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fictional diary#8 空に似た窓

田舎のほうに住んでいる友達の家に泊めてもらうことになった。山の麓にあるその家は、古くて立派なお屋敷で、わたしは友達がまさかこんな家に住んでいるとは思わなかったので驚いた。部屋の家具も、映画のセットみたいな、それか骨董品屋に並んでいるようなものばかりだった。友達はそこにひとりで住んでいて、動物をたくさん飼っていた。犬、猫はもちろん、カゴに入ったたくさんの鳥、猫よけの金網がついた水槽には熱帯魚、庭の池には亀が泳いでいた。台所の片隅に不思議な空色の窓があって、わたしがそれを見上げていると、友達が、これは鳥を捕まえるための窓なんだ、と教えてくれた。この国の古い家にはよくあるものらしい。横の小窓から鳥が迷い込むと、その瞬間にパタンと窓が閉まり、外に出られなくなる仕掛けになっているのだそうだ。もし、鳥じゃないのが入ったらどうするの、例えば虫とかさ、とわたしが聞くと、そのときは真ん中の紐を引けばいい、そうしたら開くから、と教えてくれた。わたしたちはその日、動物と遊んだり、近所の森を歩き回ったりしてすごした。夜はあっという間に眠りにおちて、次の日、わたしは朝のとても早くに目がさめた。まだ日も昇っていず、あたりはしんと静かだった。動物たちも眠っていた。水を飲みたくて台所にいくと、頭上からハタハタと柔らかい羽の音が聞こえてきた。まさかと思って上を見ると、そこには緑の小さな鳥がいた。いままで見た事もないようなうつくしい鳥だった。うすい黄緑の柔らかそうな羽で覆われていて、羽のさきっぽは藍色に染まっている。くちばしは淡い桃色で、羽の色ときれいなコントラストになっている。閉じ込められたその鳥は、じたばたするでもなく、ふわふわとおとなしく、天井近くを飛んでいた。わたしはしばらくじっとその鳥を眺めたあと、天井から下がる紐を引いて、窓を開けて鳥を逃がした。その鳥はまるで、この世のものじゃないように繊細できれいだったので、カゴの中で飼われてほしくないと思ったのだ。窓が開くとすぐに鳥は飛んでいったが、そのときに窓枠をかすり、羽を一枚落としていった。ひらひらと床に落ちたその羽をわたしは拾って、お守りのように今でも大事に持っている。


Fictional Diary..... in企画(あいえぬきかく)主宰、藍屋奈々子の空想旅行記。ほんものの写真と、ほんとうじゃないかもしれない思い出。日刊!