国民は南海トラフ地震80%予測に騙されている!

 2024年3月8日金曜日の参院予算委員会質疑の要点を説明します。非常に重大な問題提起なのでどうか最後までお読みくださるようお願いします。

【地震動予測地図】写真・パネル①
 南海トラフ地震の発生確率が科学的根拠なく水増しされている、その影響について。
 石川県はウェブサイト上で地震のリスクが小さいことを企業誘致のアピールポイントとしていた。2016年に発生した熊本地震でも、熊本県は大規模地震と無縁の土地柄などと安全性をアピールしていた。
 石川県や熊本県は何を根拠にして地震リスクが低いと判断したのか、この「全国地震動予測地図」(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)に薄い黄色に塗られているからだ。薄い黄色の部分が確率が最も低い地域で、黄色、オレンジ、赤、濃い赤の順で確率が高いとされる。
 これを見ると、濃い赤の地域は関東から四国にかけての太平洋側に集中している。南海トラフ地震の発生確率が70〜80%と非常に高いとされている。しかし現実には今回黄色のエリア熊本や能登半島で震度7の地震が起き大きな被害が出た。

【実際には地図は2種類ある】写真・パネル②
 パネル①の地図は別の種類の地震を二つ合成してしまっている。そこで、二つを分離して比較しよう。
 左側が南海トラフなどの海溝型地震の確率、右側が活断層などの浅い地震の確率を示した図だ。左右でまったく印象が違う。つまり活断層は全国各地に数千カ所もあって、そのどこでも地震が起こる可能性はあるよ、ということ。ひとつの活断層による地震は数千年に1度しか起こりませんが、一か所の確率が仮に0.1%だとしても、それが数千カ所あれば毎年どこかで大きな地震が起こっても不思議ではない。熊本県地震も能登半島地震も活断層型地震、図の右側です。
 しかし図の左側、海溝型の南海トラフ地震は「30年以内の発生確率は70〜80%」、「想定死者は最悪で32万人」と確率と被害規模が飛びぬけて高く度々ニュースでも取り上げられるし、地図をみた国民の多くも次は南海トラフだろう、と思ってしまう。
 なぜ、こんなに南海トラフ地震だけ高い確率予測が広まっているのか。
 小沢慧一著「南海トラフ地震の真実」という本(質疑では手持ち)を紹介。調査報道が評価され昨年12月に菊池寛賞を受賞している。優れた調査報道である。
 地震の発生確率の計算方法には2種類あり、ひとつは多くの地震に用いられている「単純平均モデル」、これは例えば過去に平均200年ごとに地震が起きているなら、今後も同じ間隔で地震が起きる可能性があるというもので、つまり過去の発生間隔の平均から確率を出す方法だ。
 ◎そしてもう一つが南海トラフ地震だけに使われている「時間予測モデル」で、簡単に言うと過去の地震で発生した地盤の隆起量をもとに次の地震がいつ発生するかを予測して確率を出す。根拠となる地盤隆起の測定は江戸時代の古文書であてにならない。しかもこの計算方法は南海トラフ地震だけに用いられている。

【地震本部の議論】写真・パネル③
 おかしなことに「時間予測モデル」を採用しているのは日本のみ、イギリスの有名な科学誌「ネイチャー」には否定的な論文が出ている。
 地震の発生確率を算出し、公表するのは政府の地震調査研究推進本部、いわゆる地震本部だが、いまから11年前、2013年2月21日に行われた地震本部の第44回政策委員会・第36回総合部会で南海トラフ地震の長期評価を改訂する議論がされた。
 合同会議では「時間予測モデル」による60%程度という高い発生確率と、「単純平均モデル」による10〜20%程度という低い確率のどちらを公表するか、専門家委員のあいだでも意見が割れていた。
 地震本部のウェブサイトで過去の会議の議事録や資料が公開されているが、この日の会議では、なぜか南海トラフ地震の議題だけ議事録と配布資料が非公開とされている。ここが大問題。公開すると不都合なことがあったからだ。
 その配布資料を今回入手した。
 公表する確率をどう表記するか、複数の案が示され、そのメリットとデメリットが挙げられている。
 パネルの左側、「更新過程確率」というのが単純平均モデルによる確率で、10〜20%程度とある。右側に「時間予測確率」として60%程度とある。このどちらか、もしくは両方をどのように表記するかが議論のポイントだった。
 資料には4つの案が示されていますが、結論としては主文では案3、時間予測モデルの60%程度だけを公表し、単純平均モデルは出さない案が採用された(この60%はその後2018年に70〜80%に変更されてる)。しかしそのデメリットとして赤い四角で囲った部分に「精度の低い時間予測モデルのみを提示することになり、科学的事実に反する恐れ」と書かれている。だから非公表だったのだ。
 科学的事実に反する案が、会議の結論として採用され、いま独り歩きしている。

【国土強靭化の予算付け】写真・パネル④
 政府の出す情報が不正確だったり、科学的事実を歪めたものだったりすると、国民の防災意識が緩むだけではなく、政策決定と予算の使い方にも大きな影響が出てしまう。
 次に国土強靭化の予算付けを見ていく。
 国土強靭化推進の枠組の資料だが、一番上に「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」とある。
 安倍政権時の2013年12月に、自民党の二階俊博議員が中心となって議員立法によりこの基本法が成立して、翌年基本計画が閣議決定され、事業が始まっている。
 この国土強靭化計画の予算総額は59兆円にものぼる。
 パネルの枠で囲った部分に、3カ年緊急対策と5カ年加速化対策とある。通常予算だけでは満足できずに更に追加で上積みを行ったわけだが、3カ年のほうが2018年度から3年間、5カ年のほうは2021年度からの5年間、補正予算で前倒し計上されているので、直近の今年度補正までで4年分、これら7年分の追加分の予算額を合計すると、国交省の分だけでで約10兆円になる。
 これは直轄事業と補助事業に分かれるので、うち補助事業は6兆円。この補助事業は県別の予算配分額がデータで出ているので、集計してみた。

【県別トップは和歌山県】写真・パネル⑤
 都道府県別の、人口一人当たりにいくらこの3カ年緊急対策と5カ年加速化対策の7年分の予算が配分されているかを示したグラフ。この集計にはデータ量が多くかなり手間がかかった。
 県別のトップは和歌山県。二階さんの地元。次に2位が高知県、3位が徳島県。石川県は低い。トップ3県とも南海トラフ地震の被害想定地域にあたる。つまり、国土強靭化の名のもとに配分されている公共事業予算が、政府が発生確率最大といっている南海トラフのエリアに重点配分されている。
 水増しされた南海トラフの発生確率が公共事業の予算配分を歪めているのだ。

最後に【地震保険】について。
 地震保険の制度が出来たのは1966年、いまから60年年近く前です。できた当初は世帯加入率が約20%、そこからだんだん下がってきて10%を切っていたが、1995年の阪神淡路大震災で加入率が上向き、さらに東日本大震災のあと更にペースが加速して直近では35%。これを火災保険への付帯率でみると約70%、持ち家のひとは7割が加入していることになる。保険金額も段階的に引き上げられて現在は上限額が家屋で5000万円まで上がった。
 能登地震での建物倒壊の被害を受けた方への補助の増額が議論されていたが(300万円では話にならない)、本来は地震保険に入っていれば、全部は無理でもかなりの部分が保険金で賄えるはずだ。この加入率をさらに上げて100%に近づけることが必要。地震保険は火災保険とは違って保険料率を国が決めている。この料率は県ごとに大きく違っているが、問題は料率の計算の根拠に時間予測モデルを使っているのかと鈴木金融担当大臣(財務大臣兼任)に問いただした。すると「時間予測モデルは使っていない」という答弁を引き出すことができた。ホンネとしては「そんなあてにならない計算方法は使うわけがない」ということだろう。これで南海トラフ地震80%予測について政府の一角が崩れたと思ってください。

【まとめ】
南海トラフの発生確率に水増しがあり、それが様々な悪影響を与えていることを質してきたが、そもそも、この地震大国日本において、地域毎に異なる発生確率に基づく予測地図を公表することで、国民の防災意識に油断が生まれるなど、様々な弊害が起こっているのではないか?
 地震学者の橋本学京太名誉教授が3月6日、記者会見を開き、この全国地震動予測地図について「低確率の地域の防災が手薄になる実態があり、やめた方がいい」と主張している。既に新たな論文も出した。地震学者たちも目覚めてきている。
 今後は科学的にも疑問だらけの発生確率や地図の公表はやめて、日本国いつでもどこでも発生しうる地震の対策を、国民一人一人が油断せずに行うこと。また歪められた政策を是正すること。
 以上、アジェンダを設定し、ファクトとロジックで解き明かしながら、岸田総理と関係閣僚に詰め寄りました。これで少しは変ればよいかと思う次第です。
 なお、残念ながらこれほど重大な質疑について、東京新聞しか記事にしていない。テレビはNHK中継はあったものの民放はまったく触れることもない。

 長文、最後までお読みいただきありがとう。〔了〕

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?