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ハワイのサーフ少女

カメラマンになったきっかけは、学校をドロップアウトしてしまって、他にやれることもなく、趣味のカメラで食って行けたらいいなと思い、仕事としてカメラマンとして始めました。きっかけとしては、アイドル歌手の写真を撮って、そのタレントさんのファンの人たちに写真をコンサート会場とかで売っていたのですが、それがプロというかお金をもらうことのきっかけになりました。

そこから、写真で食っていくっていうのはどういうことなのかなぁ?と考えましたが、あまり深く考えずに、アイドルの写真を撮って、それでお金を稼ぐという、いってみれば、小銭を稼いでいたわけですね。

ある時、とあるテレビドラマの撮影現場に出くわして、遠くから写真を撮っていたら、スタッフの人から呼ばれて、ついていったら、とんとん拍子に撮影の仕事をやることになりました。

趣味が写真なので、スチールマン(現場写真)のカメラマンとして、まずは弟子入りをしました。弟子入りといっても、メインでやってるカメラマンの後ろで撮影をするような形で、撮影現場に慣れる感じでした。スチールマンは、テレビ局に写真行って打ち合わせをする必要があるので、その間は、僕一人で現場スチルを任されました。

そんなこんなで、撮影技術と、お金を儲ける術を身に付けたと言う感じです。

これは、僕がカメラマンとして、一本立ちしたぐらい時の事なのですけど、とあるサーフブランドのキャンペーン写真を撮影することになり、その時のモデルさんがハワイから来た日系二世で、19歳のプロになりたての女の子でした。撮影するのはレディースのウエットスーツだった。

彼女はハワイでプロのサーファーになり、ローカルでは、そこそこの人気があって、これからワールドツアーを戦っていこうと言う、言ってみれば、駆け出しのプロサーファーでした。彼女は、ハワイで生まれて、ノースショアに住んでいます。日系の家庭に多い貧しい暮らしだったらしい。子供の頃からお金のかからない、サーフィンであそんでいたらしいです。地元のハイスクールに通いながら、サーフィンやバイトをしていたらしい。

サーフィンはあくまでも趣味で、将来の目標は特に持っていなかったようだった。ハワイではサーフィンはお金のかからないスポーツで、サーフボードも友達のお兄ちゃんからもらった物で、当然中古であり、女の子が使うにはちょっと大きめだったらしい。

彼女のサーフスタイルは、とにかくアグレッシブ。アグレッシブにどんどん波を攻めていくスタイルだった。なぜそうなったかって言うと、最初にもらったサーフボードが中古で浮力が少なく、大きな波じゃなきゃ乗りこなせなかったらしい。それに浮力が無いので、ターンをするにもパワーが必要で、必然的にパワフルなサーフスタイルになったらしい。そのスタイルが人気を生み、彼女はメキメキと頭角をあわらし、プロになったと言うことらしい。

僕は彼女のウエットスーツ姿で、サーフィンをやっているシーンを写真に収めたかったのだが、どうも表情が晴れない。なんでも、生まれて初めてハワイを出たらしくて、ホームシックにかかっているようだった。それにハワイの青い海と、湘南の暗い海の違いで、気持ちも乗らずに、良い表情が作れなかったのだ。資料でもらった彼女の表情はとても晴れやかで、19歳らしく、あどけなさと大人っぽさが、いい感じに混ざりっていた。でも今は、すごく緊張して、彼女独特の笑顔が作れていない。

仕方がないので、雑談で心を解きほぐそうと思って、さまざまなことを彼女に聞いた。なぜサーフィンをやっているのか?ボーイフレンドのこと、ハイスクール時代のこと。その中で、食べ物のことになり、ハイスクール時代に、近所の海老養殖場でバイトをしていたことの話になった時に、表情が少し緩んだので、『ガーリックシュリンプなら作れるよ』と彼女に言ったら『うん、食べたい』と、はじめて素直な笑顔を見ることができた。

ハワイのノースショアでは、ガーリックシュリンプがローカル料理として人気があり、彼女も好きなようだった。僕は料理が趣味で、いつでも料理が出来るように、バーベキューセットを車に積んでいる。スーパーで海老を買ってきて、ガーリックシュリンプを作った。彼女はそれを食べて故郷思い出し、表情が晴れやかになった。

その後、彼女が波に乗っているところを撮影した。カットバックで水飛沫が上がっているところ、波待ちをしているところなど、セミロングの彼女の髪から水滴がしたたる。大人でもなく、少女でもない、19歳特有の表情を引き出すことができました。

このとき思ったことは、表情を表面的に作るのは簡単だけど、それはプロのモデルさんの仕事で、一般人を起用して撮影をするときには、心を先に作った方が、表情を作りやすいという事。心と身体は一つだと思います。悲しい気持ちの時は、悲しい表情になるし、楽しい気持ちの時は楽しい表情になります。

僕はカメラマンなので、被写体の方に必要な表情を作り出さなければいけません。心を先に作るために、会話や料理などを使って表情を作っています。

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