読書メモ:人を動かすマーケティングの新戦略 「行動デザイン」の教科書

行動マーケティングの基本が、わかりやすくまとまっていたので紹介します。勉強になったのは2点。

1.モノ(商品・サービス)から捉える「モノ発想」ではなく、行動から捉える「行動発想」を持つことが、右肩下がりの市場でビジネスを伸ばすために必要である。LTVをいかに上げるかがポイント。

2.「思ったほど人は動かない」ことを前提に、意識レベルの変化よりも行動レベルの変化をダイレクトに作り出すことが重要。「行動デザイン」の基本的な考え方。

モノ思考ではこれからは戦えない

モノ思考とは、市場をモノ・サービスを中心に捉えることです。◯◯市場と考える事や、売り場を製品カテゴリー毎に分ける事も全てモノ思考からくるものです。
「モノからコトへ」と言われるように、モノ思考だと今のビジネスでは戦えません。
それはなぜでしょうか。

多くの市場は飽和し、右肩下がりの状況だからです。
この状況ではモノに答えはありません。品質向上・機能改善が直接大きな売上に繋がらないことからも理解できるかと思います。
また、多くのマーケティング書籍で書かれているような、従来の手法も役には立ちません。なぜならそこで重視されていたのは「シェアをどう上げるか」という点で、それは市場が伸びている状況で生まれてきたものだからです。だから昔は余計なことは考えず、製品の性能を上げることだけを考えていれば良かったんですね。

現在の成熟マーケットでの至上命題は、LTVをどうやって上げるかです。消費者から選ばれ続けるためにどうしたら良いかということを考えなければいけません。
そのため、「モノからコトへ」と言われるように、いまのマーケティングで必要なのは、モノ思考から脱却し、コト思考で考えることです。

では具体的にはどうすればコト思考ができるのでしょうか?
コト思考で考えるとはどういうことでしょうか?

コト思考ができるようになるには

モノ思考からコト思考への発想の転換はそれほど難しくありません。
人がモノを使うときには必ずそこに”行動”が伴います。
人とモノは行動を介して繋がっているといって良いでしょう。
コト思考のポイントは「人の行動に注目する」ということです。

例えば日本酒を例にあげましょう。
最近テレビでも取り上げられていることが多い日本酒ですが、実は長期的にはダウントレンドです。食事が洋風化している中で、日本酒が選ばれなくなっているからです。
多くの飲食店では、カテゴリー毎にお酒のメニューを提供しています。ワイン、ビール、日本酒という大カテゴリーがあり、その下でそれぞれ甘い、辛いといったように細分化されています。
するとどうなるか。ソーセージにはビール、チーズにはワインというように、お酒が食事を中心に選ばれるようになります。日本酒を飲んで欲しいとお店側が思っていても、洋食を食べているお客さんからは日本酒が選ばれる可能性は狭まってしまいます。つまり、売り手がモノ発想であれば、買い手の思考もモノ発想になるということです。

日本酒をコト思考で捉え直してみましょう。どんな行動がお酒に伴うのか。お酒はほぼ必ず食事と一緒に飲むわけですから、そこには「食事中に飲む」という行動”食中酒行動”があります。これに気がつけば、洋食だとしても必ずワインが飲みたいお客さんばかりがいるわけではないので、メニューの表記を「さっぱりした料理に合うお酒」という風に変え、そこにワインなどと一緒に日本酒も書くことができます。洋食を頼むお客さんにも日本酒を選択肢として与えることができるのです。お酒のカテゴリー毎で考えていた時(モノ思考)には、気づかない視点です。

市場を人の行動を中心に捉え直す

デジタルカメラは2008年以降市場が縮小傾向です。(2008年にはiPhoneが出ました。)
しかし、人がカメラを使う行動は広がりました。
自撮り、SNSシェアが代表的なものですね。「写真市場」は拡大しているのです。
同じように、日本酒の例だと、モノ思考では「日本酒市場」「お酒市場」という捉え方をしがちですが、コト思考で考えれば「食中酒市場」と捉えることができます。
ヨーグルトであれば「間食市場」「ダイエット市場」「健康市場」「オフィスの食後のデザート市場」というように捉えることができます。

このように、モノベースで考えれば縮小市場であっても、行動ベースでは活路がみいだせるのではないでしょうか?

また、モノ思考で考えると市場にはプロダクトサイクル、つまりある種の”期限”がありますが、行動ベースの市場にはそのような”期限”はありません。音楽を聞くという行動は太古からありました。だからこそ、音楽市場でのビジネスとはどれほど高音質で聞ける音楽機器を提供するのではなく、どういう音楽視聴行動を提供するかということになります。
ウォークマンは、移動中も音楽を聞けるという行動を提供したから大ヒットしたのです。
(現代ならランニング中に音楽が聴けるもっと便利な機器があると良いですね。)
ウォークマン以外にもコト思考の例はあります。

◾️コト思考の例
・52週マーチャンダイジング(ひな祭りフェア⇨ひな祭り行動、受験生応援お菓子売り場⇨受験生応援行動)
・イートインコーナー⇨中食行動
・ダイレクトマーケティング、サイト内会員制(ファンクラブ)
 ⇨顧客の行動を知る。行動量を起点にしたマーケティング。

このようなコト思考ができても、消費者に行動してもらう仕掛けが必要です。行動をデザインするとはどういうことでしょうか?

人はあなたが思っているほど動かない

大原則として、人間は怠け者です。今行なっている行動を変えたくないと思うものです。なぜなら、決断すること、行動を起こすこと、変化することには膨大なエネルギーを消費するからです。

消費者の行動までの動きを表す有名なAIDMAモデルにも実は落とし穴があります。きれいなじょうご型になっているので気づきにくいですが、最後のActionに至る歩留まり率が圧倒的に低いのです。
ザイアンスの単純接触効果により、AttentionからMemoryにかけてはある程度の相関関係が見られますが、最後の行動ステップに関しては前の数値が高くなったとしても必ずしも高くなるわけではないのです。

好意と行動は全くの別物なのです。

自分が良いなと思ったものを全部を買っているかというとそうでもないですよね。だからこそ、割り切って考えて、意識を変化させるよりもダイレクトに行動を促すことを優先した方が良いのです。これが「行動デザイン」の基本的な考えです。

行動が意識に先行することがある

意識は行動に必ずしも結びつきません。
しかし、行動した結果、意識に結びつくケースは多いようです。
「クールビズ」はその代表例です。


そのほかにも、行動が意識に先行する例は多くあります。
茶室の入口がわざと低くなっているのも礼の心を思い出す設えです。
笑うと楽しいという感情が湧き上がることも証明されています。
TEDでも有名なプレゼンテーションがあります。

いい広告・いいコピーから意識を変え、次に販促キャンペーンで行動を変えるのでなく、趣旨を理解していなくてもまずは行動させる。その方が効率が良いのではないでしょうか。

余談ですが、ラグビーワールドカップのスローガンは秀逸ですし、個人的には心に刺さったのですが、まだチケットは買っていません。

「自分ごと化」させれば人は動くのか

では、行動をさせるのはどうしたら良いのでしょうか?
人に行動させるために有効なのは「自分ごと化」だというのがマーケティングの通説です。ところでそれは本当なのでしょうか?

先ほどのラグビーのスローガンのように、広告コピーは非常に粒度の小さい特定ペルソナをターゲットに作られています(自分ごと化されています)。しかし、それでも全てのペルソナが行動を起こすことはありません。
くどいようですが、好意と行動は相関しません。意識と行動は別です。
実は、意識の上で自分ごと化させるだけでは、まだ足りないのです。
逆に一度でも行動してしまえば、結果として自分ごと化されます。
マラソンを始めるにはけっこうな勇気がいりますが、一度大会に出た人は次の大会に向けで自発的に練習をするようになります。(クールビズでエコ意識が芽生えるのも同様です。)
つまり自分ごと化というのは、「結果としてそうなった状態」を指す概念であって、人を動かすための方法論ではないのです。

なぜ人は行動を起こさないのか

ところでなぜ人は行動を起こせないのでしょうか?
人が行動を起こさないのは以下の3段階の問題があるからとされます。

行動を起こさない問題
1「自分に言われているように思えない」という問題
2「やりたい行動に思えない」という問題
3「やりたいのだが腰が上がらない」という問題

1と2については、コミュニケーションで解決することが容易です。問題は3のフェーズですが、そこでは様々なコスト(リスク)によるエネルギー消費の問題がつきまといます。ここでいうコスト(リスク)には必ずしも金銭的なコストに限らず、精神的なコストも含まれます。

下記の図のように物事において積極的に行動する人は全体の1〜2割(リスク感度の低い人たち)と言われます。

イノベーションの普及曲線
出典:https://theoryofinnovation.info/archives/555

行動デザインを考える上で対象者のリスク感度を把握することは重要です。
「返品自由」というのはリスク感を緩和して、まずは行動に踏み切らせる有効な方法の一つです。「効果がなかったらお金はお返しします」という売り方をしているダイエット・プログラムもあります。実際には返金を申し出るのにもさまざまなコスト(精神的、物理的)がかかりますから、本当に返金請求する比率は1割以下になるそうです。
初めて行動するときにはリスク感は非常に大きいものですが、2回目はぐっと敷居が下がます。「慣れ」(「馴れ」)というのはとても大事な要素です。初回を無料にする、試供品を「無料で進呈する」、という通販の代表的な手法は「初めてのリスク」の緩和を重視しています。
見慣れた、馴染みのある人が広告していると人は安心するので、「初めてのリスク」感の緩和に有効でしょう。知名度の低い企業やブランドがスポーツ選手や芸能人など、テレビでよく見る人を広告タレントに起用することが多いのは、単に認知度や好感度の向上ということだけでなく、名前を聞いたことがない企業に対する「リスク感」の緩和につながるからなのです。

行動を誘発する仕掛けの例

ここまで書いてきたように、優れたコピーであったとしても言葉だけで人を動かすことは中々できません。むしろ必要になるのは仕掛け・行動誘発装置です。意識よりも先に、ダイレクトに行動を喚起させた事例をいくつか紹介します。

・サンプリング
・コンビニのレジ前の線⇨順番を待つという意識
・成田空港第3ターミナルへの連絡通路の陸上トラック
 ⇨歩くのが辛く感じなくなる。
・グルメガイド⇨「そうだ。〇〇に行こう」よりも計画が一気に進む。
・お盆玉⇨お盆にも帰省する目的を作る。
缶ビールに付いてくる泡サーバ⇨生ビール行動を誘発。
 お店で同じブランドの生ビールを飲んだ時に再想起され購入に繋がる。
・新しいカバンや靴⇨旅行に行きたくなる
・切りやすいロールケーキ⇨シェアして食べる

特に秀逸なのは、ロイヤルブルーティーの例です。
1本数万円から数十万円する高級茶で、品質の都合上ワインボトルに入れられています。しかし、これにより「お茶を食事に合わせるという行動」を誘発できるのです。オフィシャルな会食では、お酒が飲めない人にソフトドリンクではなく高級なお茶を提供することができ、雰囲気を壊すことがありません。
またこれだけでなく、このお茶の提供者にも行動を誘発する仕掛けになっています。入れ物がワインボトルの形状をしているため、他のワインと同様に丁寧に扱われます。ロイヤルブルーティーを知らないスタッフにもマニュアル不要でどのように扱ったら良いかを伝えることができ、極上のお茶体験を提供させることができます。(その外見から管理の仕方もワインセラーに入れれば良いとわかるわけです。)
直接の消費者とそこに介在する提供者の2方向に対して、行動を誘発する非常に優れた事例となっています。

行動を誘発する仕掛けのポイント

行動を誘発する仕掛けのポイントは上記の3つです。
その中でも特に重要なのが、アクセシビリティです。
例えば、百円ショップが受け入れられたのは、価格も理由ですが、単価が均一で金額が計算しやすいという点です。これは買い物時の金額の不安や面倒を取り除き、買いやすさ(アクセシビリティ)を提供しているのです。
他にも同様に、居酒屋の飲み放題プランは金額がいくらになるかの不安を取り除いています。また、最近話題の電子マネーも会計のアクセシビリティ(小銭の心配をしなくて良い。財布を出さなくても良い。)に繋がっているのですね。

啓発キャンペーンも心には刺さるが行動に結びつかないことが多いと思います。それは、このような意識つけが先行し、行動させる仕掛けが組み込めてないからだと思います。

その他メモ

・「ついでに」が有効なのは、既存の運動の途中に割り込む方がエネルギー消費が少ないから。

・近年UI/UXが重視される理由もコト思考が重要視されているから。
 人とモノを繋げる決定的なコネクションになるから、従来はモノの周辺要素だったデザインが重視されてきている。

・精神的なコストの例。自分がいくら「ここに行きたい!」と思っていても、相手が「え?なんで?」という顔をしそうであれば、話を切り出すこともできません。これは外食店舗やテーマパーク、レジャー施設、旅行などのマーケティングにおいて非常に重要なファクターです。本当に人を動かそうと考えるなら、単にターゲットが「行きたくなる」施策を考えるだけではダメで、連れの「OK率」を上げておくアイデアが同時に必要になるのです。

・人がお金だけで動かないの理由は、価格が影響するのは実は最終的な選択局面の意思決定であって、価格にすべての行動を誘発するほどの力はないからです。 『需要を増やすためには価格を下げればいい』という経済学の教科書の理論とは全く違います。無料にしても利用しない人は大勢います。

おまけ

おまけ1:募金を増やすには?
・人の注意を引く(動物の子供のショッキングな映像で訴求する)
・自分ごと化(東日本大震災の時には多くの募金が集まりました)
・簡単に参加できる仕掛け(空港の募金箱)
 趣旨を理解させるよりも行動させることを優先させることは時に非常に重要です。
・思わず参加したくなる仕掛け
 ⇨お金を入れるとゲームができる、穴に人の名前が付いている、
  硬貨のサイズよりも小さい穴に募金するにはどうする?

おまけ2:フィットネスクラブの会員を増やすには?
     価格以外にどんなリスクがあるのか?

おまけ3:バームクーヘンの消費を増やすには?

おまけ4:日本人がお米をもっと食べるようになるには?

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Ryo Imai

読書メモ

勉強になった本のまとめや文章を抜粋。 自分用の備忘録になっていて文章が読みづらいかと思いますが、ご容赦ください。
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