見出し画像

商人のDQ3【43】ソフィア大聖堂

 一晩明けて。アッサラームの街が日常の姿に戻ります。夜にはいろいろとイベントのある街ですが、この世界ではさらに風変わりな特徴があります。

 夜にも見かけましたが、やはり目を引くのはモンスター種族の姿。フィールドをうろついてるあばれザルやキャットフライたちが、街の中にも。

「お前さんたち、北からやってきた商人だろう?モンスターと一緒に住むのが、モスマンの日常なんだ」

 彼らは人に危害を加えません。あくまで街の住人です。モスマン帝国は、魔王の精神支配から解放されたモンスターと、人間が一緒に住んでいる国。
 「ダイの大冒険」に出てくる、モンスターたちが平和に暮らすデルムリン島がもっと大きな国になった感じです。

「魔物たちがなぜ、生存本能を無視して死ぬまで戦うか分かるか?」
「魔王の操り人形にされてるからでちね」

 モンスターたちを珍しそうに見ている割には、真相を知っていると。逆に住人のほうが少し驚いています。

「北に帰ったら、モスマンのモンスターはいい奴らだって広めてくれよ」
「むこうの人は、凶暴化したモンスターしか知らない人が多いでちからね」

 以前にバルセナの街近郊で、アルスラン王の天幕に偶然忍び込んだシャルロッテたちは「理知的なモンスター」を初めて目にします。それこそが彼らの本来の姿。街の人との会話から、モンスターたちは人間と同じ立場で暮らしているのが読み取れました。

「この街に、さまようよろいくさったしたいはいないな。奴らは製法こそ違えど、魔王やネクロマンサーの命令に逆らえない機械も同然か」

 クワンダの発言に、アミダおばばもうなずきます。

「地獄の騎士サイモンも、生前は高潔な勇者だったと聞く。それがヒミコの命令に逆らえぬとは。何か救ってやる手立てはないものか…」

 自分たちがヒミコを復活させなければ、サイモンが死後も苦しむことは無かったと。おばばは申し訳なさそうにしています。

「アッシュしゃんからも、サイモンしゃんがベスビオ火山に現れた話を聞きまちた。新たな勇者の手で引導を渡すことが、一番の救いでちね」

 別の住人は、こんな話を聞かせてくれました。

「銀の竪琴を携えし『詩人』。名前すら謎のままだけど、モスマンでは音楽のチカラでモンスターたちを救った英雄だよ」

 モスマンには「チクオンキ」なる発明品があるらしく、その機械に記録された詩人の音楽が今も、街にBGMとして流れています。市場では、人間社会に馴染んだモンスターたちが奇妙な露店を出していました。

「ウホホ、ミザルそば美味しいよ!」
「キャットフライドチキンだニャ!」

 見ざる・言わざる・聞かざるをモチーフにした三種薬味の蕎麦と、猫の手で揚げるのか?心配になりそうなフライドチキン。いくら文明の交差点トルコだからって、フリーダムすぎませんか。
 カオスな露店の並ぶ市場を抜けて、シャルロッテたちは目的の宮殿へ。

「ついに来たか…この目で見る日が!」

 建築家でもあるアントニオじいさんが、長年見たいと願ってきた東の大聖堂。かつてはロマリアの末裔を称する国により、ヨーロッパ人の信じる神の聖堂として建設されながら。異教徒である砂漠の民に占領された後も、その壮麗さから第一級の格式を誇るモスクとして繰り返し改修を受け使われ続けた、極めてまれな歴史的建造物です。東西宗教、融和の象徴。

 なお、アントニオ・ガウディもアヤソフィアのドーム天井に影響を受けた作品を残しています。

グエル邸見学の大きな見どころの一つがこの中央サロンのドーム天井です。トルコ イスタンブールのソフィア大聖堂に感銘を受けたガウディが、自身のアレンジを加えてデザインしました。

「旅人のみなさん、アヤソフャへようこそ」

 入り口の両脇を守るのは、斧槍と堅固な鎧で武装したサイおとこ。門番として、違和感がありません。

「アルスラン王の宮殿は、ここでいいでちか」

 シャルロッテが肩掛けカバンから、イシス女王の封蝋が押されたパピルスの手紙を取り出して衛兵に見せると。

「イシスからの使者ですね。ご案内します」

 聖堂であり、現在はモスマン帝国の王宮でもある巨大な建物の中へ。一行は案内を受けて奥へ進んでいきました。

※ ※ ※

「なんと、貴殿はロマリアの領主殿であったか」

 豪華な応接間でシャルロッテたちを出迎えた大臣は、黒い蛾のようなモンスター種族モスマンでした。胴体と手足のあるじんめんちょうと思ってください。モスマンの種族名が帝国の名前なのは、初代王がモスマンだったのに関係するのだとか。今のアルスラン王は、その後を継いだことになります。

「ロマリアを襲った魔王軍をやっつけたあと、アルスラン王とお話しして。イシスでヒミコしゃんに捕まってたクレオパトラしゃんを助けてきたでち」

 アルスラン王遠征の件では、モスマンの本国アッサラームにも早馬がとんでいましたが。イシスの件で第一報をもたらしたのはシャルロッテでした。お茶菓子で出されたトルコ名物の「ロクム」をほおばって、ごきげんです。日本の「ゆべし」にも似たお菓子。

「なんと!それはまたお強い」
「イシスでは、ほとんどアントニオおじいちゃんのひとり舞台でちたけど」

 モスマン大臣も、スパニアの建築家アントニオの評判を聞いていたのか。機嫌を良くして、じいさんにサインを求めました。ドヤ顔でサインに応じるおじいちゃん。

「なるほど、船の建造費用と大聖堂の建築費をまかなうため、くろこしょうを求めてバハラタへの道中でしたか」

 シャルロッテたちの話を聞いて、モスマン大臣はアッサラームの北で橋の建設に関わっているアルスラン王へ急ぎの使者を出してくれました。

「アッサラームの港から、バハラタへ船を出せるんじゃな?」
「はい。ですが最近は、物騒なうわさを耳にすることが増えました」

 バハラタで一体、何が起きているのでしょうか?


アーティストデートの足しにさせて頂きます。あなたのサポートに感謝。