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青は藍より出でるが、なかなか難し

 青は藍より出でて 藍より青し。
 有名な諺ですが、藍自身は実は簡単に青くならないように、涙ぐましい努力をしているというお話しです。

1、身を守るために備えた抗酸化成分

 藍染めの原料素材のタデアイ。青く染まるから染料に加工されるわけですが、当たり前に青くなると思ったら大間違いなのです。
 藍色に染まって見えるあの色の素の成分は、始めは無色透明です。だから、タデアイの葉は青くなく、普通の緑色をしています。

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 画像は我が家の畑のタデアイです。無色透明の「インジカン」という成分が、藍の葉の部分に含まれています。これが、私たちが染料や顔料として求める「インジゴ」の素の成分。インジカンはまだ藍色にはなっていなくて、無色透明な水溶性の成分です。葉の中を自在に駆け巡って自身の命を守る活動をしています。

 収穫によって茎が切断されると、酵素にスイッチが入り、酵素がインジカンと結合し「インドキシル」に変化しますが、この時もまだ無色透明で水溶性です。ここから更に酸素と出会うことで「インジゴ」となり、水にも油にも溶けない藍色の微粒子となるのです。
 藍の色って、いろんな出会いがあってこその色なのです…出世魚ならぬ出世色。

 水にも油にも溶けない……ということは、葉の中を走り回ることができなくなるということ。そんなことになったら大変なので、タデアイは涙ぐましいほどの防衛策をその身に備えます。酸素に負けないようにするため、抗酸化成分のポリフェノールを「これでもか!これでもか!!」と蓄えこんでいます。どれほど蓄えているかというと…

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 こんな感じです。「うおおおおおお、青くなりたくない!!!!」 という彼らの魂の叫びが聞こえてくるようです。(でもごめんね…私たち、あなたが青くなった姿が大好きなんだよ…)
 タデアイの葉をちぎって食べてみると苦いのは、このポリフェノールがエグみとなっているから。


2、辛いことを経験して強くなるのは人も植物も同じ

 さて、でもなぜインジカンが「彼らの命を守る活動をする成分」だと分かったかというと…検証したのです…大事に大事に温室でタデアイを水耕栽培して、その葉にどれくらいのインジカンが含まれるのかを。
 株は順調に育ちました。葉の大きさは露地栽培の1.2~1.4倍ほどにもなり、にわかにインジカンの収量が上げられると期待しました。それはそれはウキウキでした。ところが、この葉を分析機関に回してみた結果「インジカンがほとんど含まれていない」という事が分かってしまいました。インジカンだけでなく、ポリフェノールまでほとんど含まれていないというデータが目の前に現れた時、「おおおお…面白い…がっかりだけど、面白い…」泣いていいのか笑っていいのか分からない気持ちでしたが、藍という植物の姿にまた一つ近づけた実感がありました。

 つまり、彼らは…
 日光によってもたらされる紫外線を浴びる事や、単純に雨に打たれたり風に吹かれたりすること、それから虫に食われたりして「危機」を感じることによってインジカンを生成し、身を守ろうと「戦う身体」に変貌させていたのです。そしてそのインジカンを精一杯守ろうと、ポリフェノールも盛大に作り出し…本当に涙ぐましい努力です。

 人も植物も、何らかの「クライシス」を経験することによって強さを身に着けることに変わりはないようです。箱入りで育てちゃダメですね、かわいい子ほど。

 余談ですが、正藍染めの生地も、染めてすぐより半年ほど日陰で管理した物の方が発色の具合が良いことがあります。酸化するスピードが本当にゆっくりなんです。水でザブザブ洗う染色作業の時点でポリフェノールはほとんど関係なくなっていると思うのですが、とにかくゆっくり青くなります。1週間後くらいに、染めた直後の色から1割り増しほどきれいになる時もあります。(そんなに嫌ですか…青くなるの…って諭したくなるくらい。)
 そういうわけで、染め師さんに染色を依頼するときは、あんまり急がせない方がいい色に仕上がりますよ。これは絶対です。

よろしければ、サポートをお願いいたします。いただいたサポートは藍農園維持と良質な藍顔料精製作業に活用させていただきます。