コペンハーゲン 美しい街で大企業社長たちが英語で議論。レベルが高すぎる。

1.コペンハーゲンはとてもきれいな場所だ

北欧の特徴なのか、水のにおいがする。良いにおいで落ち着く。ここは仕事でなく、旅行出来てみたい。

コペンハーゲン空港に到着すると、VIP用スタッフが待ち構えている。初老の男性だ。「こちらです」と一般通路とは別の道を進んでいく。ファーストクラスの乗客だと出国手続きも、待ち時間なく完了する。隣では、手続きに大行列ができている。その行列の人がわれわれに気づいて指さし、「あいつら、なんで先に進んでいるんだよ」と怒りをぶつけてくる。外国人は、こういった場面でも自己主張するのだろうか。

出国出口を進むと、大型バスが待ち構えている。はとバスと同じサイズだ。人数は16名なので、スペースが贅沢だ。男性はローテンションであるが、奥様は観光気分でキャッキャしている。アドバイザリーボードで、奥様同士が知り合いになっているので和気藹々で楽しそうだ。

ホテルに着く。今回の宿泊は5つ星のDangleterreというホテルだ。見た目はお城である。一泊20万円はする豪華なホテルだ。ホテルからスタッフが総出であらわれて、我々を迎えてくれる。すべての荷物は触れることなく、持ち運ばれていく。素早い対応だ。

山田部長と丸子さんもホテルでお出迎えだ。そして山田部長が集合をかける。「みなさま、お疲れさまでした。すでに19時になっており、お疲れかと思いますので、お部屋でお休みください。夕食はこのレストランでご用意しておりますので、ご都合が良い時にお召し上がりください」なんて事務連絡をしている。

そこそこ長いフライトだったので、ファーストクラスと言えども疲れはたまっているのだろう。これにて一同解散になった。ぼくも、気を張ってみなさんを見ていたので、ここで一息つける。

解散後、秘書4人で明日からの打合せをしていると、七田社長がやや不機嫌そうな顔で登場する。『社長、どうしたんですか?』と聞いてみると、牛乳を買いに行くようだ。どうやら、奥さんから「牛乳を買ってこい」と指示があったようだ。家庭の姿はどこも似ている。

2.アドバイザリーボードが開催

ずらりと横一列に8名がならんでいる。社長、会長、社外取締役、外国人のトーマス、ブルーミングさんだ。

仕切り役の小島会長が、「 Thank you for coming the advisory board at 10 th. we are glad to see all again・・・・」と冒頭の挨拶をしている。井上会長は、5年前に社長を退き、会長3年目である。

「 Mr Shichida will make a presentation ・・・. please Shichida」と本題に入っていく。七田社長の業績報告である。

すべてが英語で行われる。ぼくはTOEIC800点である。それほど低くもないし、すばらしく高くもない。少し英語をできるとは思うけど、英語で業績報告をずっと聞いているのはキツイ。その立場からすると、英語で業績報告するのはまず無理だ。七田社長は、その英語での報告もよどみなく行っていく。

1時間くらいの報告だ。その後、質疑応答に入る。精密機器メーカーの天皇といわれる澤田社長が手を挙げる。

この人はさきほど「ぼくに英語は苦手なんだよ」と言っていた。「フランス駐在していたのでフランス語はできるんだけど、英語は全然ダメなんだよ」とバスのなかで、ぼくに教えてくれた。

そんな澤田さんが英語を話しだす。

普通にペラペラだ。苦手と言っていたが、相当のレベルで話している。ぼくより下手なのではと考えていたが、全然上手だ。これで苦手ならば、フランス語はどんだけ話せるんだろう。一流に出来ない事は苦手という水準なのだろう。

それから、ブルーミングさんが言う。「この事業、とっとと止めろ。キャッシュが全然出てこないじゃないか。すぐに止めて、他社に売って、その資金を成長分野に投資しろ」と欧米の人が言いそうなことを言ってくる。うちの会社にとって、その事業は創業のころからのアイデンティティだ。止めることはできないので、社長ははぐらかす。いつもよりちょっとキレが悪い。

ブルーミングさんは、この会議に参加するたびに「事業をやめろ」という。彼は成長していない事業は「悪だ」という。「成長していないのは会社のせいではなく、歴史的役割が終えたからだ」というのがブルーミングさんの主張だ。そこに頼ってしまうと、関係者全員が疲弊してしまう。利益がでないから再投資もできないし、利益が出てないからモチベーションも下がる。だれも幸せにならないのだ。最終的に、その事業は労働力の安い外国が担当するか、日本だとスケールメリットを効かせるために束ねてやる以外ない、と言う。

歴史的な役割を終える、事業にとってもそんなことがある気がする。

経営書が出せそうな質疑応答が続く。上場企業の社長があつまると、産業を代表するかのように話すので白熱する。喧々諤々だ。

しかしながら、時間も限られるので、井上会長が「ではそろそろ」と、うまいタイミングで入り込み、会議を収束させる。年の功だ。

これで第一部はおしまいになる。

3.ゲストプレゼンターによるプレゼンテーション

第二部は、うちの会社の役員によるプレゼンテーションだ。この会議は将来の社長候補を選ぶ会議でもある。大っぴらにはしていないが、ここに呼ばれる人は「将来、おれは社長になる可能性がある」と鼻息が荒い。

このアドバイザリーボードに参加をお願いするのはぼくの役割だ。七田社長から、「今回は、こいつとこいつを呼ぶ」というのを受けて、伝えに行くのだ。

ぼくは、その役員に会いに行き『アドバイザリーボードに参加お願いします』と、日時と詳細をお話しする。みなさんのリアクションは全く同じだ。「え~、マジかよ~、この忙しいのに。英語でしょ。しかも海外か~」と言う。嫌そうなコメントをしながら、顔はにやけている。嬉しそうだ。みんなこのリアクションだ。

今回は3名だ。すべてが社長レースに乗っている方々である。七田社長もそろそろ引退と言われているので、この3名は本命だ。競馬で言えば、最後の直線。猛ダッシュをかけているところだ。

この3名が、アドバイザリーボードメンバーにどのような評価を与えられるのか、社長の座を勝ち取るのには極めて重要になるらしい。

3名が順番にプレゼンテーションをしていく。七田社長以外の役員のプレゼンを聞くのは初めてだ。どの人も、相当のレベルだ。英語もペラペラだ。一部上場の役員になる人の能力は高いと再確認させられた。

アドバイザリーボードメンバーも、「なかなか、こいつらやるな」という顔をしている。彼らのプレゼンが終わると秘書部がフィードバックシートを配布する。そのシートにも、そこそこ良いことが書いてある。

社長レースは、もう少し続く、どのようになるか楽しみである。

4.世界一のレストランnoma

アドバイザリーボードは無事終了だ。緊張感でピリピリしていたが、みなさんホッとした顔をしている。

井上会長が「Thank you today・・・・」と締めの挨拶を行っている。後部で議事録および録音をしているぼくたちも、ようやくこれで一安心だ。特にトラブルもなく終わった。

会議が終わると、ディナーになる。しばし休憩をはさんで、ロビー集合となった。

本日のディナーは世界で一番うまいと言われているnomaというレストランだ。「世界のベストレストラン50」で4度も世界一に輝いたレストランだ。スペインのレストランと毎年ランキング1位の座を競い合って、競り勝っているらしい。ぼくでも知っているくらい有名なレストランだ。海外セレブでも予約を取ることができないとのことだが、日本の企業の力はすごいものだ。

コペンハーゲンを選んだ理由のひとつはこのレストランでもあるようだ。丸子さんが「ここ行ってみたい」となり、うまいこと、まとめたようだ。

18時になりロビーに、皆さんが集まる。そのままバスに乗ってnomaへ。

昔ながらの建物にnomaが位置する。一見、高級レストランのようには見えない。ガラス張りになっているので、繁盛の具合がよくわかる。

日本人がぞろぞろ入っていく姿は、外国のひとには違和感があるのだろう。ジロジロとみられる。視線を気にしながら、なかにはいっていく。雰囲気は抜群に良い。ナチュラルをうたっているお店なので、オブジェも自然調でイケている。

まずは七田社長の挨拶だ。例のごとく、この挨拶はぼくがつくっている。時事にてを入れており、かつ笑いもいれているので、そこそこ場が和んだ。みなさん世界一の料理を食べたいのだろう。そわそわしている。

早速、料理が出てくる。ぼくたちはおまけなので、少し離れた場所にいる。ただ、出てくる料理は同じだ。これは秘書の役得と言えるだろう。

見たことないかたちに丸まったゴボウのような食べ物が出てくる。丸子さんが「Good presentation」とウェイターに言う。外国ではこんな言い方をするようだ。

初めての味で、表現できない。うまいのは確かだ。初めてタイ料理をたべたとき、「うま!なにこれ!」となった。そんな感覚に似ている。「初めての味」に出会うのは久しぶりだ。感動する。

それからアリを使った料理が出てくる。「アリかよ!」と思って、恐る恐る食べてみると甘い。上品な甘さというのだろう、ほんのり甘い。丸子さんは、また「Good Presentation」と言っている。ぼくは照れるので、なかなか言える表現ではない。

おそらく、nomaにくるお客さんは、あらゆるグルメを食べつくしてしまって、新しい味を求めてくる人だと思う。まったく新しい味など出会うことは珍しい。nomaの味は、完全に初めての味だ。これは人気がでるはずだ。

七田社長が上機嫌で、秘書のいるテーブルに茶化しに来た。ワイングラスをクルクルしている。

「ここのレストラン、うまいだろ。料理ってな、文化伝統なんだよ。その文化伝統にも時よりイノベーションが起きるんだ。イノベーションは大勢で超すのではなく、個人で起こす。そのイノベーションは初めは小さい影響だが、次第に大きなうねりを起こしていくんだ。このnomaはそのイノベーションだ。ははは。」なんて、わかるような分からないような事をいっている。

木下課長はワインを飲みすぎてテンションが上がっている。「社長、仰る通りです。味のイノベーションですね」とワイングラスを社長に近づける。乾杯をしようとする。社長も「だろう、木下」と言い、チンと乾杯を交わす。

ぼくはシラフなので周囲の目が気になる。できれば静かに食べたいと思い、仕方がなく、愛想笑いをしておく。

皆さん、nomaを堪能したのだろう。上機嫌で閉会した。話も尽きないようで、饒舌のままバスに乗り込みホテルに帰った。

解散後、ホテルのロビーで秘書4人で打合せをしていると、七田社長があらわれる。『社長、どちらへ行かれるのですか』と聞くと、どうやら牛乳を買いに行くようだ。『私が買いに行ってきます』というと不機嫌に断られた。どうやらお気に入りに銘柄があるようで、説明ができないようだ。社長は大変だと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?