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君、厄八幡って知ってる?

出張先の京都で階段から落ちて足を骨折し、家に泥棒が入り、車を当て逃げされそうになり、自転車を盗まれ、家に泥棒が入り(注:2回目)、車にはねられた。計6回警察のお世話になった。ざっと200X年6月1日から12月までの半年間で、の話だ。

私は、不注意だし、うっかりしてるからか、よく災難にあう。が、後にも先にもこんなに短期間で何度も警察のお世話になったことはない。多分、多くの人が一生で警察にお世話になる回数を半年で達成したと思う。

ひとつひとつについては、追々書くと思うけど、今日は警察にお世話になったエピソードフィナーレとなった「車にはねられた」話をしたい。

*

夏前に足を折り、蒸れ蒸れのギプスに耐え、その後2回泥棒に入られ、鑑識の人が家中の指紋を取るために吹き付けた銀粉も錆びて色付いた秋を経て、やっと迎えた年の瀬。

当時、はちゃめちゃに仕事が忙しかった私が、珍しく定時で帰った12月某日。疲れてはいたけど、まだ薄暗いうちに家に帰れるのが嬉しく、鼻歌まじりにのんびり自転車を漕いだ。会社から家までは自転車で6分。バイパスの大きな通りを渡り、幅の広い歩道へ。その時、ハイスピードで対面から走ってくる車が視界に入った。黒のライフ。信号が変わりそうで急いでいるのか?それにてしてもすごいスピードねぇ・・・と思った瞬間ギュンと車が歩道へ向かって曲がってきた。え?は?ちょ?え?とブレーキを握った瞬間には車の正面とぶつかっていた・・・。(下記イメージ画像)

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事故特有の衝突音と共に、自転車は車の下に潜り込み、私は自転車から投げ出され、ちょっと飛んだ。

痛かった。けれど、痛みよりも「あのスピードでまさかの左折?!」という驚きが大きかった。そしてしばらく倒れたまま身体の様態を確認した。膝から流血している。肩が痛い。でも起きられる、か。よし・・・。

当然、私をはねた車から運転手が出てくると思ったが、出てこない。倒れたままチラリと車内をみたら若い男性が電話をしている。ぶつかる前の記憶を巻き戻し、車内にフォーカスしてみると、運転しながら電話してた気がする。ということは、電話しながら私にぶつかって、ぶつかった後も電話してる・・?そんな大事な電話・・・もしや親が危篤・・・?いやいや・・・。

のそり、と起き上がり、運転席の窓を叩き、電話中の男性に「あの・・・」と声をかける。電話の通話口を押さえながら男性が答える。

相手「なんだよ、てめぇ、ぶつかって来やがって!!!」

えーーーー!えーーーーーー!!!うそーーー!!

私「いやいやいや。事故なんで警察呼びますね。」

相手「お前がぶつかってきたのに警察呼ぶってことはねぇだろう!!」

えーーーー!えーーーー!呼ぶよーーーー!!!

私「え?そっちは車で、こっちは怪我してんのに降りても来ないでその口の利き方はないでしょ!いいから警察呼ぶからちょっと待ってて」

相手「警察呼んだら俺も仲間呼ぶからな!!!」

なにーー?仲間ってーー!!!ドラクエー?!

私「お好きに。あ、もしもし、はい、事故です。場所は○○。怪我はしていますが救急車は不要です。車のナンバーは○○。私はいんでぃといいます。被害者です。連絡先は080-・・・。はい、待ってます。お願いします」

当時、警察にお世話になりまくっていた私はお手本のような通報を済ませた。相手はやっと車から降りてきたがまだ電話してる。

相手「何電話してんだよぉぉ!!!お前がぶつかってきたんだろぉぉぉぉぉ!!」

はぁーーー???もー無理ーーー!無理無理無理~!

私「はぁ!?あんたもさっきからずっと電話しとろーもん!運転中も電話しよったんやないとね?てか、おかしかろうや、ずっとそんなキレて。なんなん?!」

相手「うるせぇ!!ほら!仲間がきたぞ!!!」

さっきの宣言通り続々と車が到着し、わらわらと10人ほどが集まってくる。何しにきたんだ・・・。

私「仲間が来たからなんかって!意味なかろーや!!」

相手&仲間「お前殺すぞ!!」

冷静に再度携帯を取り出し110番

私「あ、もしもし、先ほど事故の通報した、いんでぃといいますが、運転手の仲間?が集まってきてて。向かって頂いていると思うのですが急いで頂けますか?え?あ、なんか、殺すぞって言われて、はい、お願いします」

相手&仲間「なん電話しよーとやって!!」

私「そらするやろ!!!!」

まもなく到着した警察官に、別々に事情を聞かれようとした瞬間。運転手の男の人が警察官に殴りかかり、そのまま公務執行妨害の現行犯で逮捕された。ただただ、びっくりした。え?警察の人殴っちゃう?

その後、私の事情聴取を終え、通常であればお互いに連絡先もしくは保険会社に連絡するというで段階で、対応してくれた警察官の人が言いにくそうに声をかけてきた。

警察官A「あのね、彼、運転免許もってないの。あと保険も入ってないって」

私「え?(なんていいました?)」

警察官B「無免許。前は免許あったらしんだけど。でね、彼このまま警察署に泊まることになりそうなのね。だから、これからの話できないでしょう。で、こちら彼のお母さん」

私「え?あ、はい(急なお母さん!!!)」

お母さん「息子がごめんなさいね。病院は?行ったの?私の知り合いの病院に行きましょう?ね?ね?」

私「え?いえ、自分で行くので大丈夫です(し、知り合いの病院?!)」

警察官A「お母さん、彼女怖がってるからね、連絡先だけ交換して。で、いんでぃさんね、病院行ったら、その後、警察署に来てほしいんだわ。調書書くから。自転車ね、ちょっと証拠で押収するね」

私「あ、はい。わかりました」

お母さん「本当に大丈夫?ついて行こうか?知り合いの病院の方が安心じゃない?」

私「いえ、大丈夫です。ほんとに」

その後、逃げるようにタクシーに乗り、骨折の時にお世話になった病院へ。受付で交通事故だと話すと10割負担になるけど大丈夫か、お金は持ってるかと聞かれ、「あの、相手が保険に入ってないみたいなんです。しかも無免許で」と言うと「え?」という顔をされて、「普通は受診料は相手の保険で払われることが多いんだけど・・・自分の保険会社としてみて?」と言われ、まじか・・・となる。そして診察室に入ると先生が「久しぶり!今度は交通事故だって?相手は無免許無保険?すごいねぇ!どこか痛い?」と明るく挨拶をしてくれた。

結局、事故直後は緊張していて痛みが出にくいこと、12時間から24時間後に痛みが強くなること、状況を聞けばこちらがスピードが出てなかったこと、うまく自転車がクッションになってぶつかり、頭は打ってないようなのでレントゲンは不要だが事故後数日して具合が悪くなることもあるので油断しないことなどを言い含められ、すりむいた膝の処置をしてもらい、湿布をもらって病院をでた。

その後、博多署についたらもう22時近かった。事故の件でと1階の人に声をかけると3階に行くように言われる。

警察の人C「あ~、いんでぃさん、遅くまでごめんねぇ。身体は大丈夫?でねぇ、あの彼の車、調べたら彼の車じゃないみたいなの」

私「え?」

警察の人C「うん、なんだか借りてるんだかって言ってるんだけど。彼ね、お仕事が風俗の送迎で。わかるかな?デリヘルの。で、駐車違反多くって免許なくなっちゃったみたいで」

私「え?(待って待って情報量多い~~!)」

警察の人C「色々調べること多くてね、今日いんでぃさんに事情聞くんだけど、明日以降また来てもうらうことになりそうだから」

私「・・・はい」

警察署を出て家についたら24時だった。今日は定時に会社を出たはずなのに。あまりに長いアフター5だ。

**

翌日勤勉にも出社し、仕事をしていたら例のお母さんから電話があり「昼休みに話しがしたい。示談したい。」とのこと。事情を知らせていた同僚が「ひとりでいくな」と体格のよい後輩を派遣し同行させてくれた。

人の多い喫茶店で何があるわけでもなかろうと、後輩には昼休みを潰すことを詫びつつ席に着いたら、お母さんが怖そうなスキンヘッドのお兄さんと登場。

えーーー!だれーーーー??

私「そちらは?」

お母さん「息子の学校の先輩の知り合いです」

それ!!赤の!!!他人!!!

スキンヘッドのお兄さん「こんにちは。この度はご迷惑をおかけしています」(さっと起立・深々礼)

れ、礼儀正しい~~~~~?!?

私「あ、はい。こちらは会社の後輩で、同席させてください」

お母さん「あの、息子はすごく優しい子で、子供も生まれたばかりで、嫁が里帰り中で、今のうちに私が示談して嫁にばれないうちにと、ほんとにいい子なんです」

う、うん?

スキンヘッドのお兄さん「お母さん、話の順番が違います。いんでぃさん、お身体は大丈夫ですか?病院ではなんと?遅い時間まで警察に行って頂いたみたいで申し訳ないです」

お兄さん場を仕切りだした!てか、ちゃんとしてる~!!!

私「あ、大丈夫でした。軽傷です。ただ、今後まだどうなるかわからないとは言われてます。病院代も10割負担で自転車もなくて困ってますが」

スキンヘッドのお兄さん「本当に申し訳ないです。お金で解決できるとは思っていませんが誠意としてお金の話をしたいと思っています。自転車弁償代、医療費、タクシー代、慰謝料併せて○万円で考えていますがいかがでしょうか。もちろん病院にかかって頂いて長くかかるようでしたら、都度その分も負担させて頂きます」

は、話が早い~~!開始5分~~!あと金額うまいとこ突いてる~~!!!

私「わ、わかりました。そちらで結構です。」

スキンヘッドのお兄さん「ありがとうございます。お待ちください」(後ろを向いて電話をかけるも5秒くらいで切る)

喫茶店の入り口から派手目なスーツのお兄さんが封筒を持って登場。スッとスキンヘッドのお兄さんに渡して、一礼してまた出て行く。

私「???」

スキンヘッドのお兄さん「(封筒を差し出して)こちらお納めください」

えーーーーー!!!どういうことーーー!!!あれ誰~~!!!!!

私「・・・はい。たしかに。」

スキンヘッドのお兄さん「それではこちらの示談書に署名頂けますか?」

するとお兄さんが持ってたルイ・ヴィトンの薄いブリーフケースからすでに必要事項が記入された書類がスッと出てきた。空欄は金額と私の名前とお母さんの名前だけ。完璧。甲とか乙とか丙とかバチィっと書いてある。ここでお兄さんはそういうお仕事の方なんだなと確信しつつ、書類に目を通しサインをする。するとまた派手目のスーツの人が現れ、書類を預かって立ち去る。

スキンヘッドのお兄さん「コピーを取らせます。あと、こちらからはお願いになるのですが、できたらでいいのですが、もう一筆、厳罰を求めないという嘆願書(※)を書いてもらえないでしょうか。もちろん罪は重いですが、お母さんもおっしゃっていたようにお子さんも生まれたばかりで、刑が長引き会えないのも忍びないと思っています」

※嘆願書とは、犯罪の被害者が、裁判官又は検察官に対して、加害者に刑事処分を課さないでほしい、または、刑事処分を軽くしてあげてほしいという希望を伝える書面。加害者に対して、どのような処分を希望するか、また、その希望を表明するかどうかは被害者の自由ですから、嘆願書を作成するかどうかも、被害者の自由。しかし、嘆願書は、起訴・不起訴の選択、刑罰の内容に少なからぬ影響を与える為、加害者側も、それを期待して、嘆願書の作成を依頼している。

すごいーーー!仕事が徹底してるーーー!私、2回泥棒に入られてるから嘆願書の意味もわかってるけど、普通の人はわからないと思う~!!!怖い~~!!

私「減刑は求められませんが、厳罰を望んでいないということでしたら書けます。いいですか。」

スキンヘッドのお兄さん「かまいません。見本は必要ですか?」

見本~~~!!!!!

私「・・・大丈夫です・・・。紙だけお願いします」

再度ルイ・ヴィトンの薄いブリーフケースから紙登場。私、このルイ・ヴィトンの薄いブリーフケース、一生忘れないと思う。

簡単な文章を書き署名したら、お兄さんは「たしかに」と受け取り、再度お母さんに謝罪を促し、「こちらの支払いは私が。これで後輩さんと何か召し上がってください」と漱石を2枚置いて帰って行った。この間35分。

後輩「ちょっと言い表せないくらいのことがありましたよね?」

私「わかる・・・。いてくれてありがとう。冷静を装ってたけど終始びっくりしてた」

その日の夜、警察から電話。「いんでぃさん?嘆願書書いた?脅されて書いたんじゃない?大丈夫?持ってきた人、あれ誰?」と矢継ぎ早に聞かれるので「脅されてないです。大丈夫です。自分で書きました。運転手さんの学校の先輩の知り合いって言ってましたけど。誰だったのか私も知りたいです。」と答えて笑った。ほんと誰だったんだ。

数日後。呼び出しに応じ、年も押し迫った警察署の取調室。

警察の人「いんでぃさん、ほんと心配したよ。事故の翌日、示談書と嘆願書持ってくる人いないから。」

私「はは。怪我も軽かったし、早く終わらせたかったからですね。このとことずっと不運だったし」

警察の人「うん、そのことだけどね。押収した自転車調べたらつい最近盗まれて出てきたばっかりだったね。」

私「あ、はい、そうなんです。他にも家に泥棒が2回入って、車に当て逃げもされそうになったし、足も折ってたし散々です」

警察の人「え?それ最近?私、それ一回駆けつけたよ?家○○?忍込み?2回目でしょう?」

私「あー、そうです、そうです、それです!その節はお世話になりました。」

警察の人「・・ねぇ、君、厄八幡って知ってる?」

私「?いえ、知らないです。」

警察の人「本当は若八幡宮って言うんだけど、厄払いの神様で、ここから近いし、君は終わったらすぐ行った方がいい(真剣な眼差し)」

私「・・・厄払い?ですか?(半信半疑)」

あまり乗り気でない私に、仲間内でもお参りする人が多いこと、博多署管内では有名な厄払い神社だということ、警察署からの丁寧に道順を教えてくれる声を聞きながら、警察の人がこんなに厄払いを勧めてくれるとはなぁ、そりゃこんなにお世話になってればな・・・と苦笑いをする。

その強烈プッシュに従い、警察から出たその足で若八幡に向かい、もらった慰謝料から奮発してご祈祷を受けた。そしたら不思議や不思議。本当にそれからピタッと犯罪に巻き込まれることはなくなったのだった。

その後、私の周辺では私を不運を終わらせた伝説の神社として若八幡神社がもてはやされることとなり、会社に出入りする業者の人にまで「若八幡神社ってそんなにすごいんですか?」と聞かれる有様だった。

***

厄八幡がすごかったのか、私の不運が終わったのかそれは神様だけが知ることだけど、それから数年後、また「厄八幡」にお世話になることがあるのですが、それはまた別のお話。

みなさんはどうか犯罪に巻き込まれませんよう。

どうかルイ・ヴィトンの薄いブリーフケースを見る機会がありませんように。




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