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琉球廻戦 4

【肆】


知念は自らの持てるありとあらゆる知恵、知識、教養、権謀術数を脳内でフル回転させていた。これから自分に降りかかるであろう尋問を巧く掻い潜り、これまで通りの生活を続ける道を探っていた。

暑川塩麹。

この男は暑川組の組長としてはまだ日が浅かったが、関西の方でもその悪名は轟いており、兎に角考えが読めず気分屋で、自らの意に沿わない者は問答無用で葬ってきたサイコパスである。

「なぁ、なんで彦逃げたん?」

暑川からの最初の質問が来た。

「おそらく自分が思うに、なのですが、彦は長い檻の中での生活にストレスを感じていて、そこへ持ってきて飼育係の担当者が変わった事によって更なる負荷がかかり、外の世界へ逃げ出したいという欲求が強まった結果の行動かと思われます。」

「ほなやっぱりお前のせいちゃうん?彦の餌はどうやって調達しとったん?」

「…彦は関西のたこ焼きやお好み焼きと言ったご当地グルメが好きでしたので、ネットで発注して用意しておりました。」

「あぁ、やっぱ俺と趣味が合うわ。愛しいのぅ、彦。ところでネットで発注ってどないしたらええの?」

「はい。Amazonで注文しておりました。」

すると、暑川は何か思い出したのかクスクスと笑い始めた。

「あのさ、ごめん、ちょっと思い出したんやけど、俺もAmazon良く使うねん。それでさ、ウイスキーとかライカムで買うよりAmazonで買った方が安いから良く注文してたんやけどな…」

「はぁ…」

「配達員のオッさんの頭がな、ハゲ散らかしとんねん!笑うでホンマ!お前曲がりなりにもAmazonの配達員ちゃうんかて!アマゾンいうたらジャングルやろ。そんな会社に勤めときながら自分の頭は焼け野原やがな!言うて!腹痛いてホンマに!あははは!!」

暑川は急に話の腰を追って自らの体験談を語り爆笑し始めた。知念は予想外の展開ではあったものの意外に悪くなさそうな雰囲気にホッとし、暑川の話に上手く乗っかる事にした。

「ははは、これは一本取られましたね!」

すると暑川は一転して不機嫌そうに話し始めた。

「なんかお前、愛想笑いしてない?いや、ええねんで?社会でさ、おもんない上司の話聞く時に愛想笑いって絶対必要やん?だからお前の対応は間違ってないんやろけど、俺そう言うのなんか負けた気がすると言うか、自分が若い頃毛嫌いしてたおもんない大人になってしもたんちゃうかって、ちょっと嫌やねん。」

知念の血液が逆流する。

「そんな…違いますよ…。」

「あかん!それではあかんぞ!俺にとってな。…そうや!お前さ、俺がおもんない事言うた時は問答無用で『おもんないです』て言うてみぃ!!」

「いや…面白いですよ…本当に…」

「あかんあかん!いや!と言うかそんなんまだまだ甘いな!『おもんないです』ぐらいではワシの闘争心は焚き付けられん!そや!『面白いとか面白くない以前に口が臭いです』ってどうや!?」

知念は想定していた会話の流れと実際の流れが違いすぎる事に発狂しそうなほど戸惑っていた。

「いやそんなの…言えないです。失礼ですから。」

「言えないですってなんや!!おぉ!?あかん!言うてもらうぞ!ワシの喋った事が面白くなかった時!絶対言え!『面白いとか面白くない以前に口が臭いです』ってな!!」

知念は汗だくになりながら自分の生き残る道を脳をフル回転させて考えた。暑川の好みそうな選択肢を、全身全霊で模索した。

「そんでな、その配達員が言うねん!『沖縄の夏は日差しが強くて参りますね。お客さんも帽子とか被って熱中症対策して下さいね』って!いやちゃうちゃう!!お前や!!お前の方が直で日差しのダメージ喰らっとるがな!!」


「面白いとか面白くない以前に口が臭いです。」


ズドン!!

知念の脳漿が暑川に発射された弾丸により組事務所の壁に叩きつけられた。

「自分とこの組の組長に向かってなんちゅう口の利き方や。考えられへんでホンマ。」

暑川はパンパンと手を叩いて後方の部屋に向かって呼びかけた。

「おーい、舞浜兄弟!出番やぞー。」


「『はい』」

全く同じタイミングで発せられた返事がした後、組事務所の奥の扉から3人の人影が現れた。


つづく

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