駆け出し百人一首(5)うたたねも月には惜しき夜半なればなかなか秋は夢ぞ短き(足利尊氏)

うたたねも月(つき)には惜(を)しき夜半(よは)なればなかなか秋(あき)は夢(ゆめ)ぞ短(みじか)き

新拾遺和歌集 1629番

訳:秋の美しい月を思うと、夜中うたた寝するのももったいないので、かえって秋の方が夢は短い。

In autumn, the moon is so beautiful that I don't even want to slumber. Actually, we sleep in autumn shorter than in spring. A dream in autumn is ephemeral.


ふつう、儚さの代名詞として使われるのが「春の夜の夢」。
周防内侍「春の夜の夢ばかりなる手枕に かひなく立たむ名こそ惜しけれ」
藤原定家「春の夜の夢の浮橋とだえして峰に別るる横雲の空」
などの歌に使われている。その常識を前提にして、ユーモアのある歌を詠んだわけだ。この、ちょっと理屈っぽい面白みは、清少納言の祖父の清原深養父の詠みぶりに近いかもしれない。


古文単語

なかなか:かえって、むしろ。

文法事項

夜半なれば:断定の「なり」の已然形+接続助詞「ば」により、確定条件の原因・理由。夜半なので。
夢ぞ短き:係助詞「ぞ」により、ク活用の形容詞「短し」が連体形になっている。強意。


#駆け出し百人一首 #足利尊氏 #和歌 #短歌 #古典 #古文 #日本文学 #tanka

サポートは、書籍の購入、古典の本の自費出版に当てさせていただきます。