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俺の実家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。

居間では今日も聖火が燃え上がり、暖かな光の波動を放っている。そしてその横の禍々しい暗黒聖火も負けじと闇の波動を放ちながら燃え上がっていた。ここには聖火が2つある。

事の起こりは半年前。東京オリンピックは延期され、聖火リレーは中断された。再開の目処が立つまでの保管場所に選ばれたのが地元の名士である俺の実家だったのだが、ひとつ問題があった。俺の実家は闇の一族であり、闇の一族が催す予定だった暗黒オリンピックの聖火がすでに保管されていたのだ。実家が表の顔として勝ち取った社会への信頼が裏目に出てしまった。回避策を練る間も無く、聖火は運び込まれてしまった。

突然の中断に加えて暗黒存在との接近である。初日の聖火はとてもナーバスで、即座に暗黒聖火を焼滅させるべく豪炎を滾らせ、実家は全焼しかけたという。保管場所を無くしてはと矛は収められ、奇妙な共同生活が始まったのだ。

俺が実家に戻ってから穏やかな日など1日もなかった。堅物な聖火と享楽的な暗黒聖火は事あるごとにぶつかった。暗黒存在め。なにをこの世間知らずが。2つの炎が猛る度、俺達は消化器片手に家財道具を守り続けた。

だが聖火と暗黒聖火の2炎も、共同生活で少しずつお互いの事を知っていった。不安を募らせる聖火を暗黒聖火は笑い飛ばして励まし、先が見えない現状を憂う暗黒聖火に聖火は希望を捨てない事を諭した。実家の居間は光と闇が合わさった不思議な空間となっていった。

———

そして現在、俺の実家には見知らぬ一団が訪ねて来ていた。「光のオリンピック実行委員会」なる彼らは、闇の一族と同様、人知れず真オリンピックを開催しているのだという。そして今日はその光のオリンピック聖火として、うちに預けられた聖火をスカウトに来たのだと、そう語った。

聖火存在であれば見逃せない、一大ステップアップチャンスだ。しかし再開の目処が未だ立たない東京オリンピックを見限る事が果たして正しいのか?聖火は悩んだ。暗黒聖火は聖火の背中を押した。人間界でウダウダやってないでひとつ上の炎になれと。役人にはどうにかごまかしてやる。なんなら俺が化けて聖火のフリをしてやると。お前はお前の為に燃えろ、と。暗黒聖火は自らの炎を聖火の炎に絡ませ、訴えかけた。聖火も、ついに決心した。翌日、聖火は旅立っていった。

熱量が半減した居間を暗黒聖火が寂しげに照らす中、東京オリンピックの役人が定期訪問に訪れた。俺が昨日の顛末を伝えると、役人の顔は青ざめていった。無理もない。さてどんな罰が下るか。だが役人は信じられない言葉を口にした。

「光のオリンピックなんて存在しない!そいつらは詐欺だ!」

二階に隠れていた暗黒聖火が天井を焼き焦がして居間に落ちてきた。突然の暗黒存在出現に卒倒した役人を尻目に、俺と暗黒聖火は頷き合い、家を飛び出した!

CRAAAAAAASH!!!!!

—廃倉庫の天窓を突き破り三点着地する暗黒聖火!詐欺集団に囲まれた聖火は縛り上げられていたが、無事だ!

「おのれ暗黒存在め!神の威光を知るがよアバーッ!」

堕落エクソシスト焼滅!暗黒聖火の怒りが猛り、詐欺集団はそのまま全て灰塵へ帰した。

聖火はまだ状況が掴めておらず、炎をぱちくりとさせていた。そんな聖火に暗黒聖火は炎を差し出し、立ち上がらせた。全く世話の焼ける野郎だ。そんな台詞と共に。

———

さらに半年が過ぎた。
東京オリンピックの再開催が決まり、聖火リレーも再開されるとこになった。暗黒オリンピックもだ。別れの時が来たのだ。

実家の正門前に並び立つ聖火と暗黒聖火。この1年、楽しかったよ。聖火は暗黒聖火に伝えた。暗黒聖火はいつもの軽口が出て来ず、俯きがちに笑った。やがて2炎は背を向けあい、それぞれの道へ歩み始めるのだった。それぞれの祭典で、人々を希望で照らす為に。

「おお〜い!」

出し抜けに大声が響いた。見ればこの間の役人が汗だくで走って来ていた。一体どうしたんだ?

「東京オリンピックなんだが、今回から暗黒オリンピックとの共同開催になったんだ!それで聖火リレーのコースも変わるから、もう少しここで待機しててくれないか?!」

【終】

これはなんですか


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