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29.100年続く企業の社長秘書をして。リストラ転換を余儀なくされる社員。長崎工場閉鎖の裏側

1. 工場閉鎖3回目の山川さん

「僕のキャリアのなかで、工場閉鎖は3回目だよ。3回目となると、僕が工場閉鎖を呼び込んでいるように感じて気分が沈むよ」と2年後に閉鎖が決定した長崎工場に勤務している山川さんが言う。45歳くらいの中堅社員だ。

「子供と妻は、この土地が気に入っていてね。閉鎖までの2年間は、ここにいることは決めたけど、転勤するのは不安だよ。」と言いながらハイボールの氷をカラカラやっている。

「今週末は子供に自転車の乗り方を教えるんだ。子供は癒しになるよ」と付け加える。

ぼくはポリポリとピーナッツを食べながら、その話を黙って聞き続ける。

地方であっても週末の飲み屋は繁盛しており、若い女性が忙しそうに接客している。

社長と工場長は、美人なママさんとガラガラ声のベテランホステスとジャンケンをしている。

「おい、稲盛!」と僕の名をガラガラ声のホステスが連呼するが、それを無視しながら山川さんに工場閉鎖について思いの丈を聞き出していた。明るく話しているが、心の奥は暗い。

「3回目の経験になるけど、工員の反応は毎回同じだよ。まず工場閉鎖を告げられた一ヶ月間はフワフワとして実感が無い、現実と捉えられないんだ。

そして一カ月が経過した後に、現実味が帯びてきて、今後の進路を考える。半分の人は決めて、さらに半分の人は決められない。そんな感じになるんだよ。今回もまさにそうだよ。」

遠くを見ている山川さんへの質問も尽きて空気が重い。工場内の空気も、このように重いのだろう。

年収は5〜6百万円ほどなので、地方で生活する分には十分だろう。けど、そんな生活も転勤によって大きく変わる。不安になるのは当然だ。

2. 社長の想いと現場の想い。大きく隔たる

今日、社長は、朝から夕方にかけて、長崎工場に閉鎖についての考え、また会社の将来に対しての想いを工場社員に伝えた。

その際は、社員の顔はピクリとも動かず、馬の耳に念仏のような感じであった。質問などひとつも出ず、まったく感情の無い人のような印象であった。確かに、山川さんが言うような重たい雰囲気が充満していた。

不採算事業を止めるのは、利益を追い求める企業としては当然のことである。これに異論を唱える人はいないと思う。

ただ一方で、そこで働いていた人にとって、「来年この工場が無くなります。すいません!」と言われたら、たまったものでは無い。

しかも、そういう目に合う多くの人は地方で、汗水流して仕事をしている現場の方々だ。

オフィスでパワーポイントのフォントを変えて、仕事をした気になって、1000万円をもらっている人たちもいる。その人たちは、さほど影響を受けない。汗水たらして働いている人が大きな影響をうける。世の中はなかなか不条理ある。

3. 子供との時間を失った熟練工

可愛いママの影響か美人な女性が多い店を退出し、3件目にいくことになった。

社長は、3次会までいくことは通常ないが、工場閉鎖の話しもあって、遅くまで付き合うことにした。

「ここがいいんですよ~。」と工場長が先導し、なかに入ると70歳ほどのおばあちゃんいる。さきほどの美人が集まっている店と比較すると、昭和、いや大正の臭いがする。

そのレトロなお店のカウンターに8名が一列に並び、思い思いに時間を過ごすことになった。

3次会になると全員グダグダになっており、社長に気を使うこともなくカラオケ好きの社員が「ふーゆーが、はーじまるよ」だの「ナイティナイティ〜、お〜、恋をしてる」と熱唱している。

それにかぶせる形で、社長が「なんだ、この歌。しらねーよ、ばかやろー」と爆笑しながらののしる。

「おれが有名な曲を歌ってやるよ」と鳥羽一郎の曲を熱唱する。鳥羽一郎の曲にぼくは馴染みがない。

「こっちの曲の方が知らないなぁ」と横を見ると定年間近の社員が鳥羽一郎の曲でノリノリになっている。

そんな2名に挟まれていたため、気を使い口ずさんでみるが、鳥羽一郎など全く知らないため口ずさむ事も出来ず、止む無くカラオケの曲を入れるふりをしばらくつづける。

社長が鳥羽一郎を歌い終わり、一息してノリノリの余韻が残る社員に、「最近どうですか?」と言ってみると、工場閉鎖の話になる。

「おれはずっと電気管理の仕事だけをしていた。工場の裏側を支える仕事だが、いままで停電を一度も起こさなかったのが俺の誇りだよ。電気管理の他に出来ることはないし、会社の言う通りするよ」と言う。

開き直っている感じで、どことなく寂しさが漂う。鉄腕アトムの水道橋博士のような大きな鼻をおしぼりで拭きながら、仕事の話を避けるかのように、家族の話しに話題をすり替えてくる。

「おりゃ、夜勤が多かったし、休日出勤も頻繁だったので、3人の子供たちの世話をした記憶がない。気付いたら大学を卒業していたよ。

いま振り返ると世話を出来なかったことに後悔している。

虫の取り方を教えたかったべ。孫が出来たので、その孫に虫取り教えようとしても、東京だし都会だから虫がいない。わしの人生で、子供に虫取りを抑えられなかった。これ以上の後悔は無いべ」と語る。

「ん、虫の種類か?○×△■虫だ」と聞いた事の無い虫の名前が出てくる。

カブトムシとか一般的な虫ではなく、マイナーな虫が出てくることを考えると、彼は子供が生まれる前に、その虫を子供と捕まえるイメージがあったのだろう。

どうやら本気で後悔しているらしく、ぼくに対して「子供と過ごす時間を大切にしないと、人生の後半で後悔する。確実に。それは、やめとくべ」と切ない顔をしながら熱弁する。工場閉鎖よりこちらの論点の方が彼に取っては重たいようだ。

確かに「は!」と気付いたら時間が経ってしまい、かつ一度きりなのが人生の渋いところだ。

そんな「一度きりルール」という渋さの反面、繰り返しの多い日常において、あらゆる出来事が永遠に続く感じもある。

そのためLife Stageに応じて出来る事、やるべき事が変化しているのに気づかず、Life eventを見逃してしまい、二度と取り返せなくなる。そんなことが人生はある。

それが人生の渋いところであり、カワイイところでもある。ただ自分の人生において後悔は出来る限り少なくしたいものだ。

時計の針が2時に近づいてきた。どの社員も社長に対して思いの丈をぶつけられたようで、すっきりしているように見える。

社長が最後にみんなに向って「最終的に自分自身で決めてもらうしかない」とか「わがままな話だが、2年間は頑張ってもらいたい。頼む。」なんて、激励する言葉を述べている。

深夜まで社員を気遣って、社長も大変な職業だ。

社長がお開きのトークをしているなか、70歳を超えるであろうママに会計を含め、あれこれ話していると「あなた、聞き上手ね~。いままで飲み屋を40年ほどやっているけど、あなたは光っているわ。

あなたの株があったら買いね。竹の子あげるわ」と3つ竹の子おにぎりをくれた。

そんな竹の子おにぎりと社長のカバンを持ち飲み屋をでる。

ホテルへの途中にラーメン屋台がある。社長は吸い込まれるように近づいていく。「これ以上カロリー取る前に、ご自分のお腹をご覧になってはいかがですか」とぼくが言うと、「そうだよなぁ~。。。」としぶしぶホテルに戻る。

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稲盛周作

一部上場企業の子会社で働いています。秘書室の経験をNOTEに残しています。現在は、働きながら、副業・趣味で執筆活動や子供たちに勉強を教えてます。三児の父です。趣味はサンボと読書。トルストイが好きです。好きなアイドルは「あーりん」です。グロービスMBA取得。
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