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ゲットバック・マイ・ライフ 5

承前

「…この外道が!」

迷彩服の男が大声で罵倒する。投げ飛ばされた白衣の男は呻く。既に血まみれだ。

白衣の男は逃げ出そうとするが、周りは武装した迷彩服に囲まれていた。白衣の男は、何か許しを請うような動きを取るが、迷彩服の隊長と思しき男は取り合う様子も見せず、拳銃を白衣に向ける。

「アノロックには相応の末路だ。死ね。」

そう宣言し、乾いた銃声が響く。白衣の男は糸が切れたように倒れ伏し、こめかみからは小さな噴水のように血が…ダメだもう見てられねぇ。俺は瓦礫の陰から覗かせていた頭を引っ込めてぶるぶると震えた。

俺の会社、何しやがった?

—————

株式会社アノロック・エージェンシー。いわゆる広告代理店。国内でもそれなりのポジション。合コンで名前を出せば一目置かれる華やかな仕事。たまに表沙汰になる不祥事。俺の所属する会社。訳の分からない裏東京とやらにもある、俺の会社。逃げて来たはずの俺の会社。

俺はその八卦のような見覚えのあるロゴを目指して歩いて来たのだ。おそらくカレンが連れて行こうとした場所。そこに行けばとりあえず何か情報が得られると思ったのだ。

だがそこは既に武装勢力によって制圧された後だった。建物内部から引っ立てられて来た男は玄関の前で射殺されてしまった。また人が死んだ。最悪だ。カレンといい、何で出会う側から死ぬんだよ。

しかもあの迷彩服どもは我が社の所業にお怒りだ。まるで弁明を聞く気がない。このままノコノコ出て行ったら俺も殺される。ちくしょう。俺だって会社のやり方には文句しか出ねぇんだぞ。なんでお前らだけうまい事スカッとしてやがるんだ。

「…隊長!地下に保管されていた兵器群、予定通り回収して来ました!」

「よし。ひとまず我が社で保護する。」

…兵器だと?そんなもの作ってたのかウチは。いや、ロボットや悪魔がウロウロしてる世界なんだからそれは当然か。

目的はよくわからないが、どうもこの世界はロボだの悪魔だの竜騎士だのが、陣営に分かれて戦ってるようだった。だとすると駅前でカレンを潰してここに砲弾を撃ち込んだロボはこいつらのものか。

兵器…兵器か…。俺が本来予定されてたルートでここに辿り着けてたら、ひょっとしたら扱ったかもしれない兵器…。心の中の少年が顔を出し、今まさに運ばれていくそれを見てみろと騒ぐ。心の中の中年は未だ震えていたが、今は少しでも情報が欲しかった。俺は慎重に瓦礫の陰から顔を覗かせる。

支社ビルの前にいつのまにか現れていたトレーラーのコンテナに、人間が列をなして乗り込んでいく。10人かそこらか。そいつらはどこか虚ろだ。

俺が期待した兵器のようなものは何も持っていない。ロボでも、悪魔でも、竜でもない。金髪の、青い眼の女。全員同じ顔の女。カレン「達」だった。

呆気にとられた俺の目の前でカレンと同じ顔をした女達はトレーラーに乗せられた。続いて今度は男の列。こいつらも同じ顔をしていた。その顔には覚えがあった。半年前から休職しているはずの同期の棚橋だった。

叫び出しそうな衝動を何とかこらえ、俺は再び瓦礫に身を隠した。見続けたら正気を失いそうだった。

「…隊長、あと1タイプで収容完了です。」

「わかった。地下のオリジナルはどうだ。」

「いずれも死亡済み。我々の突入より随分前に…。」

「…全て燃やしておけ。」

隊長と部下のやり取りが聞こえてくる。だいたいわかった。わかってしまった。俺はトナー切れで呼ばれた塗料タンクだったのだ。使えなくなった社員は異世界で兵隊にリサイクルか。狂ってやがる。身体がぶるぶると震える。カレンの遺したプロテクターがかちゃかちゃと鳴る。やめろ。音を出すな俺。死ぬぞ。

「…決戦を前にしてアノロックを壊滅せしめた!これも諸君らの働きあってのことだ!」

隊長格がなにか言っている。

「アノロックのクローン軍団など、所詮はクズの劣化コピー!我らのような出向社員の敵ではない!」

部下達が大声で応える。どこからどこに出向してんだお前ら。わかってんのか。

「我らはこのまま本隊と合流!決戦に備える!以上だ!行くぞ!ヤマナジの名の下に!」

ヤマナジ?ウチの競合じゃねぇか!あぁちくしょう。いよいよ何一つ神秘性がなくなってきたぞ。あの竜も、ヒーローっぽいロボも、悪魔もどこかの会社の持ち物かよ。悪魔のとこ、絶対許さねぇからな。

「…おい、そこの!」

エッ?俺?

「コソコソ嗅ぎ回ってるようだな!いい覚悟だ!」

いやいやいやいや!ジッとしてた!ジッとしてたよ!なんで気付かれた!?

「だが勝つのは我々だ!」

ガァン!

俺が身を隠す瓦礫の端の、何もない空間に銃弾が命中した!手のひらに乗りそうな三脚カメラめいた機械がそこに現れ、バチバチと火花を散らす。こ、光学迷彩、ってやつか…?あ、俺じゃなくて、こいつ…こいつが…。

「フン。よし、行くぞ!」

迷彩服の男達は複数台の車両に乗り込み去って行った。三脚メカは火花も出なくなり、力無く地面に落ちた。

俺はしばらく膝を抱えて震えていた。そして一つ決心した。生きて帰ったら転職しよう。俺の人生をこんな奴らに奪われてたまるか!

【続く】


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