実は①が一番近道だと思います。②と③は困難な道ですが挑戦するハードルは他の2つと比べれば低いと思います。

もちろん、「皆でアントレプレナーやアーティストを目指すべきだ」というほど私も短絡的ではありません。ただ、もっとリスクと投入する時間を増やして、高い期待リターンを求めないとアーリーリタイヤは難しいというのも事実だと思います。例えば、個別株に投資したり、自分の得意な分野でサイドビジネスをしてみるというのは現実的な手段だと思います。もちろん、元本が全損する可能性や時間を費やしただけの徒労になる可能性もあるので、それを良しとしないのであれば外国株インデックスファンドくらいのリスクレベルで満足しておくのは妥当な選択です。

ポール・ポッツになれなくても

携帯電話のセールスマンだった36歳の英国人ポール・ポッツは、テレビのオーディション番組(ブリテンズ・ゴット・タレント)で大ブレイクし、念願の歌手デビューを果たしました。彼のデビューアルバムのタイトルは「ワン・チャンス」でした。ポールは夢を叶えましたが、普通の人間が「ワンチャンス」を求めるとだいたい死亡フラグになります。
一方、インデックスファンド投資にはワンチャンスはありませんが、その割に標準偏差は26.7%と、値動きはそれなりにあります。「積立で買っておけば長期では儲かる」というような文章をたまに見るのですが、その過程では結構な値動きがあって、結果的に儲からないこともあり得るということは知っておくべきです。
リターンの傾向を正しく理解して、目的に見合った手段を取ることが大切だと思います。

乱雑な文章ですが、ご参考になれば幸いです。

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