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AIがいる未来に声のプロはどう生きるか 第1章


ナレーター、声優、アナウンサーといった声のプロたち。直面しているAIの波は、クリエイティビティにどのような影響を与えるのか。AIは現在どこにあって、どこまで進むのか。そして音声表現はどうなるのか。現在と未来の洞察をお届けします。


<<第1章 AIの到来>>


【AI:声のプロの存在を揺らす問い】


2023年。生成AIの大波が文章、画像、映像、プログラムを覆った。もちろん音声にも。日本語においては、まだまだ先だろうと予想していた変革スピードは、ビッグデータとディープラーニングによって、想定をはるかに超え、あっという間に実用に近い表現に追い付いてきた。

AIソフトと、パソコン、生成したい声の元となる音声データで、15分ほどの日常会話などの録音があれば音声生成ができるという。
「情報を伝えるナレーションから順にAI音声に取って代わられる」「感情表現も豊かで何度でもリテイク可能、しかも低コスト」「日本語には壁があると、のんびりしているとすべてを奪い取られる」という過剰な絶望論。
「バラエティや感情表現が必要なジャンルは安泰だろう」と言う根拠なき楽観論もある。

声を使うプロたち(ナレーター、声優、アナウンサー)の不安の声が消えない。AIの加速度的な進化に、心がざわつき、悲観と楽観が交差、精度に不安と恐怖を覚えている。数年後の声の仕事の未来が見えなくなってしまっている。

生成AIの一つであるChatGPTは大規模言語モデルである。それは新たな知性なのだろうか。これまでもパソコン、メール、スマートフォンなどの新しい技術が私たちの仕事のスタイルを大きく変えてきた。それでもAIのインパクトはこれらをはるかに凌(しの)ぐものなのだろうか。

未来予測は白黒ハッキリつけられるわけはなく、ほとんどはグラデーションのように「どちらかといえばAよりBの可能性が高い」という程度しか言えない。
それでもその可能性と不可能性を探っていきたいと思う。予想できない、不測のリスクの可能性は否定できないにしても。

【平均以下のナレーターの仕事は失われる】

現状のナレーション分野でAIにできることはなんだろう。まずは「情報を正確に伝えること」しかも長文でも疲れを知らない。NHKの報道では、若干の違和感はあるが、すでに実装されている。

VPやweb、オーディオブック等の多くの仕事、実力知名度が平均以下のナレーターの仕事はAIに取って代わられることが想定できる。すなわち代替可能な、誰でもいい(someone)仕事は半分以上はなくなるだろう。逆にOnly Oneの仕事はなくならない。

ただしそれは技術だけが原因ではないことも考慮しなければいけない。いつの時代も大きな波がある。時代の変化の波間に、落ちる人や職種が出てしまう。それが歴史の残酷な真実だ。それはしっかり考慮しておくべき視点である。

すでに歌の世界では、正確な音程に加え、ブレスによるリアルさや、人間の聖域と考えられていた感情表現も入ってきている。それらはまだ手作業の部分だと思われる。しかし感情表現は必ずしも聖域ではない。アニメ演技のテンプレート的な表現はすでにAIが追いつこうとしている。ガヤや生徒Aなどの一言のセリフは今にも代替されるだろう。

各都道府県でのNHKローカルニュースなどは、CGキャラクターとAIアナウンスですぐに実現可能だろう。大きな違和感がなく、しかもクオリティもより高いかもしれない。

【アクセントと機械学習】

先日コンビニに入ると、とても流暢な、商品紹介のAI音声が流れていた。これが人工のものであると気付いたのは一点のアクセントだった。人間ではこんな間違いはしないであろう部分。かなりの精度のナレーションだったが、複合語でのアクセントが違うのである。
チュウカ\マンがチュウカ マ\ンになっていた。
まだ人による手直しがなされていないのだ。同時にこのままでも、この使用目的なら、充分通用するレベルでもあるとも思えた。

NHKで現在使われているAI音声も同様に複合語の処理に違和感が残ることがある。調整作業を行なっている人間の、アクセント知識の問題なのかもしれない。しかし多少の誤差は仕方ないと認めてしまえば、大きな齟齬はない。もともと人間でも間違えるものだから。

ただこのまま手を入れないで、ディープラーニングが進めば、そのアクセントが標準になってしまう可能性が否定できない。機械学習による劣化コピーが起こるからだ。もっともらしいデタラメが溢れる中。アクセントは、デタラメの多数派がの標準化を握ってしまうかもしれない未来があり得るのだ。

<<次章予告>>

「情感は機械の手に落ちるのか?」アニメからニュースまで特色ある声はAIにとって代わられる宿命なのか、それとも人間独自の表現力の前では揺るぎないものなのでしょうか。次回第二章、表現の限界を突き詰めます。

次章「AIの可能性」、お楽しみに

©2024 義村透

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