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大人になれば 10『おはよう・俯瞰と地平線・noteの一丁目のテーマ』

春ですね。
この出だし、三度目です。
すみません。
だって全方位的に春なんだもん。

春になったらなんだか気分が変わって早朝に起きるようになった。だいたい五時前に起きて、朝食を作りだす六時までの間、ベッドで本を読んだり、散歩したり。
朝に読む本は向こうも少しよそよそしくて(きっと寝惚けてるのだ)、その感じがなんだかよかったり、散歩をすると起きたての体に風や大気が気持ちいいことを知ったりする。おはよう。

そんな初めてのことばかりでなんだか新鮮な毎日を送っている。
ただ、起きる時間を一時間早くしただけなのに。

もしかしたら、新鮮さとか、新しいことって案外自分の身の回りにあるのかもしれない。ちょっとした一歩で見たことのない景色が見えるように。そんなことを思う春です。

そんな気分で音楽を聴きながら通勤していると、川や山並みの朝の風景にグッときたり、遠景の中に小さく見える人や車に人々の営みを感じてグッとしたりするときがある。
でも、すぐ隣を走る車や人には何も感じなくて。
この距離感は何だろう。何で俯瞰した視点だとグッとくるのだろうと思う。

そんなことをFacebookに書いていたら、「360度地平線の砂漠に一人で立って、『ぽつーん』とすると涙が出るくらい感動するぞ」とオーストラリアの先輩に教えてもらった。
それって状況は真逆だけど、朝のあの気分と何かが一緒なんじゃないだろうか。

世界を俯瞰して湧き上がる気持ちと、360度地平線の砂漠に一人で「ぽつーん」として涙が出るくらい感動する気持ち。理由はわからないのだけど、ぼくはその感じがすごく好きだ。ひとりぼっちで。シンプルで。ぼくと全体だけで。それ以外なくて。

春になってから、そんな「グッとくる何か」に出会うことが増えた。
最近ではネオンホールで借りた『note』というバンドの自主制作アルバムがよかった。下島裕二さん、荒井明彦さん、鴨林克彦さんのスリーピースバンド。聴いているとじっとしていられない気分になる。かっこよくてウズウズする。

なかでも『一丁目のテーマ』が好きだ。疾走をぐっと抑えてじりじりと前に進んでいく音楽と、私小説的な視点と響きのあるラップ。風景と心象が交差して何かがぐんぐんと増幅していく。そして後半の疾走。
このラップは何でこんなに胸に飛び込んでくるんだろう。この曲は何でこんなにじっとしていられなくなるのだろう。

このCDを借りた夜、帰宅中の車内で大音量で流していたのだけど、もっと聴いていたくて家の近所をぐるぐると回った。叶うならこのままどこまでも走っていってしまいたいと思いながら。

執筆:2014年4月24日

『大人になれば』について

このコラムは長野市ライブハウス『ネオンホール』のWebサイトで連載された『大人になれば』を再掲載しています。


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