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fictional diary#1 雨の日のひみつ

その日は雨がいちにちじゅう降る、と朝のニュースで言っていた、と思う。外国語で流れるニュースは音として耳を通り過ぎていくだけで、画面のなかの傘の絵や、ちょっと悲しげなアナウンサーのひとの顔からなんとなくそう言っているのかなと思ってそういうことにしただけなのだけど。ひとりで窓の外を見ながらもくもくと朝ごはんを食べていると、その町にもう3ヶ月住んでいる友達がホテルの部屋まで迎えにきてくれた。久々の再会をひとしきり喜んだあと、今日どこに行くか決めるためにベッドの上に地図をひろげてふたりで寝転がった。友達は、いま通っている語学学校で聞いた噂を教えてくれた。雨の日、町の中心の公園から、南に2ブロック離れたところにある教会前の通りでは、ふしぎなことが起こるのだという。ほんとうかどうかわからないけどね、と友達はその通りがどこにあるのか地図を指して教えてくれた。そこでは、通りにできる水たまりのうち、だいたい8つに1つくらいの割合で、反射する像がオーロラのようなやわらかい虹色のひかりに包まれるのだそうだ。周りのネオンや街灯のせいなのか、それとも光の角度によって起こる自然現象なのか、詳しいことはなにもわかっていないらしい。絶対うそだと思いながらも、わたしたちはその通りに出かけて、水たまりをひとつひとつ覗き込んでみたけど、なにも見つけられなかった。


Fictional Diary..... in企画(あいえぬきかく)主宰、藍屋奈々子の空想旅行記。ほんものの写真と、ほんとうじゃないかもしれない思い出。日刊!