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『ウイグル族とトルコのムスリム』(イスラーム)

 ブラッド・ピットが主役の『セブン・イヤーズ・イン・チベット』という映画をご存知の方は多いと思うが、この映画のモデルとなったハインリッヒ・ハラ―氏はアイガー北壁の初登頂者でドイツ政府(ヒトラー政権)に認められ、ヒマラヤ登山隊に参加したが、第二次大戦の勃発でイギリスの捕虜となってしまった。

 その後、ヒマラヤに近い拘留先で脱走し、チベットに逃げ、子供のころのダライ・ラマ14世の家庭教師になり、中国の人民解放軍によるチベットの軍事侵略(1949年)を目の当たりにした。

 この映画では中国とチベットの宗教や文化との衝突が描かれているが、ある意味、チベット問題やダライ・ラマ14世というチベット民族のリーダーの幼少期を世界中に知らせる大きな広報効果もあった。

 同じように人民解放軍の新疆侵攻(1949年)により、新疆は中国共産党の新疆ウイグル自治区となりった。
 しかし、ウイグル族にはチベットにおけるダライ・ラマ14世のような世界中の人が知る象徴的な人物がいなかった。
 そのため、各国でバラバラだったウイグル人の民族運動を司る組織「世界ウイグル会議」がドイツのミュンヘンに設立され、ラビア・カーディルさんが議長になった。
(ウイグルの母 ラビア・カーディル自伝 中国に一番憎まれている女性)

 ウイグルはチベットと比較すると日本語の資料が少ないため、今回の『ウイグル族とトルコのムスリム』は世界ウイグル会議に所属する日本ウイグル連盟会長のトゥール・ムハメット博士にご協力をいただいた。

 ウイグル族はテュルク系民族と呼ばれ(テュクルとはオスマン帝国においてトルコ語を母語とした人々を意味している)、中央アジアの天山山脈を中心にした東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)に住んでいるムスリムを指す。

 トゥール氏によると、東トルキスタンがイスラームになったのは、現在のウズベキスタン(西トルキスタン)にあった中央アジア最古のイスラーム王朝(イラン系)のサーマーン朝(サマニ朝、9-10世紀)の影響が強くあったそうだ。

 Wikiにあるように、ここでもイスラーム商人や、土着の習俗や信仰と柔軟に対応するスーフィーが先兵として活躍したと推測できる。

草原地帯でのサーマーン朝王族、商人、学者、スーフィーの活動はテュルク系遊牧民のイスラームへの改宗を促した。

 テュルク系民族がサーマーン朝を滅ぼし、東トルキスタンでカラハン朝(10-11世紀)をお輿した。仏教国だったカラハン朝はサトゥク・ブグラハン太子がイスラームに改宗したことからイスラームを受容し、一気にイスラーム国家となり、東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)はムスリムの地域となったのだ。

 現在のトルコ人も同じテュルク系民族で、ウイグル族とは民族的に近く、なおかつ同じイスラーム(スンナ派)としての連帯感は強固だ。
 中国がウイグル族のイスラームの習慣を軽視したり、弾圧されたりすると、トルコ国民は連帯し抗議する理由はここにある。

 イスラームは共同体として連帯感を育むシステムがビルトインされている宗教だ。例えば、ハッジ(メッカ巡礼)は、もともとは無道時代(イスラーム成立前)からのアラビア半島での習慣からイスラームに応用されたものだが、ハッジでは男性は綿の長い布を巻き、女性は顔だけ出して全身を覆うので、誰が金持ちなのか、大統領なのか、市民なのか、経済力の違いはもちろん、国籍の違い、肌の色の違い、そういう違いが一切区別がつかず、全員が一緒に同じ方向に向かって祈るシステムだ。
 あるいはラマダン(断食月)には同じ時期にすべての信者が断食を行い、世界中のムスリムが同じ苦しみに耐えているということを感じるシステムだ。

 これらの連帯感を育むシステムはトルコ人とウイグル族という民族的に近い人たちの連帯感をさらに強固にする。
 ひとつの会社でも、ブランドロゴや社章や社是は大切だが、苦しい時期を一緒に乗り越えたとか、一か所に集まり同じ感動を共有したとか、具体的な体験(Experience)が連帯感を育むものだ。

 ウイグル問題は中国の国内問題という枠を超え、同じ民族のトルコとの摩擦を超え、イスラーム共同体全体との摩擦に発展する可能性もあるのではないか、そして、中国にとり新疆ウイグル自治区で生産されたり、カスピ海に面するトルクメニスタンで生産され新疆ウイグル経由で輸入されている天然ガスが重要なものだとすると、東トルキスタンを中国に同化させようとする「縦の力」とイスラームの創始者ムハンマドが授かった啓示による「横串刺しの力」が衝突することになってしまう。内面の信仰を重視するキリスト教なら問題ないかも知れませんが、聖俗を分離しないイスラーム(スンナ派)にとり、五行は六信とともに絶対的なものなので、これらを否定することは許容できない。

 ダライ・ラマ14世はチベットの独立は経済的地理的に非現実的であり、チベットは中国の一部であるという主張を、世界ウイグル会議の議長ラビア・カディールさんは東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)の中国からの独立を主張している。

 いずれにしても種族には以下の6つの法則(種族工学)があり、これらの法則を無視すると遺恨が残るものだ。

1)種族には定住性がある。
2)種族には固有の言語がある。
3)種族には固有の文化がある。
4)種族は固有の宗教を持っている。
5)結婚を主として種族の中で行う。
6)種族は他の種族によって支配されることを好まない。

 それにしても、この6つの法則に則ったオスマン帝国のミレット制(イスラームが根源的に持っていた特徴を高度に実践したもので、外交権を与えられるものとないものがある)は、欧米社会の拡大が落ち着いた現代だからこそ、斬新に感じるものだ。

 広大なオスマン帝国はさまざまな宗教、文化、人種が混在しており、この多様性を保護する仕組みとして、非ムスリムの異教徒たちを宗教共同体(ミレット)ごとに自治的生活を送らせ、共存させる体制『ミレット制』が整えられた。貢納の義務を除いては待遇や出世等に違いがあるわけではなく、また個々のミレット間での対立があったとしても、オスマン帝国がその権威とイェニチェリと呼ばれる常備軍を中核とした軍事力を背景にして仲裁を行い、それらを機能的に運用する官僚機構と宗教や言語、文化に関らない人事登用制度が多様な帝国を支える原理として機能していた。 『オスマン帝国 イスラム世界の「柔らかい専制」

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。