自己紹介

今から1時間ほど前、私はふとこの建物の階段の1番上はどうなっているのだろうと思った。

一度気になると試さずにはいられず、永遠に思える階段を1段、1段と登っていった。
階段の数に比例して、地平線との距離は遠くなり、すぐ下の建物は解像度が低くなっていった。

階段は12階で行き止まり。
鍵のかかった柵があって、その先には進めそうになかった。
柵をよじ登ってやろうかとも思ったが、あいにく今日はプリーツのロングスカートを着ていたのでそれはまた今度のお楽しみ。

私は、ここからの景色が好きだと思った。
大嫌いな新宿の一部のはずなのに。
地上からたった50メートルほど離れただけで、あの息苦しさも、あの窮屈さも嘘だったかのよう。
清々しい空気の中で、ここでは自由な気がした。

私はsleepinsideというバンドの、砂の城にして という曲を流した。
音楽の力は不思議だ。
さっきまでは真下を見ると足がすくんで仕方なかったのに、たぶん、今なら落っこちてもなんともない。
これはそんなような気がする、など曖昧なものではないのだ。

どこにでも飛んでいける!
私はきっと、ここから大きな大きなジャンプをして、少し遠くのあの屋上に着地するんだ。
そしたら気がゆくまでお昼寝したい。
なんてったって今日は春を詰め込んだような天気。
これでもかってくらい空も澄み渡っている。
こんなお昼寝日和は滅多にないでしょう?

私は地平線のさらに奥の誰かに届くように、曲を口ずさんだりなんてしてみた。
消して叫んだりはしない。そんなのはリアリティもないし面白くない。
きっとそう、恥ずかしかったとかではない、たぶんね。

私は初めてここからの景色を知った。階段で12階まで登るなど私の生活ではイレギュラーなことだった。
でも、12階からの風を浴びたこの瞬間、私はこの空間と一体となったのだ。
私の非日常は、一瞬で日常に溶け込んだ。
私はそんな空間が好きで、こんなふうに、好きを更新していきたい。

それが日常になることが、小さな幸せってやつなのかな、


(追記)
このことを彼に話したら、

13階に繋がる階段が塞がっているのは意味がある、それはいけないやつだ。絶対その先に進んではいけないよ。
と私を怖がらせてきた。

13階段の記事を見せられまんまと騙された私は、
この先13という数字を見るたびに、少し胸がざわざわするだろう。

私はいつかあの柵を越えることができるだろうか。

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