見出し画像

【新電力会社】卸電力市場価格【日本卸電力取引所】

経営戦略コンサルタントのちょーすです。

最近、ようやくニュースで騒がれだした卸電力市場価格の高騰についてまとめていきます。

卸電力市場価格の高騰

「新電力」と呼ばれる新規参入した小売り事業者のほとんどは、卸売市場から電力を調達しているため、卸売価格が上昇すると、顧客が支払う電気料金も大幅に上昇するおそれがあります。

このため、2020年1月17日の電力供給分より、経済産業省は「新電力」の事業者が足りなくなった電力を大手電力会社から追加で調達する際に支払うインバランス等料金単価に上限200円/kWhを設けることになりました。

この上限額の設定が示すことは、新電力会社の経営状況は実質的に困難ということを示しています。

高騰の要因

今回の高騰は様々な要因が複合的に絡まっていると思いますが、影響度が高いものから以下だと考えています。

火力発電用燃料(LNG)の在庫不足
大雪
電力業界の構造的な課題

LNG(液化天然ガス)は海外の天然ガス田で生産された天然ガスを液化し、それをLNGタンカーで輸入されて、国内にあるLNG保存基地の大きなタンク(LNGタンク)で保存されます。

このLNGタンクは全国で38カ所しかなく、長期保存が出来ず、また保存できる量も限られているため、一度に大量に輸入することも出来ず、事前に需要を予測して輸入計画を立てています。

そのため今回のように需要バランスが大きく変わると、不足したり、だぶついたりします。

電力会社

高騰の要因について、詳細を記載していく前に、先に電力会社について、整理出来ればと思います。

電力会社には大きく分けると「小売事業」「送配電事業」「発電事業」の3つの分類で分けられ、更に細かく分けると、2016年4月1日からの電力の小売り全面自由化に併せて改正された電気事業法での分類では、「小売電気事業者」「一般送配電事業者」「送電事業者」「特定送配電事業者」「発電事業者」の5つに分けられます。

小売事業

小売事業は一般に言われている「新電力」の会社が属する事業です。

小売電気事業者
小売電気事業を営むには、電気事業法第2条の2の規定により経済産業大臣による登録が必要です。2020年12月28日現在で698事業者あります。

自社で発電事業を持っていない小売事業だけの電力会社もあり、それらの会社はJEPX等で電力を買付、販売をしています。

配電事業

配電事業は発電した電気を消費地まで送る事業で、一般電気事業者と呼ばれる北海道電力・東北電力・東京電力・中部電力・北陸電力・関西電力・中国電力・四国電力・九州電力・沖縄電力の子会社が主に担っています。

元々、各電力会社の一部でしたが、電気事業法の改正の発送電分離により分社化され、グループ会社ではありますが、別会社となりました。

一般送配電事業者
一般送配電事業を営むには、電気事業法第3条の規定により経済産業大臣の許可が必要で、2020年4月現在で旧法規定の旧一般電気事業者である、「北海道電力ネットワーク」「東北電力ネットワーク」「東京電力パワーグリッド」「中部電力パワーグリッド」「北陸電力送配電」「関西電力送配電」「中国電力ネットワーク」「四国電力送配電」「九州電力送配電」「沖縄電力」10電力会社の送電、配電部門にあたる事業が許可を受けています。
送電事業者
送電事業を営むには、電気事業法第27条の4の規定により経済産業大臣の許可が必要で、「自らが維持し、及び運用する送電用の電気工作物により一般送配電事業者に振替供給を行う事業(一般送配電事業に該当する部分を除く)」となっています。2020年4月現在の送電事業者は「電源開発送変電ネットワーク株式会社(J-POWER送変電)」「北海道北部風力送電株式会社」「福島送電株式会社」の3社となっています。
特定送配電事業者
特定送配電事業を営むには、電気事業法第27条の13の規定により経済産業大臣に届け出が必要で、旧法の特定電気事業者の送電部門や自営線供給を行っている特定規模電気事業者の送配電部門等にあたる事業となっています。2020年11月現在で「JNCパワー」「王子製紙」「グリーンサークル」「エネット」「フォレストパワー」「宮崎パワーライン」「F-Power」「丸紅」「イーレックス」「一般社団法人東松島みらいとし機構」「東日本旅客鉄道」「六本木エネルギーサービス」「住友共同電力」「JFEスチール」「Daigasエナジー株式会社」「森の電力」「そうまIグリッド」「ジェーシーパワーサプライ」「三井不動産TGスマートエナジー」「MCPD」「ひおき地域エネルギー」「パナソニックホームズ」「タクマエナジー」「デジタルグリッド」「虎ノ門エネルギーネットワーク」「トラストバンク」「旭化成水力テクノサービス」「ウッドエナジ-」「真庭バイオエネルギー」「葛尾創生電力」の30事業者があります。

特定送配電事業者は限定された区域に対し、自営の発電設備や電線路を用いて、電力供給を行う事業者で、JRや森ビル等が行っています。

発電事業

発電事業は「小売電気事業等の用に供する電力の合計が1万kWを超えるもの」が対象です。

発電事業者
発電事業を営むには、電気事業法第27条の27の規定により経済産業大臣に届け出が必要で、2020年11月30日時点で942事業者があります。
発電事業の要件
①出力計1,000kW以上
②託送契約上の同時最大受電電力が5割超
③年間の逆潮流量(電力量)が5割超

この他に太陽光発電等で小規模の発電所については発電事業ではなく、「固定価格買取制度(FIT制度:Feed-in-tariff)」という電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度があります。

太陽光発電が増えたのはこの制度の影響が大きいです。

卸電力市場価格

今回高騰している卸電力市場価格はJEPXで取引されている電力の卸価格が高騰しているということです。

JEPXでは前日渡しスポット市場における1日24時間を30分単位(合計48個)に分け、JEPXで日本全国の売り手と買い手の入札情報を合成し、需要と供給が折り合う交点の価格をシステムプライスといいます。

電力における東京株式市場のようなものです。

今回のように需要と供給のバランスが崩れた際に、供給側が値段を高く吊り上げる、または需要側がどうしても欲しいといった場合に価格が上昇していきます。

今回の高騰の要因の一つに、電力業界の構造的な課題を挙げていますが、発電事業や送配電事業を持っていない電力会社が多く、市場で電力を調達しているということも課題ですし、調達した電力は保存が出来ないので、これまで右から左に移すだけで利益を上げることが出来ていたということ自体も問題だったのではないかと思います。

まとめ

まずは卸電力市場価格が高騰している状況ですので、経済産業省からの注意喚起も出ていますが、「市場連動型プラン」での契約をしている場合は早急に見直しをした方が良いです。

個人的には契約している新電力会社が倒産したら、供給が止まる前に別の新電力会社の安いプランに年々乗り換えていけば良いと思っています。

しかし、今回は経済産業省により、一時的に上限価格が設定されましたが、そのような事態で白旗を揚げることになった新電力会社の脆弱性及び電力供給体制の構造的な問題には懸念を感じています。

これまでは全く畑違いの業界から新電力業界に進出してくる企業も多かったですが、変動リスクを受け止めきれなくなった企業が増えていくことが見込まれるため、今後は増え過ぎた新電力会社の淘汰が始まるように思います。

また、経済産業省としては、「送配電事業者」の分離・独立(送配電分離)といわれています。

全ての発電事業者や小売電気事業者が送配電網を利用できるようにするには、一般電気事業者からの分離・独立と中立化が不可欠だからです。

今後、送配電事業者の法的分離を実施する方針で、これから更に電気事業は改革されていくと期待します。