雪風 浮動粒子式スペクトラムアナライザ

※このページは2007年制作当時のサイトのページをそのまま移植した内容です。

2007
幅661mm 高さ250mm 奥行き46mm

パウダービーズ、アクリル、ステンレスメッシュ、DCファン、塩化ビニル材、LED、Gainer、Mac

制作意図

デジタルデータの離散的な数値を、物理空間に放出された風の強さに変換することによって、 パウダービーズの分布の変化という連続量として出現させることを目指した。

その為、隣り合ったファン同士に吹き上げられたパウダービーズの高さが連続的に分布するように、16個の各ファンの出力を一つのケースの中に合成している。

構造

パウダービーズが封入されたケースユニット(上部)と、ファン+整流板が16個横一列に並んだファンユニット(下部)から成る。

マイクからの音声信号をMax/MSP上で高速フーリエ変換し、各周波数帯ごとのパワーに対応して、16個のファンの回転数を制御する。

また、マイクの周波数特性に合わせて各周波帯ごとの出力に補正を加えている。

ファンの回転数の制御は、Gainerのデジタルアウトx16をそれぞれ、100ms周期のデューティー比を変化させる事による、簡易的なPWMで実現している。

通風性を確保するために、ケースの上面と底面にはステンレスメッシュを使っている。上面のステンレスメッシュには、照明として等間隔に16個のLEDが装着されている。

また、静電気によるケース内面へのパウダービーズの吸着を防ぐために、パウダービーズ、アクリルケース双方に、帯電防止剤を塗布している。

制作後記

コンピュータという優れた情報装置と、この実空間との界面は、ディスプレイとキーボード/マウスという、 すべてがA4サイズに収まってしまうような極めて狭い界面に限定されている。

この狭く限定された界面における、独特の制度を内面化することによって、人は情報デバイスを使った情報の読み取りと書き込みを行っている。

情報技術を利用した新たなメディアの開発は、この制度を更に強化してしまう共犯者となる可能性を常に孕んでいる。

そもそも情報とは何か。

例えば、車のスピードは、30km/h、40km/hと表現されるが、それ自身はスピードの名前でしかない。

そのスピードの名前が何を意味するかは、未だ確定していない。

実際にその速度で運転してみたり、急ブレーキをかけたり、ハンドルを回した時に、そのスピードの名前が指していたものが、実際の車の挙動として再生される。

同様にこの装置では、それ自身では未だ何を意味するか未確定なスペクトルの数値が、 風に吹き上げられたパウダービーズ同士の複雑な挙動に変換されて、情報として放出される。

それは、制度によって解釈されるのを待つ、既に名前の付けられた数値を表す記号の集合としてのグラフではなく、 目の前の空間に存在を占め、それ自身の持つ独特の動作原理によって駆動する一個の反応系である。

そしてそれは、我々が身を置いている実空間の物理法則と地続きに展開する現象である。

風が粉を吹き上げたときにどのような挙動を見せるか、人は既に知っているので、 実空間での経験を材料に、人の知覚はこの装置の中で起っている現象を追体験することができる。

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