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島暮らし 1.0 春

島は迎えてくれた

不安にかられてついた島の借家。すぐに生活が立ち上がる様、急いで掃除に着手。届いたワインを陳列すると心も落ち着く。石油ファンヒーターへの灯油の入れ方を誤り、玄関に溢れさせたのが唯一のつまずきか。

翌日は土地探しするうちに仲良くなった隣の隣の大三島のK少年の案内で春真っ盛りの公園へ。桜と船に見立てた木製の遊具が美しく、慣れないノンアルビールにもテンションが上がる。そのまま泊まりに来ることになったK少年は、入学前健診にも付き添ってくれて、そのまま診察室にも一緒にピットイン。ポニョが居たらきっとこう言うだろう。

「上々だねぇ。」

入学式に合わせて夫がやってきて、そして帰り、二人きりの生活が本格的に始まると私たち親子は近所の浜辺の常連になった。そこには近所の五年生がいて息子の釣りに付き合ってくれる。だから夕方になると私たちは浜に向かう。私は缶チューハイ、息子は釣竿を持って。

暖機運転完了、通常運転開始

しばらくセーブしていた仕事も再開し、息子も学童生活が始まる。迎えに行くと、広い小学校の校庭にはターザンロープもあり、むちゃくちゃ楽しげに遊んでいる。いつもキャンプ仲間の子供たちと異年齢で遊んでいた息子には、上級生と遊べる学童タイムは天国だ。

私は東京時代にもらっていた仕事を粛々とこなす日々が始まった。家にこもりパソコンに向かっていると何のためにここに来たのかという気になる。そこで、島のカフェ、公園に出かけてみたり、時にはサービスエリアに行ってみたりと気分転換に勤しむ。大島と今治の間にある来島海峡SAは建物も美しくカフェスペースからの景色も良い。しかしそこはサービスエリア、トイレが遠い…

通うヨガスタジオも早々に決めて、仕事の合間に可能な限り自転車で通っている。自転車は来て早々、今治のGIANTで注文した。今のしまなみの活況は、海道を走ってアピールしてくれたGIANTの会長のおかげでもある。そこで、彼にささやかながら敬意を表した。

自転車が届くまでの移動手段は、東京から(夫が軽トラで)運んだママチャリだ。車も良いけど、自転車のスピードで見る景色を楽しむ時としよう。

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大島について

ここしまなみ海道の大島には、吉海町と宮窪町と二つの町がある。私が住んでいるのは吉海町で、「よしうみ」という優しい響きも気に入っている。島にはカフェがいくつかあり、コーヒーを焙煎して販売する若者もいる(次の春にはブックカフェをオープンするそうな)。スーパーが二つにドラッグストアとホームセンターがある。メインで使うスーパーには、ちょっとこだわった醤油や乳製品のラインナップがある。同じ愛媛県の内子町で作られるフレッシュなモッツアレラを食べると、フードマイレージについてしみじみ考えさせられる。一方で、700円のギリシャヨーグルトを陳列しておきながら、鳥モモ肉のミンチは高いからとムネミンチしか置かないという支離滅裂な判断には首を傾げる。

なるだけ地元で購買したいものの、やはり通販は欠かせない。Amazonプライムでちゃんと2日以内に届く。島だと宅配システムもゆるく、不在だと玄関横に置いといてもらえる。※宅配会社さんの名誉のために、事前に不在の際はそうして下さいと言ってます。

大島は一つ橋を渡るとそこはthe City 今治で、子供の怪我にも心強い(早々に救急を利用することになるのだが)。ただし、橋代が少々高い。伯方島や大三島に行くのはさほど高く無いのに、都会に行く方で高くつくというのが関所の様で気に食わないところ。

島なので当然周囲は海に囲まれていて、そして飛び切り美しい。晴れが続く日には透明度が高く、そして入り江毎に異なる色合いを見せてくれる。曇りの日もそれはそれで美しく、低く垂れ込めた雲に島々と橋、行き交う船の姿が幻想的だ。もちろん魚も美味しく島の人は皆日本一だと言う(高知出身の私としては、”白身は”日本一だと言いたい)。柑橘ももちろん美味しいのだけど、それは夏の思い出においておこう。

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欲を携えて島にきた

「田舎に移住します」というと、世捨て人の様にひたすらに自然に寄り添って生きるイメージがあるかもしれない。私の場合は、俄然煩悩にまみれている。美味しいものにも素敵なお店にも興味がある。ただ、毎日キレイな景色を見てため息をつきたい、という思いの比重が少し大きくなったのだ。島だからこその何かにチャレンジしたいとも思っている。

そして大島や周りの島を見回してみても、何かを始めにやってきた人が多いことに気づく。いや気づいていたからここに来たのだ。つまり私はマーケティングで言う所のフォロワーなのかな。

夏の始めには私も挑戦の種を蒔くくらいのことを始める。それ以外にもやりたいことは沢山あって、島で住むことに可能性を感じてくれる人が少しでも増えれば良いなと考えている。

より物理的な欲といえばやはり酒で、車社会なので普段飲めないのが悲しい所。自動運転ライドシェアとかの実証実験誘致できないかと切に願う。ちなみに今治から飲んで帰る場合の代行は概ね5,000円。20代のころ恵比寿で飲んで中野までタクシーで帰ったのとちょうど同じくらい。ちょっと飲むには惜しいけど、存分に飲むなら悪くない。

GW前、息子は「やけん」と言い出した

あんなに東京に未練を残してきた息子に変化が訪れた。それまでママと言っていたのが、かぁちゃん、そして母さんになった。さらにゴールデンウィーク前には、「やけん」と言い出した。

「東京の言葉って、だからさ、て言うの長いやろ。やけんて楽よ。」

イントネーションもパーフェクト。

一方で困った問題も。トイレや洗面に一人で行くのを嫌がる様になったのだ。朝の忙しい時間ですら!「二人しかおらんと寂しいけん。」そう言われるとグッと言葉につまり息子をそっと抱きしめて…と言うことには一切ならず、「バスが来てしまうやろ!早くしなさい!!」と怒鳴り散らす日常。

ゴールデンウィークは夫のいる東京の家で。その間息子は、お隣の幼馴染の家に泊まりに行ったり、いつものキャンプ仲間と山中湖で2泊したりと、あんなに恋しがっていた家ではあまり寝ていないのであった。

懐かしい日々はあっという間に過ぎ去り、車を置いていた夫の実家から二人ぐらしの家にしばしのドライブとなる。その日息子は橋を渡るまでの150kmほどの道をずっと泣いていた。声をあげて泣いていた。それを見て私は思った。あぁもう大丈夫。これで泣き止んだら大丈夫。と。

もうすぐ島に夏がやってくる。

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