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米国Top-tierVCの投資動向から見る、投資トレンドレポート📄

こんにちは!インキュベイトキャンプ運営事務局です。

今回は、IFインターン齋藤(tatsuya31100801@gmail.com)君が、セコイアキャピタル、アクセルパートナーズ、ファーストラウンドキャピタルの3VC投資動向から、直近1年のシード投資(シードまたはシリーズA)におけるトレンドを分析しました。

では早速始めたいと思います!

1. 「中国・インド× ◯◯」

セコイアキャピタルとアクセルパートナーズは、インドへ進出してから10年以上が経過しており、それぞれインドにおける最大規模のVCとして投資を行なっています。また、中国へのスタートアップ投資に関しては、セコイア中国の代表であるNeil氏が「世界投資家ランキング」で2年連続1位に選ばれました。
 
これらの世界的に影響力を持つVCの投資動向を分析することで、スタートアップ投資におけるトレンドを知ることができます。これらVCの投資事例を並べた上で、最初にトレンドとして読み取れたものは「中国市場・インド市場×◯◯」でした。

着目すべきは、セコイアとアクセルの昨年におけるシード投資総数(セコイア75件、アクセル36件)の内、3分の1以上は中国・インドに投資が行われたということです。では、「中国・インド」といった地域の中でも、セコイアとアクセルはどういったテーマに投資が行ったのでしょうか?

まず、セコイア中国が複数回以上投資を行なったテーマは、「中国×EC(特にファッション)」、「中国×オンライン学習」でした。

【中国×EC(FashionTech)】
セコイア中国のシード投資数は16件で、そのうち5件はEC分野でした。中国のEC市場は拡大し続けており、リサーチ会社eMarketer社によれば、2019年中にはEC市場規模は米国を抜かして世界1位になるとも言われています。また、ファッション市場に関しても、今年中には米国を抜かし世界最大市場になると予測されています。こうした背景を踏まえると、5件のうち3件はファッション分野におけるECへの投資であったことが、理解しやすくなります。

現在海外ブランドはこうした状況を受けて、主戦場を米国市場から中国市場へ移し始めています。一方で、中国政府は自国製品を購入することをを推奨し始めており、実際に中国では若者を中心に、中国ブランドのファッションを好む傾向があります。セコイア中国が出資しているPoison社とMaia Active社は、スポーツブランドのD2Cビジネスですが、中国ブランドの製品の中でも、よりチャンスが存在しそうな分野でスタートアップを始めることが、資金を集める上で重要になってきているのかもしれません。

【中国×オンライン学習】
中国×オンライン学習に関して、セコイア中国が投資を行なったのはCode Planet社と、童行学院社の2社です。前者は、機械学習によって生徒のレベルを判断しカスタマイズ化された教育を行うというもの。授業内容は、ゲーム作成やアプリ作成、PythonやC++言語などに関するものとなっています。後者は、科学や人文科学に始まり、論理的思考・批判的思考などに関するオンライン学習サービスを提供しています。

中国×オンライン学習の可能性を知るためには、中国での教育問題を先に理解する必要があります。現在、中国では"gao kao"と呼ばれる統一テストの結果が重視されており、このテストではいわゆる「暗記」が重要な要素になっているそうです。こうした教育制度に対して、現在「もっと現実世界で役に立つことを学ぶべきではないか」という意見が拡大しており、論理的思考力等の実用的な能力を伸ばす教育が必要だと唱えられています。

一方で、中国では都市部への人口集中により、政府によるインフラ投資などは都市部に集中しており、教育に関するムーブメントなども都市部を中心に起こっている様です。この結果、都市外に住む人々は、自分の子供が、こうした都市部の高水準教育に取り残されることを危惧しています。

こういった背景を踏まえると、高品質かつ最新型の教育をどこでも受けることができるオンライン学習は、この先より中国で普及していくものとなりそうです。

【インド×ライドシェア】
セコイアとアクセルは「インド×ライドシェア」に対して合計9回も出資を行なっています。投資先企業は、WickedRide社(ブランドバイク)、Bounce(バイク、電動スクーター)、QuickRide社(自動車)という様に、様々な種類のライドシェアを提供する企業となっています。インドの配車サービスに関しては、既にUber社とOla社がシェアの多くを占めており、入る余地がなくなっており、タクシー以外のライドシェアに注目が集まっている様です。この他にもVogo(電動スクーター)やZoomcar(自動車)など、モビールのレンタルサービスがここ1年で多くの資金を集めており、直近の投資トレンドと言えそうです。

補足:電動スクーター(eScooter)
昨年からサンフランシスコを始めとした世界の都市部で注目を集め続けているのが、電動スクーターのシェアリングサービスです。つい先日の6月17日に、Bounceは9200万ドルを追加で資金調達し、その資金を50,000以上の電動スクーターの追加購入に用いると発表しています。

電動スクーターは、乗り捨てや安全性への問題から、法規制の対象となることもありました。早期に市場に参入していたBird社やLimebike社が規制を受ける中で、最も早く申請の許可を受けたのがSkip社でした。Skip社は、対象地域の許可を得てからスケールを行う戦略を取っており、アクセルパートナーズは、こうしたSkip社の事業戦略に関して「投資しない理由がない」と断言し、出資を行なっています。

(Photo by Rachid Jalayanadeja

セコイアインドからの出資を受けたBeam社は、シンガポールでの電動スクーターシェアリングサービスを展開します。Beam社は、米国大手の手がまだ及んでいないアジアを中心にサービスを拡大していく意思を示しており、マレーシアやオーストラリア、インドネシアなどへの展開を狙っている様です。

一方で、米国大手のBird社やLimebike社も、既にヨーロッパやアジアへ進出を始めており、資金調達の規模も大きなものとなっています。電動スクーターシェアリングに参入している企業の中には、自転車シェアリングに着手していた企業や、Uber幹部が立ち上げたもの企業が多く、次なるライドシェアリングサービスとして最も関心を集めています。

【インド×FinTech】
セコイアキャピタルは、インド×FinTechという分野に数多く投資を行なっています。これまでセコイアは、Drip Capital社、Cred社などローンや支払いに関するFinTechへの投資を行なってきました。一方で、ここ最近は投資や資産運用に関わるFinTechへ投資対象を移し始めている様です。

セコイア幹部は、出資を決めたインドのオンライン証券スタートアップSmallcase社に関して、「インドではリテール投資家の株式投資が急激に伸びている。分かりやすく、手間の掛からない投資手段や製品が求められている。」と述べています。
また、資産管理を自動化するアプリを提供するGroww社への出資に際し、「インドにおける急激な投資活動の活発化によって、より安くより質の高いプラットフォームが求められている。」と述べている様です。

インド国内での投資ブームを根拠に、セコイアは新たなFinTechへの投資を活発化させている様です。

【インド×EC】
セコイアキャピタルは、「インド×EC」に対して5回のシード投資を行なっています。直近1年で、Daily Ninja(ローカル型日用品配達サービス)に対して2回、BulBul(スマホ版ライブショッピング)、FlyRobe(オンラインファッション)、WakeFit(形状記憶布団)に各々1回ずつ投資が行われました。しかし、これらのサービスには、オンライン売買が行えることを除いて、ほとんど共通点が見当たりません。

セコイアが、WakeFitを始めとする、テーマに幅を持たせた上で、EC分野に投資を行う背景には何があるのでしょうか。その一つとして、インドEC市場におけるAmazon社とFlipkart社(Walmartの子会社)の存在感の強さが挙げられる様です。スタートアップは大企業に対して、商品の品質、サプライチェーンの強さどちらにおいても、競争で勝つことは難しく、多くのECスタートアップが事業見直しや撤退の選択を迫られています。(Shop-Clues社、Craftvilla社、Voonik社、Wooplr社など)

こうした背景から、成長が見込まれている「インド×EC」というテーマの中でも、よりバラバラなテーマに投資を行うことで、リスクを分散しているのではないかと僕は予想しました。

2. 主要な投資テーマ(中国・インドに限らないもの)  

【自動運転技術】
セコイアキャピタルは5件、ファーストラウンドは1件自動運転技術に関わるものへ投資を行なっています。(HoloMatic社、Baraja社、PlusAI社、Pony.ai社、RideOS社、Perceptive Automata社)こうした投資判断は、何に基づいて行われているのでしょうか。投資担当者の発言から考えられるのはチームの技術力・ビジョンとニーズの確実さです。

自動運転車のマッピング等を行うアプリを提供するRideOS社は、セコイアキャピタルがRideOSに投資を行う前から、フォーチュン500の大企業を顧客としていました。加えてセコイア幹部はRideOSについて次の様に述べています。「単に自動運転車を生み出そうと試みているチームは数多くある。しかし、RideOSは自動運転車を実際に公道で走らせる上で必要な技術の開発に力を入れている。RideOSの技術にはネットワーキング効果があり、RideOSアプリに接続する車が増えれば、より互いの安全性や運転の効率性を高めることができるのである。(省略)RideOSはこうした主題に対して深い知見やノウハウを持っている、とても才能溢れるチームである。」既に実績があり、かつビジョンや戦略に明確な優位性があるか投資家は見極めている様です。

チームの技術力の具体的な違いや、サービスの内容の比較に関しては、リサーチの余地があると思います。

【ブロックチェーン技術】
セコイアキャピタルは2件、ブロックチェーン技術に関わるスタートアップへ出資しています。(Conflux社、Nervos Network社)自動運転技術同様、既に世間的にも注目されている投資テーマですが、どの様に投資対象を選んでいるのでしょうか。多くのスタートアップが乱立している分野であるからこそ、確実性と即効性を重視しているのではなイカと予想しています。

Nervos Network社への出資に関して、セコイア幹部は以下の様に述べています。「ブロックチェーンにまつわるプロジェクトは既に十分な数存在しているが、Nervos社は最も将来性のあるブロックチェーンユーザーに対して、即座に確実な利益を提供することができる。それは、彼らのわかりやすいミッションと、良く練られた事業プランによるものである。」(Nervos Network社は、パブリックブロックチェーンとアプリケーションチェーンの組み合わせによって、ブロックチェーン技術を自社で開発せずとも、自律分散型アプリケーションの開発を可能にするサービスを提供している様です。)こちらも、VCの発言を集めることはできましたが、具体的なサービス内容などについてはリサーチの余地がありそうです。

【SaaS】
EnterpriseTech分野の中でも、SaaSへの投資は3つのVC各々から、複数回に渡り行われています。特にアクセルパートナーズは、ソフトウェア分野への投資実績から、スタートアップ側からの人気も高く、投資件数はより多くなっています。(Humio社CEO「アクセルはソフトウェア分野への投資において歴史あるベテラン投資家だ」)アクセル幹部は「我々はIoT分野を見てきた中で、事業拡大に時間が掛かり、また資産の動きも激しくなるハードウェアを売るスタートアップには限界があると考えてきた」と述べており、ハードウェアを提供するスタートアップには限界があること、そしてSaaS分野のスタートアップへの期待を世間に伝えています。一方、VC側の発言から、投資判断の基準を読み取ることは難しく、サービス内容の比較などからよりリサーチを行う必要がありそうです。


3. 個人的に興味深かったテーマ

【貨物輸送テック】
ファーストラウンドがShipwell社に投資。Shipwell社は貨物輸送のオンライン予約サービスを提供しています。貨物輸送テックは、VCとしての投資トレンドとは言い切れない一方で、共同出資者にJeff BezosやBill Gates、Mark Zuckerbergがおり、注目に値するテーマだと感じました。既にフォーチュン100の複数企業に対してサービスを提供しており、サードパーティロジスティクスを行う企業から一定のニーズがある様です。

【就学前の幼児教育】
ファーストラウンドはWonderwall社に投資。Wonderwall社は都市部の就学前の幼児を対象とした教育サービスを提供しています。現在、LAなどを中心に幼児に対する高水準教育を提供する施設が不足している様です。こうした問題を踏まえ、Wonderwallはサービスを展開しており、現在NYやサンフランシスコベイエリアへ拡大を計画しています。

【インドの学生用住居サービス】
セコイアとアクセルは、インドで学生用住居サービスを提供しているStanza Livingに投資を行いました。アクセルの担当者は「インドの学生用住居は、バラバラかつプロフェッショナルではない仲介業者が蔓延っている。学生の多くはサービスに不満を感じており、より良い住居に住む意思も支払い能力も備えている」と述べています。インドセコイア幹部は「学生用住居は、インドの西部では確実な投資対象であり、特にStanza Livingの伸縮可能なビジネスモデルと、経済力をもってすれば、投資対象としてかなり期待できるであろう。」と述べています。

Stanza Livingはデリ首都圏では16の不動産と2000のベッドを保持しており、1年で10,000〜20,000ベッドまで拡大を計画しています(現在、部屋は90%以上埋まっている)。専門家によれば、学生用住居市場は10年で3倍に伸びるとも予測されており、注目に値するテーマだと感じました。

【LegalTech】
セコイアは、カルフォルニア州初の500万件もの裁判録を有するデータベースを提供しているTrellis社へ出資を決めています。Trellis社の強みは、裁判官の経歴や判決内容などに関する情報や分析データを提供することで、裁判を有利に進める上で重要な情報へのアクセスを可能にしている点です。特に、カルフォルニア州では、州裁判所が99%以上の裁判を行うにも関わらず、システムはバラバラに管理されており、それが原因で包括的なデータベースが作られてきませんでした。各裁判官の特性や性格などは、弁護士にとって非常に重要な情報であり、「どういった伝え方がより裁判官に響くのか」「どの程度の金額を最終的に得ることができるか」などの戦略作成において、大きな役割を担います。こうした背景から、Trellisのサービスは、他弁護士事務所が所有する限り、必要になってくるデータベースとして、この先より注目を集めることになりそうです。

ファーストラウンドは、Court Buddy社に投資を決めました。Court Buddy社は、弁護士と弁護士を必要とする個人や会社を繋げるマッチングサービスを提供しています。このサービスでは、予算に応じて依頼可能な弁護士をリストアップし、チャットなどを通じてコミュニケーションを取ることができます。また、24時間サービスを使用することができ、弁護士とのインタラクションを、より容易にするサービスとして普及していく可能性があります。

【女性のリーダーシップ】
アクセルは、「経営層に名を連ねる女性を増やすことで、女性のリーダーシップを支援する」というミッションを掲げるChief社へ出資を決めました。企業役員を務める男性によるコミュニティであるYPOにインスパイアされ、Chief社は社会的地位を持った女性に対してパーソナライズされた支援プログラムや、そうした女性同士の人脈形成の場を提供しています。公開情報が少ない企業ですが、投資テーマとしてとても興味深いと思いました。

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今回のレポートは以上になります!海外の投資事例に関して、和訳されている記事はとても少なく、本まとめから何か一つでも参考にして頂ける内容があれば幸いです。よかったら是非いいね&拡散して頂けたら嬉しいです✨

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以上、米国Top-tierVCの投資動向から見る、投資トレンドレポート📄でした!長いレポートを読んでいただきありがとうございました。