見出し画像

かっこいい色校の見方【1】

色校の匂いが好きだ。初めて色校を手にした時から何故だか直感的に「これは好きだ」と思った。
実はそれはあまり不思議な事ではなく、おそらく多くの人が色校の匂いに高揚感を感じるのではないかと思う。

その答えは簡単で、あらゆる書籍や雑誌類を開いた時に放たれる “鼻をつくインクの匂い” が色校のそれだからだ。

つまり、子どもの頃から 知らぬ間に覚える嗅覚の1つが、紙面内の興味と結びつき、頭の奥底に記憶される。
思い出と音楽がセットで記憶されやすいというが、それと同じ原理だろう。

(僕の記憶の1つで言うと、兄の持っていたコロコロコミックを、彼の留守中にワクワクしながら読んでいた記憶がそれかもしれない。)

色校の匂いが誘う高揚感は、眠った感情を回想させるのだ。

そんな感情も合間って、色校とは初めて平面のデザインが 呼吸をしはじめた瞬間にも思える。重さ、質感、距離感、、

大げさに捉えると 物凄く尊いものなのでは?っと思ったりもする。

いや、間違いなくデザイナーにとっては神聖なものなのだ。

本当の色校

寂しいことにWeb系の会社に入って、目にしなくなったものが、カッターにカッターマット、金尺、ルーペ、赤いダーマトウ、と言った愛すべきデザインツールたちだ。まぁ、これらは使わないのだから仕方がない。

そんな環境の職場でも、たまには印刷物の案件もある。
とは言え、ネットで発注をして納品を待つか、オンデマンドの印刷で「色校いります?」と聞かれても「一応、」と答えるぐらいだ。昔ほどの熱量はなくなった。

それもそのはず、、色校とはデザイナーが最後の思いを託して校了するものだ。
その後、職人の手に渡すためのコミュニケーションでもある、この工程を欠かすのであれば「一応、」ぐらいの確認とさせていただこう。

では、そもそも「一応、」ではない色校とは何か? 一口に色校といっても以下のように、大きく3つの種類にわかれる。今回はこの3つについて解説する。

・簡単校正 ・校正機の校正 ・本機校正

簡易校正

少部数の印刷の場合は、これになってしまうケースが多い。

印刷の手法まで説明しまうと長くなりすぎるので、簡単に書かせていただくと、デジタルデータから直接、高性能なプリンターで出力するイメージだ。(オンデマンド印刷)

製版の工程がないため、少部数であれば金額も安く納品までも早い。ネット発注できるサービスはほぼこれだろう。

簡易校正は、色コンセとも呼ばれる。
つまり「だいたいこんな感じで刷りますよ」というコンセンサスをとるもので、これもまたプリンターから出されるもの。

つまり校了のしたものの、本番用のプリンターの癖や調子によっては色がブレてしまう可能性がある。これではデザイナーの仕事として「一応、」と言いたくなるのも察していただきたいのだ。

(とは言えデザイナーである以上、最低限の知識と作法で向き合えたほうが良いと思い書いている。)

校正機の校正

紙のデザイナーなら、このクオリティからの色校でしか信用しないだろう。
「色校です!」と胸を張って言えるのがこれだ。

鼻をつくインクの香りと、できたての生々しさが残るトンボ、4色の色玉。。
確認するデザイナーのモチベーションも変わってくると言うものだ。(しばらくこれを見ていない。。)

しかし、その前に “校正機” という部分に引っかかる人も多いと思うので、そこを解説したい。

これは本機と同じ機械ではあるが、日々大量の印刷物を刷り出している中で、稼働を止めてまで色校を出すことは出来ない。
そのために色校用に稼働する機械のこと。または、平台校正機と呼ばれるような専用の機械も存在する。

実のところ、これも本機の印刷の色合いとは異なるのだ。

一回で数万、数十万と刷る本機は、色が安定する序盤の数百部程度は肩慣らしでしかない。

と言うわけで、「本機と同じ機械です。」と言われたとしても、色校用に数百部も刷ることはできないため、色の誤差が生じる。
また、平台校正機のようなフラットな版と、ローラーの版を用いる本機では、圧力が違うため色玉の膨らみが微妙に変わるという事象が発生するのだ。

いずれにせよ、この校正機の色校を確認するにあたっても、本番とは誤差が生じることを考慮しなければならない。

本機校正

では、本機ならば間違いないだろう。という考えに行き着くが、しかし、、

申し訳ない告白だが、僕は本機校正を見たことがない。。

本機校正を確認する場合、工場に直接 “刷り出し” と呼ばれる立会いが必要となるのだが、そこまでして確認する案件があるとすれば、有名雑誌の表紙か写真集など、とにかく色に命をかけないといけない場面だろう。

以前、テレビで写真家の蜷川実花さんのドキュメントを追った番組があり、実際に印刷中の本機を止めて色の確認をしている姿を見たことがあるが、大変勉強になった。

これで その温度感をご理解いただけただろうか?
(これは一生やらない気がする、、)

おこころ構え

時を遡り、トンボの中に写植と図版を組み合わせて版下を作っていた時代なら、初めて色付きでプレビューされるわけなので、これ程ありがたい事はない。

現在では、ディスプレイの性能が向上したことにより、プレブューで満足してしまう様な錯覚に陥ることもある。

Webの仕事をしていると、全ての閲覧者に均等な印象を与えるデザインは難しいが、紙面上のグラフィックはそれが可能だ。

大きさと距離感、重さと質感、絶妙にこだわるためにも、まずは知識あってのお作法と言うことで、今回は色校の種類の解説まで!

→かっこいい色校の見方【2】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?