あるべきものが、あるべき場所に在れ / Internet of Things のもう一つの解釈



それまでも、工作とか、簡単なプログラミング、ホームページの制作、画像編集、DTMなど、やっていた。しかし、私にとって、コンセプトと発明をともなった作品らしい作品は、2007年に作った「雪風」と「水面」という作品が最初の作品だった。

この作品を作った背景として、当時、数多くの「コンピューターを使った芸術作品」が、ただ画面上のピクセルのバリエーションを増やすことだけに終始していないか?という問題意識があった。

当時の私は、コンピューターをただの映像装置ではないと思っていたし、もっと大きな可能性を感じていた。2007年当時は、そのアイデアを「画面上のうそ臭い物理シミュレーションではなく、人間と地続きの物理空間における制約のなかで動作する物質を伴った情報が、われわれ人間とコンピューターとの間にセクシャルな関係を結ぶ」などと表現していた。そして、後に自分の中で整理がつくのだが、結局のところ、それは、物流の問題に行き当たるのだ。

「あるべきものが、あるべき場所に在れ」

重要コンセプトは、コレである。2007年当時、すでにAmazonは日常の一部になっていて、ある物が必要というフラグさえ立てれば(要するにAmazonサイト上で1-Click注文をすれば)、しかるべきコストとウェイト(代金と実際に商品が届くまでのインターバル)さえガマンすれば、あるべきものが、あるべき場所に在る状態になったわけである。(言わば遅いインターネットだ。そういえば、自分で手紙を出すよりも、むしろメールが身近な人たちが、かつて、郵便のことを郵政省メールと呼んだように。)

当時の僕がやったことは、すでにAmazonが世界規模で実現した素晴らしい先見の明がある(Amazonは1994年からこれをやっていた)コンセプトを、ただメディアアートのフォーマットに書き直すだけのことであった。

つまり、あるべきものを、ただあるべき場所に在らせられれば、それが作品になったのである。

それは、「雪風」であれば、帯電防止剤を浸透させた、発泡スチロールの粒子を、透明なアクリルのケージの中で、周囲の音声に連動するよう1秒間に10回程度のON/OFFによって制御された16個の電動ファンが作り出す気流によって、ただ、あるべき場所に在らすだけの作品であるし、「水面」であれば、それは、水面に突っ込んだ指先の場所をカメラが読み取り、画面上の対応する場所に、マウスカーソルを、あるべき場所に在らすだけのことであった。

ただそれだけの作品なのである。

インターネットのパケットが、情報の世界において「あるべきものが、あるべき場所に在る」を実現したように、インターネット時代における現実空間においても、物流こそが、最重要課題なのである。それを人々はIoT、Internet of Thingsと呼んでいるのだ。

正確にはIoTには2種類あって、現状は、一般的に、物がインターネット上のインスタンスとシンクロする事をIoTと呼んでいるが、それはまだ物流が足りないIoTであって、将来的には物流を備えたIoTこそがIoTと呼ばれるようになるはずだ。すでに、(デスクトップに座った)人のためのインターネット(Internet of Human)が、もはや、スマホによってインターネットのノードと化した人(Human of Internet、言うなればインターネット人)となっていることを後追いするように、Internet of Thingsは、物流を備えたThings of Internet(インターネットそれ自身と一体化した物たち)となるはずだ。

閑話休題、この「あるべきものが、あるべき場所に在る」式のコンセプトによって作られたメディアアート(ドローン、音響浮揚、空間プラズマ、などなど、枚挙にいとまがない)は、結局のところAmazonの変奏であり、ただ画面上のバリエーションを増やすがごとく「あるべきものが、あるべき場所に在る」ことのバリエーションを増やすことでしかないのだ。

それに何か問題でも?

これは、まだまだ、開拓し尽くしてないコンセプトなのだと思う。このコンセプトから導き出されるすべての可能性の検証は、世界が束になってもまだまだ終わりそうにない。

そして、どうも、自分の中にも、そういう時代に育ったせいか、「あるべきものが、あるべき場所にある」べきだという強いモチーフがあるようで、部屋の調度のレイアウトや、整理整頓には、こうしたいという強い欲求がある。(強い欲求はあるが部屋は散らかっている)

特に精密位置決め装置には、うまく説明できないが、なぜか心をとらわれる。

そしてそのモチーフは、どういうわけか、なんの正確性も持たない、むしろ暴力的な、「Unity」という作品に繋がっていくのだが…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?